世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

●エージェント竹中平蔵 犯罪特区システム≒国家戦略特区

2017年09月09日 | 日記

 

市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像
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「国富」喪失 (詩想社新書)
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国家戦略特区の正体 外資に売られる日本 (集英社新書)
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●エージェント竹中平蔵 犯罪特区システム≒国家戦略特区 
 常々、竹中平蔵という人物が東京地検特捜部の摘発を逃れられるのは何故なのかと不思議に思っている。個別の案件一つ一つでは犯罪要件を満たさないが、十数個の案件で灰色であるなら、あわせ技一本ではないが、犯罪を摘発できるのではないかと素人目に考えてしまう。それほど、この竹中平蔵と云う人物の心証は“まっ黒”なのである。

 あくまで想像の域は出ないのだが、小泉政権における構造改革において、植草一秀に変り急激に頭角を現した竹中平蔵は、極めて親米学者の印象がつきまとう。親米学者と言えば聞こえが良いが、言い換えるなら、ウォール街の一部勢力(新市場原理主義集団)から差し向けられたエージェントである可能性が濃厚だ。彼の言動の原理には、世界金融勢力が日本において、何らかの形で参加できる条件を整える役割を果たすプロフェッショナルの印象が濃厚だ。新市場原理主義が、一時の勢いを失い、その非を修復する期間に入っているにも関わらず、アベノミクスにおいて実験的に日本を実験場にしている試みは犯罪的だ。

 2005年から今日に至るまで、自民党小泉の構造改革及び安倍のアベノミクスにおいて、その企画立案の主たる提起者として君臨し、小泉政権と安倍政権において、世界金融グループが跋扈しやすい環境整備に暗躍している。しかし、竹中は、個別の案件で自己権益を誘導したり、収賄的行為を実行しないので、個別の事案で容疑者になる可能性を薄めている。おそらく、特捜部なども、竹中の犯罪を捜査した可能性はあるのだろうが、あまりにも舞台が大きすぎ、どこで彼の犯罪が行われているのか、どこで、どのように利益を得ているか、立証に苦慮している様子が窺える。

 また、りそな銀行疑惑などにおいては、米政府に関与する勢力からの圧力もあり、竹中の行為は、アメリカの意思の代行だと云うメッセージが伝えられているのかもしれない。この小泉、安倍晋三の政権時において成長を著しくさせたアントンプレナー的オリックス、パソナ、森ビルや日本郵政、シーティーバンク、ゴールドマンサックス等々にとって企業成長に有益な環境整備を提供した壮大な犯罪は、贈収賄の要件を満たせず、立件に至らないのが実情だ。しかし、竹中の市場原理主義経済政策が、日本の根幹を変容させつつある事と、取り返しのつかない破壊に終始するのであれば、やはり、日本に死をもたらした陰陽師なのではないかという疑惑は拭えない。

 一般と異なる出自も影響してか、どこかにコンプレックス的復讐、そして、非愛国心から発するアメリカのエージェント“政策コンサルタント竹中平蔵”となる。今後において、東京地検特捜が立件するとも思えないわけで、巨悪は永遠に高笑いで眠りに就くのだろう。果たして、この怪しげで下卑た似非経済学者風政商は、日本人にとって救世主なのか悪魔なのか。筆者は市場原理主義崇拝のシャーマンであり、最終的に日本社会の破壊者なのだと認定している。ある意味で、戦後経済大国になった日本に恨みのある人間の復讐劇のようにさえ見えてくる。日本の右翼たちは、この男をターゲットにすべきだが、なぜか埒外に置いている。

 たしかに、学者が確信的に、自己の主張を政策に落とし込んでいるようにも見えるところが竹中平蔵的であり、彼がどのような心情で、何処から、どのようにミッションの手数料を得て、どこに隠し持っているのかは、想像の域を出ていないようである。まあ、居酒屋談義的に言うなら、親の敵を打って、且つ平成の大泥棒ということになるが、この男のお蔭で、日本の構造がズタズタにされたのも事実である。以下は、竹中平蔵が関わったと思われる壮大な犯罪の条件整備の痕跡を証言する記事やコラム・書籍の紹介だ。


