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 同級生の女の子三人からぶん殴られたこと。弟のお守りを任され、家に一人残されて泣きじゃくった、遠いあの日の記憶   

 いずれも小学生時代の辛かった思い出であり、キョーコさんにとっては生涯忘れることのできない黒歴史である。

 しかし、いきなり頭によぎり唐突に語りだしたというわけではなく、普段からも節目節目で、それらの忌まわしい記憶が呼び起こされることが多々あったのではないだろうか。

だ か ら こそ  泣 い た。 あ の日 の こ と は忘 れ な  い   

 コメント欄に寄せられた言葉を読んでみただけでも、今から思えば子供時代の何でもないような恨みは今の今までも忘れられないらしく鮮明に覚えているようなので、キョーコさんが特別に執念深いというわけでもなさそうだ。

 そういう僕も、小学生の時の遠足の際、親からお金をたんまりともらっておきながら、弟にウケ狙いで僅か百円の「ミニトランプ」キーホルダーをお土産として買って行き、号泣されてしまったことがある。

 創造性豊かな兄のことだから、さぞかし愉快なお土産を買って来てくれるだろうと、期待をされていたにも関わらず、無残に裏切り、本当に気の毒なことをしたなと、今でも土産物売り場に立つと、あの時の申し訳ない気持ちが甦ってくる。弟も「たった百円のミニトランプ・・・」と、いつまでも忘れられないでいる様子。

 小学校時代の忌まわしい記憶。それを踏まえたうえで乗り越えた先にあったのが、中学生になってからの新たな経験。

 お小遣いも増えただろう、キョーコさんにとっては、長崎屋でのショッピングが、子供時代とは一線を画す大人の振る舞いのようでもあったようなのだが、長崎屋にあった軽食屋でチョコパを食べたという彼女の記述に関し、詳細な情報がコメント欄より寄せられることになる。

長崎屋の入り口に乙女座って軽食喫茶があったの。そこでチョコパね。エビピラフとかオムライスとかピザトーストとかあって   

 駅で史之舞に見送って欲しいがために、キョーコさんが焦らしに焦らして時間稼ぎにチョコパをゆっくりと食べたあの軽食喫茶の名前は、「乙女座」なのだという。現在の街中ではおよそ見かけることのない女子学生をターゲットにした店であったようだ。

 キョーコさんが街を歩き回っていた時代、経営者も若かければ、客もまた十代の人達で溢れかえっていたのだろう。再び、「乙女座」という名の今だったらカフェがあってもふさわしいような若者ひしめく活気ある街に戻るようなことがあるのだろうか。

 現在消息不明中の若い中国人女教師が、どうやらその界隈に足どりを残しているらしく、そういった人らが安全に一人で旅行をできる環境が整うならば、また状況も違ってくるのかもしれない。

 街の衰退、輪をかけて自宅と周囲の変わりようを、キョーコさんが察していたかは不明であるものの、日記の中での彼女は、人づきあいの中で多少の愚痴は言っても、不思議と未来を悲観したり、お金に関しての暗い話題は語らない。

 その一時だけは、彼女の家の経済状態は良かったのか。つまり、家業の酪農が上手くいっていたと。

 今のところは恋愛関係と人間関係に日々悩むキョーコさんが、金山君の内面性を語りだしていく。

 今までは、容姿や得意な音楽、スポーツなど、アイドル歌手のように彼を見ていた彼女が、その特異なパーソナリティーを掘り下げ、説明をし始める。

 過去には学園のスター的な側面ばかりが描写されていたが、実際は、驚くほど男気のある、竹を割ったような勇猛な統率力のある選ばれしリーダーのような、男であるようなのだった。



13a
 1978年    9月 13日  (水)14  0:20    晴れ

今日は  あの  う るさい  , やか ましい 史之舞 が  いるのだ 。
 それは お いとい て  ,  今日 ,  水曜日 は  あの集体 があった
のよ 。  今日 は   女子  ハンドボール  ,  * 男子  バスケ
の  よてい   だ ったけど   ,  陸上の 練 習  みたいなのを
や ったのだ 。  私 は  ”お なか  ”  の ちょう しが悪 い の で
 そこ ら へ んを  うろちょろ 。  始めは 幅跳び の 砂を たいらにする
役 を し て いて  六 時間 目 に はひま ひ なったの で  , 高飛びの
方 を 見 てたり して いて  しまい に は  近く に 行 っ て見て い たのれす。
高 は 均君 が  飛んで  いて  (他に も 多 くいたけど)全部 で
 3回 も  バ ー  を お る とい う  ことを し て しまって 。 大へんね 。
六時間目 の 終りごろ に は  均君と 金山君 が  二人で 飛ん で
 たの らよ  。  均 は  1m  40  cm  まで 飛 べ たけど  45 cm なる
と いつ も  バ ー  を お っ ことして バ ッ カ シ  。 金山君は もち 飛んだ
 ワヨ  . ( ときたま  お としてたけど ) 金山君  , 言葉 使 い悪いのよね
 グラ ンド 走ってて .  「あ ~~~ ヨ コッ ぱら   イテ     。 」 だと か
 など を 言っ  てた のよ ね 。 「 オイ  西 村   、」 と か  「オマエ
 これ 飛べなか っ た ら   人間 じゃ ね  ー ぞ  ! 」 

