まほろばの泉

亜細亜人、孫景文の交遊録にある酔譚、清談、独語、粋話など、人の吐息が感じられる無名でかつ有力な残像集です

義と志と潔にみる、ある書家の伝言 09 1/12 あの頃

2020-11-16 17:03:18 | Weblog

              三浦重周 謹書



NHKの大河ドラマは「天地人」と題して上杉景勝の家臣直江兼続を取り上げているが、彼らの意志を貫くものは謙信の訓導を維の如く継承する「義」と「仁愛」にあった。

上杉の支配領地は越中、越後、庄内、さらに内陸上州にその勢力を伸ばし謙信の善き治世と相まって天下に名声を得ていた。先ごろでは田中角栄氏が地元謙信の逸話を引用し政策の有効性を唱えていた。

伝統や歴史を引用して解り易く伝えることは歴史の活学として有効性のあるものだが、小泉総理も就任時には長岡藩の家老小林虎三郎の逸話である「米百俵」を叫んでいたが、当時蜜月状態だった長岡を地元とする田中真紀子氏のアドバイスだったとみる。どうせなら庄内(現山形)の上杉鷹山の改革を倣えば、対日年次要望書のような米国の強圧に尻尾を振らなくて済んだものを、と兼続、虎三郎、鷹山も歎くだろう。

上杉鷹山の庄内には独特の学がある。沈潜の学である。庄内論語も有名である。
同じ幕臣であり奥羽列藩同盟にあった長岡藩とは異なり庄内藩に攻め入ったのは西郷であった。それは幸運だった。庄内藩の若者は敵将西郷に憧れて鹿児島私学校に留学し、あの田原坂でも庄内の若者が身を献じている。
満州事変の立役者石原莞爾も庄内である。それゆえか石原の提唱した東亜連盟には東北の若者が多数参集している。



                  

                石原莞爾氏

東亜連盟は埼玉県浦和市の篤志家中川昇氏によって継承され、毎年12月には物故祭が営まれている。

筆者も毎年客人として参加させていただいているが、この季になると想起する人物がいる。それはいつか正席に座して挨拶を懇嘱された折、いつも隣席に座していた三浦重周氏である。

物静かな人物であった。
「三浦と申します」
会の趣や中川氏の活動の風からすれば活動家である。
「憂国忌を運営しています」
一期一会の妙意なのか互いの経歴を問うまでも無く、あえて肝胆を量る事も無く、言の葉が交じり合う。

彼は書をたしなむという。筆者も童から聖賢墨蹟の臨書から始まり、その頃は篆刻を勝って流に試みていた。
ちなみに刻したのは「布仁興義」(仁を広めて義を興す)である。
妙に意気投合した意味を知ったのは彼の行為の本意からだった。

書は独り構想を練るのに鎮まりのある境地を提供してくれる。
彼は越後出身の書家だった。

その越後新潟だが、年明け早々縦長の冬前線は海を荒し新潟港の岸壁を凍らせ、横殴りの雪は刺すように痛い。後で知った経歴に彼は民族運動家ともある。その行為を知ったのは、彼に会うことを楽しみにしていた物故祭での伝言だった。

「三浦さんは欠席ですか・・」

「彼は自決しました」

ようやく巡り会った稀有な人物が靖んじて国に捧げた行為は、語らずとも万感の哀悼として浸透した

「お兄さんは、弟は武人らしい所作で皇居遥拝し、小刀ではなく必殺できる出刃包丁で武訓に則り立派に死にましたと伝えていました」

あらためて仔細を承知したのは週刊新潮の記事だった。


                  


                   


12月10日 新潟港岸壁にて正座皇居遥拝し身を崩さず古式にのっとり切腹、享年五十六歳。



                 

                 自決


            



鎮まりを以てあの一会を辿ってみた。言葉が見つからなかった。彼は詩人であり書家であり,自らの証を民族の覚醒と作興に懸け、その矜持は郷土の英傑が伝えようとした「義」であり、それを連帯調和させ目標とする「志」であり、衆を恃まず、利を弄せず、我論を制する「潔」を人の魂として糜爛した世に刻み込んだ。

御霊は浮俗の利を漁る一部運動家にも人の在るべき姿をいつまでも照射するだろう。

そして郷里の歴史に観る英傑に劣ることのない人物の姿を遺してくれた。
そして、誘われて逝った。至上の贈り物を残して・・・

     固より、一身一家の功名はこれを求めず

     白骨を秋霜に曝すを恐れず


{写真は三島由紀夫研究会「三浦重周さんとお別れの夕べ」より転載}

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