≪ 民間議員・竹中平蔵氏に“退場勧告” 戦略特区に利益誘導批判
「加計(かけ)学園」(岡山市)の獣医学部新設計画で、実現までに中心的な役割を果たした「国家戦略特区諮問会議」。特区の認定に「総理のご意向」があったとされることから野党は追及を強めている。
 実は、会議を巡って、特定企業の利益になるように議論が誘導されているのではないかとの疑惑が、以前からあった。
「昨年7月、神奈川県の特区で規制緩和された家事支援外国人受入事業について、大手人材派遣会社のパソナが事業者として認定された。諮問会議の民間議員の一人である竹中平蔵氏(東洋大教授)はパソナグループの会長。審査する側が仕事を受注したわけだから、審議の公平性が保てない」(野党議員)
 これだけではない。農業分野で特区に指定された兵庫県養父(やぶ)市では、竹中氏が社外取締役を務めるオリックスの子会社「オリックス農業」が参入した。自民党議員からも「学者の肩書を使って特区でビジネスをしている」と批判の声がある。
 農林水産委員会などに所属する宮崎岳志衆院議員(民進党)は、竹中氏が主張する農業分野での外国人労働者の受け入れが、人材派遣業界の利益につながりかねないと指摘する。 「民間議員はインサイダー情報に接することができるのに、資産公開の義務はなく、業界との利害関係が不透明だ」
 批判が相次いだことで、国会も異例の対応を迫られる事態となった。
 5月16日に衆院地方創生特別委員会で採択された国家戦略特区法改正案の付帯決議では、会議の中立性を保つために「民間議員等が私的な利益の実現を図って議論を誘導し、又は利益相反行為に当たる発言を行うことを防止する」と明記。さらに、特定企業の役員や大株主が審議の主導権を握ることを防ぐため「直接の利害関係を有するときは、審議及び議決に参加させないことができる」とした。
 採択の背景について前出の野党議員は「竹中氏を外すため。与党側からもウラで依頼があった」と明かす。与野党議員による事実上の“退場勧告”だ。
 小泉政権に続き、竹中氏は安倍政権でも影響力を持つようになった。ジャーナリストの佐々木実氏は言う。 「会議では一部の政治家と民間議員だけで政策を決めることができる。省庁が反対しても、思い通りに規制緩和が進められる。行政や国会のチェックが利きにくく、『加計学園問題』の背景にもなった。竹中氏はいまの特区の制度を安倍政権に提案し、自ら民間議員にもなっている」
 竹中氏にはパソナグループを通じて見解を求めたが、回答は得られなかった。  ≫(週刊朝日  2017年6月9日号)


