かがみの孤城
辻村 深月
ポプラ社
2017-05-11


引きこもり少女の部屋の姿見が、謎の発光を始めたと思ったら、そこは「鏡の孤城」へつながる道でした。

お城には「オオカミの面をした少女」がいて、同じように召喚された7人の不登校中学生たちと、何でも願いのかなう鍵を探す事になる、という設定から始まるお話。

 

どんな分野にでも男性好みの作品とか、女性好みの傾向はあるものですが、小説や映画において、光る姿見、輝く孤城、オオカミ面の少女なんて事がキーになっていれば、これはもうファンタジックな女性好みの作品かな、と思いますよね。

 

私としてはイマイチ気の乗らない設定で、どうかなと思いながらの読み始めだったんですが、辻村さん、文章が巧みだ。

どんどん読めて、だんだん女性好みの設定なんて事は気にならなくなるほど引き込まれて、終盤の展開には、二転三転驚かされて、最後は涙涙の幕切れでした。

 

この後、内容に触れていくので、未読の方は読まない方が良いでしょう。

著者の辻村深月さんは、綾辻行人さんの大ファンだそうで、辻という字も尊敬から取ったそうで、なるほど、この構成の妙は、本格派推理小説からの影響なんだな、という事が良く分かりました。


辻村深月さんの巧さが光る作品ですが、前半は描写の巧みさで良く出ていました。

虐めの様子。

虐めっ子とのまったく相いれない世界観。

話会う事の無力さというかコミュニケーションが断絶されている感じが、真に迫るモノでした。

後半は綾辻さんを尊敬するだけの事はある、本格派推理小説で使われるような厳密にして読者を驚かす構成の巧さが光っていました。

もしかしたら孤城での生活はすべて幻想なのではないか、なんて主人公が思う辺りはゾッとする件でした。

そして会えない理由が年の違いだったという真相が明らかにされる過程ですね。

この小説の最大の謎でしたが、コレ振り返ればすべてのヒントが出ていたよね。

巧い!とかしか言いようがない。

 

さらにさらに孤城のモデルが、姉のドールハウスだった事。

だから電気だけ来ていた事。

リオンの願いと夭折した姉の願いが一致する件とか、もう涙なしではいられないって感じ。

 

結局、この作品の凄さは、本格推理小説のような構成の妙を使って書かれた感動小説って事ですね。

読んで損のない作品、どころではなく、読まないのは大損という逸品です。

読み逃しのないように。

 

PS

本屋大賞受賞作です。

本屋大賞は数年前、日本人は残虐非道な民族だ、なんて書いた作品が大賞に選ばれるかもしれないという話があり、そうなったら、もう金輪際本屋大賞作品は読まんと思っていたんですが、選ばれませんでした。

今回、この作品を読んで、つくづくと良かったですね。

反日モノは不買って事で、それまで愛用していた私の理想の本屋「池袋ジュンク堂」も、「民主主義を取り戻せ」なんてフェアをやってから不買。

前回行った時は親切で詳しい店員さんに感動して買ったけど、やっぱり以前ほど足を運ばなくなったし、河出書房の本も相当買って、愛読していたんですが、シールズ本の出しまくりで、すっかり買わなくなったからね。

 

本屋大賞も相手にしない、なんて事になっていたらこの作品とも出会えなかった。

今後も素晴らしい作品を示してくれる羅針盤として、「本屋大賞」には期待しています。