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 今の時期、まるで初夏の陽気かと思えば翌日には雪が降る、そんな三寒四温の
季節ならでは、寒と暖が美味さを倍増させるような風情を書いてみたいと思った。棚を探すとラズウェル細木先生の「大江戸食べコロジー」を発見、江戸の街を舞台に月日の経過に沿ったグルメが展開される良著である。主人公の新兵衛は侍の家に生まれたが、思うことがあって長屋で一人暮らしをしている。市民生活の中で、人々の知恵や工夫、また縁起を学びながら、読者にわかりやすく説明してくれることが大きな特徴である。

 まずは寒い季節の話、小題は「その14 冬支度」。何かと物入りな時期、値段が
高騰している炭を節約しようと許嫁が綿入れを持ってくる。そんな寒の入りに登場するグルメは湯豆腐、ハフハフと体の芯から温める。先生の作品には豆腐が結構出てくるが、酒の肴にあてず普通に食べるパターンは珍しい。私も去年の健康診断結果を猛省し、ポン酢をかけた湯豆腐や“おから”を食べるようになったが、胃への優しさと温もりを美味いと感じるようになったのは、味覚が齢を取った証である。

 続いては温かいというか暑い季節の話、小題は「その10 猛暑と打ち水」。ジリジリと
太陽が照りつける通りで、砂糖入りの水に白玉を浮かべた“冷や水”という飲み物を売る露天商がいる情景が描かれている。何故か思い出したのはSFCソフト初代熱血硬派くにおくんの回復アイテム“冷やしあめ”。ドラクエで言う薬草的立場であり初期のお供だが、その言葉の響きに無性に憧れを持った記憶がある。暑ければ暑いほど美味いと感じる清涼感は、「ひやっこい、ひやっこい」という味のある売り方とセットで夏の定番となっているに違いない。

 本書のような隠れた名作は当方の趣旨にピタリ適合しており、実際漫画を読んでみて
同じように感じてくれる方が増えれば、運営者冥利に尽きる。私はラズウェル先生こそ【コンビニ本のフロンティア(開拓者)】だと思っている。「酒のほそ道」や「美味い話にゃ肴あり(酔庵)」といった作品に出逢っていなければ、コレクションや記事執筆は全てなかっただろう。出版業界も含め作ってくれた一つの文化を大変有難いと思っている。

<発行日>
 2011年11月10日
<著者>
 ラズウェル細木 (敬称略)
<発行所>
 リイド社