≪『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(佐々木実 著) ~はじめに より 抜粋
はじめに 
「改革」のメンター 「成長戦略に打ち出の小槌はなく、企業に自由を与え、体質を筋肉質にしていくような規制改革が成長戦略の一丁目一番地」
 二〇一三(平成二五)年一月二三日、安倍政権が新たに設置した産業競争力会議の初会合で、民間議員である竹中平蔵はさっそく宣言した。かつて小泉政権で「構造改革」の司令塔役を果たした彼にとっては久々の表舞台だった。ささやかながらそれは復活の狼煙でもあった。
〈企業・産業に「自由」を与える〉
 産業競争力会議の面々に配付した「竹中メモ」で、政府の役割を竹中はそう規定した。「企業の自由」を確保し、拡大させること。それが安倍政権の果たすべき使命である。 〈新自由主義とは何よりも、強力な私的所有権、自由市場、自由貿易を特徴とする制度的枠組みの範囲内で個々人の企業活動の自由とその能力とが無制約に発揮されることによって人類の富と福利が最も増大する、と主張する政治経済的実践の理論である〉
 経済地理学者デヴィッド・ハーヴェイの「新自由主義」の定義にしたがえば、竹中の復活宣言を「新自由主義者の闘争宣言」と読み換えることもできる。
 産業競争力会議が初会合を開いた翌日、安倍政権は規制改革会議を始動させた。冒頭あいさつに立った安倍晋三総理は、 「規制改革は安倍内閣の一丁目一番地であります。成長戦略の一丁目一番地でもあります」
 と意気込みを語っている。前日の竹中の言葉を鸚鵡返しになぞったわけだ。竹中にとってはまずまずの滑り出しだった。再び「改革」の歯車が回りはじめたのである。
 竹中の当面の課題は、安倍政権内部の路線闘争で勝利を収めることである。主宰する政策研究集団「ポリシーウォッチ」のウェブサイトで、「小渕内閣型」「小泉内閣型」という言葉を用いて巧みに解説している。竹中は、小渕内閣では首相の諮問機関である経済戦略会議の委員をつとめていた。
 小渕内閣が発足した時も最初の出だしは大変好調であった。次から次へと財政拡大等の政策を打って、そして中小企業に対する信用保証の政策を拡充して、危機を乗り越えて、株が上がり始めて、経済は非常に良いスタートを切ったように見えた。当時、経済戦略会議が作られて、そこでこの最初のロケットスタートの強さを更なる改革、構造改革、体質改善に結びつけて行くための政策が示されてはいたのだが、なかなかその構造改革に手がつかないままに小渕首相が病に倒れるということになった。
これに対して小泉内閣の時は最初から構造改革を全面に押し出して、そして構造改革を進めることによって、結果的には戦後最長の景気拡大を実現するということができた。 今、安倍内閣は積極的な金融政策と財政政策でロケットスタートをきっている。しかし、これが本当の構造改革、企業の体制強化に結びつくか今のところよくわからないということだと思う。 繰り返すが、安倍内閣に頑張ってもらわなくてはならない。その意味で期待を込めて、小渕内閣型ではなく、小泉内閣型になるような、そういう政策運営を是非期待したい。(二〇一三年二月九日付「安倍内閣は小渕内閣型ではなく小泉内閣型になれるか」) 「規制改革が成長戦略の一丁目一番地」の真意は、安倍政権を「小泉内閣型」へと引き戻し、日本を再び「構造改革」の軌道の上に乗せることにある。

 小泉政権は政権発足直後の二〇〇一(平成一三)年六月、「構造改革」の基本方針を発表している。「骨太の方針」と呼ばれたその経済運営の指針は、「市場の力で社会を改革する」という考え方で貫かれていた。
 経済成長は「市場」における「競争」を通じて達成されるのだから、「市場の障害物や成長を抑制するものを取り除く」ことこそ、政府の果たすべき役割である。そうした考えのもと、小泉政権は七つの構造改革プログラムを示した。筆頭に掲げられたのが「民営化・規制改革プログラム」である。 「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」──小泉純一郎が執心する郵政事業の民営化に注目が集まったが、核心はむしろ、「骨太の方針」に記された次の文章にあった。 〈医療、介護、福祉、教育など従来主として公的ないしは非営利の主体によって供給されてきた分野に競争原理を導入する〉
 それまでの規制改革は、既存の企業が活動するうえで障害になる規制を取り除く取り組みだった。たとえば、大型店の出店を規制していた大規模小売店舗法の廃止や、タクシー業界への参入規制の緩和などである。ところが、小泉政権はこうした経済的規制にとどまらず、医療や教育といった社会的な規制にも手をかけた。従来、「市場化」になじまないとされていた分野も聖域化せず、規制の緩和や経営主体の民営化によって、「市場化」していくと宣言したのである。 「市場化」により社会を改造するという構造改革の思想は、その後、日本社会を変質させていくことになった。
 企業活動の自由を全面的に解き放とうとする新自由主義の思想を極限にまで押し広げ、社会の全領域を市場化しようとする欲望を「市場原理主義」と呼ぶなら、小泉政権はたしかに市場原理主義的な性格を強く帯びていた。そうした「構造改革」のイデオローグが、竹中平蔵という経済学者だったのである。彼は閣僚として、金融改革や郵政民営化を手がけた実践者でもあった。
 ではなぜ、日本社会を変質させた「新自由主義」「市場原理主義」の導入に経済学者が貢献することになったのか。小泉政権の閣僚になったばかりの時期、『論座』(二〇〇一年一〇月号)のインタビューで竹中は答えている。
 経済学者の政策決定への関与について、非常にわかりやすい例はアメリカです。私の友人でもあるローレンス・サマーズは、クリントン政権で財務長官を務めました。サマーズの先生にあたるマーチン・フェルドシュタインは、レーガン政権で大統領経済諮問委員会の委員長を務めた。そういう専門家が、専門的な立場で政策を遂行するという事例はアメリカでは早い時期から浸透している。 「改革」の原動力として、「知的起業家精神」が求められていると竹中は語っている。
 世の中を動かしていくのは、アントレプレナーシップ(起業家精神)です。そして私たちにいま求められているのは、インテレクチュアル・アントレプレナーシップ、すなわち知的起業家精神です。それにはいろいろな局面がある。
 たとえば、東ヨーロッパが社会主義から解放されたときに何が起こったか。アメリカの国際経営コンサルタントと言われる人たちが大量に押しかけて、アメリカ的なビジネスをつくった。これはひとつの知的起業家精神ですよ。ソ連がロシアになったときにも、たとえばワシントンのアーバンインスティチュートという研究所がロシアに進出し、ロシアの都市計画をほとんど手がけた。あるいは、中国で会計基準をつくるときには、アメリカの国際公認会計士が大挙して手伝った。
 そして、いまの日本では、政策に関する知的起業家精神が改めて求められている。
 自ら解説しているように、小泉政権における竹中のポジションは、東欧の旧社会主義国にビジネスチャンスを求めて押しかけたアメリカの経営コンサルタントとどこか似ていた。抜け目ない知的起業家は「市場化」の伝道師でもある。

