騎士きどり　knight kidori

母が、リビングでテレビを見ていた。
一緒にテレビの前に座ると、
我が家のホームビデオだった。

ビデオからBlu-rayにダビングしたくて
ハードディスクに溜め込んでいたもの。

「見始めたら、おもしろくて」
画面には父も写っていた。

最愛の妹が中学生だから、
20年くらい前のもの。
父は小走りに走ったりしていた。
かつての夫を、母はどう思って見ているのだろう。

画面の中では、
最愛の妹と私が
たくさん会話をしていた。

人生で、この頃が一番貧しくて
一番幸せだった。
毎日お金の心配ばかりして奔走していた。お金の心配しかしてなかった。
生活能力もない両親と、
幼い妹と、
世の中のことをあまり知らない私、
生きるのに精一杯だった。
電気を止められないように、
母がまた借金してこないように、
毎日ハラハラしてた。
それでもこんなにたくさんのものを持っていたんだ

今の私はこんなにからっぽ
こんな思いをしたくて
たくさんビデオを撮影し
日々を記録したわけじゃないのに、
ビデオの中に私の姿はほとんどなくて
私の声だけがずっと残っている。

まるで、
いつか失くすことを知ってるかのように

眩しい日々を記録し続けている。

なくしたよ、
全部なくしちゃったんだ
守りたかったものなんか、この日々だけだったのに。

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