Not even one meowその2 | That's where we are

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the Church of Broken Pieces
(アメリカ救急医の独り言と二人言)

猫同伴でERにやって来た患者

(「その1」は上矢印をクリック)

入院が必要になり

さて、猫はどうする?

 

うちへ連れて帰ることも考えたが

同類の犬とさえ仲良くしてくれない犬2匹と

(誰かが血みどろになること、確実)

猫アレルギーの男2人(夫と息子)がいる

夫は猫が嫌いだが、猫も夫が大嫌い

 

通りかかった、同僚に

もしかしたら数日間預かってくれないかという思いを込め

「ね、もしかして猫、好き?」

「いや、大っ嫌い」と笑顔で返された

彼、やっぱり犬派だった

だって、この人の髪質

うちのパーシー(スコッティー5カ月)にそっくり...

(ちょっと巻き毛でモコモコ気味
ブラッシングがとってもタイヘン...
もちろん、パーシーのことです)
 

アニマル・コントロールの代表番号に

電話かけたが、やはり留守電

営業時間はとっくに終わっている、が

『...緊急の場合は以下の番号へ連絡を』

 

アニマル・コントロールの仕事は

野犬とか迷い犬(その他の動物)の確保、駆除、保護

飼い主がはっきりしている動物の預かり所でないのは知っている

でも、どうして良いのか分からない

 

猫を持って帰ってくれる人を今すぐ探して下さい

病院内は(人間以外の)動物の持ち込み禁止です

それでなければ、今すぐ退院していただきます

 

そう言うのは簡単だけれども

何か間違っている様な気がする

 

この状態、緊急と言えば緊急よね

ええい、ままよ、とアニマル・コントロールの

緊急連絡番号へ電話をかけてみた

 

『アニマル・コントロール、緊急連絡番号です』

 

こういう電話をかける時の私は

出だしは思いっきり低姿勢の日本人になる

 

「お忙しい所、それも夜間に申し訳ございません

そちら様のお仕事ではないとは思いますが

こうこう、こういう事情でして...」

 

『その猫の飼い主

猫の所有権をあきらめるのですか?』

 

いっそ、所有権を放棄しちゃった方が

私たちには楽なのよね、実際のところ

今晩はどうにかやり過ごして

朝にシェルターへ連れて行けば良いのだから

 

でも、患者に猫をあきらめる気は全くない

 

それどころか、おそらくこの猫は

彼のたった一人の家族なのじゃないのか?

血のつながった人は何処かにいるかもしれないが

誰一人、連絡しようともしなければ

誰一人、訪ねて来る人もいない

 

そして、患者はERにやって来た時

猫を「ベビーシッター」の所へ連れて行くつもりだと言った

「ペットシッター」じゃなくて「ベビーシッター」

 

患者は着古した服を着ているが

猫は本当に真っ白でよく手入れされていた

ケージの中には綺麗な毛布が敷かれ

新しそうなオモチャまで入っている

 

病院から電話がかかってきたのは初めてだと

電話に出た男性は言った

あら、そうなんですか?

結構ありそうな話だとは思うのだが

結局は親類なり友人なりが

ペットを迎えに来て問題にはならないのだろう

 

『そういう事情なら、引き取りますよ

今から迎えに行きますから』

「えっ、それは大変有り難い!」

 

ああ、今夜はなんてラッキーなのか

あ、そうそう、これは確かめておこう

 

「つかぬことを伺いますが

そちらに猫を預かって頂いている間

猫の安全は保証していただけるのですよね?

ほら、なんて言うんですか

ガス室送りなんてことにはなったりしないですよね...」

 

『5日以内に引き取りに来てもらえるなら

確実に持ち主に返します

5日以上になると、アダプションに出したりで

保証はできませんが』

 

タイムリミットは5日!

 

「あの、5分くらい頂いていいですか?

飼い主に説明して了承を取ります

5日以内には退院になると思うので

大丈夫だと思います」

 

5分でかけなおします、と電話を切り

患者の部屋へ戻った

 

猫は相変わらず、ケージの中で

壁の方を向いたまま

私が部屋に入って来ても見向きもしない

 

アニマル・コントロールとの会話を説明し

迎えに来てもらっていいですか?と訊いた

「それは、バスで迎えに行ける所かな?」

「私はバスに乗らないのでわかりません

それほど遠くないし、大通りから離れていないので

近くにバス停はあると思います」

患者が5日以内に引き取りに行かなければ

猫はどこかへ行ってしまうかもしれない

「分かりました、お願いします」

 

心の中で、バンザ~イと叫びながら

アニマル・コントロールに電話をかけなおした

 

「あ、先ほど電話をさせて頂いた者ですが...」

『ああ、先ほどの方ね

僕の同僚に話したのだけれど

朝まで引き取れないことになりました』

 

(その3に続く)

 

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