 小泉政権の経済運営を今ふりかえると、興味深い事実が見えてくる。「構造改革」は経済成長を達成するために避けられない道であり、つかの間の「痛み」に耐えることで将来の富が約束される──そんな物語が当時まことしやかに語られていた。だが、実態はずいぶん違っていたのである。
 小泉政権時代の経済パフォーマンスを名目GDPでみると、最も数値が高かった政権末期でさえ一九九〇年代の金融危機前と同水準である。名目GDPの伸びの低迷は、アメリカやEUなどと比べることで、よりはっきりする。国際比較のグラフでみると、日本は横ばい状態を続けていたにすぎない。
 それでも経済運営で大きな成功を収めたかのように認識されているのは、戦後最長といわれる「いざなみ景気」のもと、企業の業績が好調だったからである。だが、それは「構造改革」の効果というより、日銀の金融緩和政策に負うところが大きかった。
 小泉政権時代、日銀は、量的金融緩和と呼ばれる従来になかった金融政策を動員してマネーを大量に供給していた。これが為替相場を円安に導き、輸出企業を後押ししたのである。金融バブルに沸くアメリカだけでなく、急成長する中国という新たな巨大市場への輸出が伸び、日本企業は潤った。
 内実が輸出支援という旧来型の経済運営だったため、小泉政権が経済界の秩序を大きく乱すことはなかった。しかし、「構造改革」に破壊的な効果がなかったかといえば、そうではない。中国をはじめとする新興国の台頭に対応するため、日本企業は体質改善をはかった。「構造改革」はむしろこの面で企業経営者を強力にサポートした。
 たとえば、製造業における派遣労働の解禁などである。「構造改革」は企業の利益を押し上げる一方、労働者の賃金を引き下げる成果をあげた。「企業活動の自由」をなにより優先する新自由主義的政策の必然的帰結だった。
 利益分配のあり方を根本から変革することにこそ、「構造改革」の意義がある。地方への財政支援を大胆にカットする緊縮財政を小泉政権が強行したのもそのためである。
 結果として、正規社員と非正規社員、大都市と地方など、「階層化」と呼んでいいほどの大きな格差が生まれることになった。階層化を意図する政策だとはじめから理解されていれば、小泉政権への高支持率はありえなかったはずである。その意味で、「構造改革」の本来の目的をカモフラージュする役目を担った、隠れた主役ともいえる日銀の存在は注目に値する。
 意外なのは、こうした日銀の重要性に目をとめたのが、小泉政権で官房長官をつとめた安倍晋三だったことだ。
 第二次安倍政権が掲げる経済政策「アベノミクス」の背骨は、「インフレターゲット」政策である。日銀による強力な量的金融緩和策を長期にわたって実施する宣言ともいえる。安倍は、総選挙で繰り返し日銀のインフレターゲットに言及し、選挙に圧勝すると、日銀にあからさまな圧力をかけた。
 日銀が安倍に押し切られる形で「インフレターゲット」の採用を表明すると、投資家たちはもろ手をあげて歓迎した。株高、円安が進行し、「安倍バブル」と呼ばれるほど市場が活況を呈するようになったのである。
 二〇一二年一二月の総選挙では、メディアは原発問題、TPP(環太平洋経済連携協定)問題、消費税問題を政界の三大争点と位置付けていた。だが、選挙に圧勝して総理の座に返り咲いた安倍は、「インフレターゲット」によってこれらの争点をことごとく蹴散らしてしまった。原発は再稼働の方向で動き出し、TPPについては早々と交渉参加を表明している。株式市場の活況が持続すれば、消費税の引き上げも敢行するだろう。 「日銀にカネを刷らせる」政策を踏み台に、改革を次々と進めていく手法において、安倍政権はすでに小泉構造改革と酷似している。もっとも、大規模な公共事業の実施を掲げている点は異なる。竹中が「小渕内閣型」と呼んで懸念するのも、財政政策への傾斜が、安倍政権の「構造改革」の妨げになるのではないかと考えるからである。

 安倍総理を議長とする産業競争力会議の場で、竹中が問題提起している大きなテーマのひとつが労働市場の改革だ。
 一九九〇年代後半からの労働規制の緩和とともに、非正規雇用は増え続け、現在では三人に一人が非正規雇用となっている。日本社会を変質させた「改革」だった。とりわけ小泉政権は、製造業の派遣労働を認めるなど規制緩和を積極的に進めたため、非正規雇用問題が叫ばれるようになると厳しく批判された。
 しかし、竹中は批判を一蹴している。『日本経済新聞』(二〇一二年七月一六日付)のインタビューでは、次のように説明している。
 人生の中では長時間働く方がよい時もあれば、育児などで短時間がよい時もある。働き方を自由に選べるようにすることは重要だ。問題は制度の不公平にある。解雇しにくくする判例が出た結果、日本の正社員は世界一守られている労働者になった。だから非正規が増えた。
 規制を緩和したからではなく、むしろ改革が不十分だからこうなった。同一労働・同一条件を確立する『日本版オランダ革命』ができれば、制度のひずみが是正される。厳しすぎる解雇ルールを普通にすれば、企業は人を雇いやすくなる。『全員正規』では企業は雇いにくく、海外に出てしまう。柔軟な雇用ルールにして雇用機会を増やすべきだ。
 日本で非正規社員が増えてしまったのは、正社員が保護されすぎているためだという。正社員が「既得権益者」として指弾されている。「働き方の自由」を実現するためにも、解雇規制の緩和が必要なのだと竹中はいう。
 産業競争力会議の民間議員の構成をみると、竹中を除く九人のメンバーのうちじつに八人が企業経営者あるいは元経営者、しかもほとんどが名の知れた大手企業である。労働規制の緩和は議論する前から既定路線といってもいい。
 医療や農業、教育など規制緩和が進んでいない分野にも大胆に切り込む構えをみせる一方で、竹中は会議の主導権を握るための「仕組みづくり」も怠っていない。 「この会議の運営については、この会議だけでは議論が十分にできないので、事務局での議論に民間議員、あるいはその代理が参加できる仕組みをつくってほしい」
 初会合での竹中提言は実現し、官僚主導の事務局に民間スタッフが入ることになった。二回目の会合でも、竹中は会議の運営に注文をつけた。 「この会議で出てくる規制改革関係の話は、岡議員(筆者注 岡素之住友商事相談役は規制改革会議議長を兼任)に毎回引き取ってもらって、規制改革会議で議論していただき、その次の産業競争力会議で方向性だけでも報告してもらう、というルールを確立してほしい」  規制改革会議と緊密に連携をはかることで、政策形成への影響力を強めようというねらいだ。規制改革会議議長代理の大田弘子は、前の安倍政権で経済財政政策担当大臣をつとめた。竹中とは長年のつきあいで、考えを同じくする同志だ。
 日本経団連は、経営者の集まりともいえる産業競争力会議を経済財政諮問会議と同様の法律に基づく会議に格上げし、権限を強化させようと動きはじめている。だが、構造改革の強力な後押しとして「改革勢力」の大きな期待を集めているのはむしろTPPだろう。
 安倍は選挙戦では「『聖域なき関税撤廃』を前提とするTPPには参加しない」との公約を掲げていた。ところが、総理に就任して二月にオバマ大統領と初会談すると、「『聖域なき関税撤廃』が前提でないことが明らかになった」として、一転して、TPP交渉の参加に前のめりになり、早くも三月一五日には交渉参加を正式に表明した。
 オバマとの会談直後の産業競争力会議で、安倍の報告を聞いた後、竹中は、「やはり自由貿易を拡大すること、そして、経済連携を深めていくこと、とりわけアメリカとの連携においてそのような関係を深めていくことは世界の利益であり、いうまでもなく日本の利益である」と安倍を称賛した。
 日本がTPPを締結すれば、事実上、それはアメリカとの経済統合を意味する。あらゆる分野で日米間の制度の平準化が進められ、これまでになくアメリカの外圧は強まるだろう。一方で、TPPのような域内経済統合では、投資家が国家と対等の立場を確保する。医療や金融はじめ、知的財産から農業まであらゆる領域が交渉対象となっているので、日本の社会の全領域で「市場化」が進むはずである。 「TPP国内対策にあたり、ICT(著者注 情報通信技術)活用推進も含め、競争力を強化するための制度改革を重視していかなければいけない」
 TPPが「構造改革」の原動力となることを、竹中は期待している。アメリカや海外投資家の圧力は頼もしい味方なのである。産業競争力会議の民間議員の権限は、小泉政権時代に有力閣僚として手にしていた権力とは比べるべくもない。けれども今、彼に強い追い風が吹いていることはたしかである。

 小泉構造改革への批判をテコに政権奪取した民主党は、迷走に迷走を重ねて自滅した。民主党政権時代には不遇をかこった竹中だが、着々と手は打っていた。政界に突如としてあらわれたスター、橋下徹のブレーンにおさまったのは総選挙を目前に控えた時期である。 「私の目には、橋下氏と、小泉元首相の姿が重なって見えます。どちらも原理原則を貫き、自分の言葉で国民に語りかけることができる政治家だからです」(『週刊現代』二〇一二年六月二三日号)
 かつて仕えた小泉純一郎を持ち出し、竹中は橋下を絶賛した。秋波を送られた橋下は、日本維新の会の衆院選候補者選定委員会の委員長を竹中に依頼した。その理由を橋下はこんなふうに語っている。 「竹中さんの考えにぼくは大賛成ですから。小泉元首相のときの竹中さんの考え方についてはいろいろと意見があることは承知していますけれども、基本的な価値観、哲学は、ぼくは竹中さんの考え方ですね」  候補者選定委員長として討論会に参加した竹中は、日本維新の会からの出馬を希望する落選中の元代議士の前で、 「自由と規制緩和という意味で、TPPに本当に心から賛成しているかどうかが、ものすごく重要な試金石になる」  とTPPの踏み絵を踏むよう迫った。
 政界での影響力ということでいえば、みんなの党は党の方針自体が竹中の主張とほぼ一致している。代表の渡辺喜美は、日銀総裁候補として竹中の名前をあげていたほどである。民主党では前原誠司とのつながりもある。
 安倍晋三とは小泉政権でともに仕事をして以来親交があり、安倍政権が誕生すると、経済ブレーンに迎えられた。安倍は当初、格上の経済財政諮問会議の民間議員に竹中を抜擢しようとしたのだが、閣内に反対の声があり、産業競争力会議の民間議員に落ち着いた。こうしてみると、少なくともイデオローグとしての竹中の支持者は、与野党を問わず政界内で意外なほど裾野を広げている。
 日本維新の会の橋下代表など野党有力者とのパイプは、安倍政権を新自由主義側へと引っ張る切り札となりうる。政界再編が起きれば、竹中が有力政治家の橋渡し役となることも考えられる。
 小泉政権で構造改革の司令塔役を果たして以降、「改革」を布教し実践してきた竹中平蔵は、いまや日本を「改革」に導くメンター(指導者)の地位を築いている。彼の新自由主義に基づく政策提案は多くの賛同者を獲得するようになっている。
 果たしてこの指導者はいったいどこからあらわれたのか。日本の社会をどこへ導こうとしているのだろうか。本書は、「改革のメンター」の人生の軌跡をたどったレポートである。

市場と権力 目次
はじめに 
「改革」のメンター 第1章 和歌山から東京へ…………… 19
競争心/理想の社会と現実のはざまで/東京の家族 第2章 不意の転機 …………… 38
銀行員から経済研究員に/ハーバード大学客員研究員に/「反ケインズ経済学」の洗礼/大蔵省という権力/独り占め 第3章 アメリカに学ぶ …………… 64
博士号審査不合格/大蔵省幹部の側近として/他人のものを取り込む才/アメリカ経済学界から学んだこと/交流人事/相次ぐ批判/リボルビング・ドア/「日米構造協議」という第二の占領政策/政治家への接近/“外圧”は友/博士号を取得 第4章 仮面の野望 …………… 108
シンクタンク/ビジネスとしての経済学/官房機密費/IT戦略会議は官邸攻略の足場/総理大臣の振り付け役/“外圧”の民営化/政界への工作 第5章 アメリカの友人 …………… 139
トライアンギュレーション/ハゲタカとネオコン/柳澤大臣との対決/ブッシュ政権が引きずり下ろした金融担当大臣/「竹中」プランが引き起こした金融界パニック/繰り延べ税金資産問題/金融プロジェクトチームというブラックボックス/「大きすぎて潰せないとは思わない」/スキャンダル露呈/アメリカの強力な支持を盾に 第6章 スケープゴート …………… 178
三井住友銀行の大規模増資/ゴールドマン・サックスとの特異な契約/ウォール街を日本に導入する/銀行が潰れるか監査法人が潰れるか/ある公認会計士の死/梯子を外された会計士/暗躍する「金融庁顧問」/りそな銀行を破綻に導いた「裏会議」 第7章 郵政民営化 …………… 218
金融庁落城/検察―もうひとりの主役/反経世会+親大蔵省=郵政民営化/郵政マネーに目をつけたアメリカ/「ゲリラ部隊」がつくった民営化案/「自民党は殺された!」/ブッシュに呼応する小泉/B層を狙え!/なぜ、いま民営化なのか/暴かれた私信/不審を抱いた日本経団連会長/小泉側近との確執 第8章 インサイド・ジョブ …………… 268
経済学的論拠が薄弱だった「構造改革」/ブッシュ政権を支えたジャパンマネー/「日本郵政はアメリカに出資せよ」/改革利権に手を染めた経営者/「かんぽの宿」疑惑のプレーヤー/あっけない幕切れ/映画『インサイド・ジョブ』が伝える真実/りそな銀行破綻の闇/ミサワホームの怪/「改革は止まらない」 おわりに ホモ・エコノミカスたちの革命 …………… 317
あとがき …………… 328 参考文献 …………… 330
*佐々木実(ささき・みのる)1966年、大阪府生まれ。91年、大阪大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。東京本社経済部、名古屋支社に勤務。95年に退社し、フリーランスのジャーナリストとして活動している。  ≫(現代ビジネス)


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