騒がしい史之舞が家に戻っていた。

キョーコさんによる描写を、お喋りで陽気なお姉さんと見るか、リミッターを突き破っている、手の施しようがない、しかし愛すべきお姉ちゃんと捉えるのか、まだその答えは見えて来そうにない。

>私 は  ”お なか  ”  の ちょう しが悪 い の で そこ ら へ んを  うろちょろ

これは女性特有の生理だと思われる。お腹の調子が悪いぐらいで、体育を休み、授業の最中うろうろしていたら、同級生からは顰蹙モノだろう。この頃は軍隊のような整列や行進を厳しくやらされていた時代。ちょっとやそっとの病気で体育の授業を休むことはできなかったはず。

奥ゆかしく、ストレートな表現を避ける、キョーコさん。かつては、自慰行為を匂わせるような発言もあった。あの時は、日記の中なのにそんな遠回しな書き方をするだろうかと勘ぐったが、今回のような表現の仕方を見ると、あれもあり得るように思えてきた。

>始めは 幅跳び の 砂を たいらにする役 を し て いて

あの日だとは言え、どうでもいい役をやらされて、文句の一つも言わない、彼女。

>高 は 均君 が  飛んで  いて  (他に も 多 くいたけど)

おそらく、低・中・高というそれぞれ高さの違うバーがあり、均君は一番高いコースに挑んだのだと思われる。

均君といえば、かつて、キョーコさんの恋愛事情が書かれたメモを盗み見たばかりか、「オマエ、大丈夫か?」とまでそのメモに大胆に書き加えた、とても情報収集に長けている男。彼女は恨んではいないようなので、後押しか手助けをしてくれる、異性の便利屋的な人とでも思っているようだ。

>金山君  , 言葉 使 い悪いのよね グラ ンド 走ってて .  「あ ~~~ ヨ コッ ぱら   イテ     。 」 だと か

品行方正の生徒会長というわけではなく、しっかりとしていながら、時折ガラの悪い言葉使いをし、場をキリリと引き締めるような、俺についてこいタイプの人なのか。

>「 オイ  西 村   、」 と か  「オマエ これ 飛べなか っ た ら   人間 じゃ ね  ー ぞ  ! 」

お坊っちゃんの西村君にも容赦なしの金山君。僕にとって最も苦手な部類の人だが、何事にも本気で熱くなる、根っからのリーダータイプの人間らしい。



13b
「* 西 村  ,

 けつ お も たい んじ ゃ ないか 。」などなど  . . . .  . . .  .  .  .  。
  ほんとに  言葉が 悪 い の よ  。 でも   いい ね 。  私 も いっしょに
 「 そう * .  人 間 じ ゃ ない * わ  .」 と か と か  ほんと に,笑 い なが ら
 言 っ ち ゃ っ て  ね 。 たのしか った  .  2 m  さ き に 金山君 を
 見ち ゃっ たん だ から ね~~~~~~ 。 め い っ ぱ い  心 か ら  .
 すなお な か んじ で  金山君を 好きになっ た の よ 。
 愛と か  恋 とか なま なま しく  .  ドッシリ したもん じ ゃな く て さ  、
 友 の こ と を  好き な の  生き 生 き した か んじ の 好き っ て か ん じ
 なの .  ワカル?  思 ったよ う な  ,  い い か んじの人  みたい  .
 宮脇 さん と 山角君  たち は  教室で  なにか  .  いっしょうけんめい
** 書いて た の  。 勉 強 家 ね 。 金山君 どう な って ん の
か し ら ? ( 私 よ り  は  良 い こ とは たしか だ ろう けど ね 。 )
 とにか く お も し ろ か っ た  ,  たの し か っ た の だ ワ      !
 昨日の 卓球  に 均 * と  いっ し ょ に いた人 は ** 竹 中 の
三年  古 川 だ っ て  ・ ** 銀 ぶ ち の 目 が ね なんて か けてさ  ,
 並木 の 野球 は  二 位 だったんだ  って  ゆう 勝は 種田 。
ザンネン  。  リフトは  ゆう勝だ っ たけど  。  卓球 だ っ て 皆ふがわ
にとられたか ら ね  行間辺 は 。  金山君 大好き 。 友達に なっ
てよ 友 !  お や す み なさ い ね。 明日 も . .. .  ま た . . .  。

口は悪いながら、包み隠さず、本音でぶつかる、金山友彦。

僕が小学校の低学年の時、まさにこのような人がクラスにいて、彼は班長や学級員を受け持ち、リレーでも大活躍をしていた。中学になってから再び同じクラスになり、久しぶりに彼と話をすると、成長期に食べる量が少ないからなのか、あれほど仰ぎ見た体格は僕から見ると小さくなっているように見えたし、何より覇気がない。かつての小学生時代のスターがすっかり没落していて、見る影もなかった。

金山君の場合はもう中学時代は乗り越えたので、高校生でも同様の地位を保つだろう。大学へ進学するとなると、埋もれてしまうこともあるかもしれないが。

>私 も いっしょに 「 そう * .  人 間 じ ゃ ない * わ  .」 と か と か  ほんと に,笑 い なが ら 言 っ ち ゃ っ て  ね 。

金山君の一挙手一投足に、女子も皆呼応する。それが学園のスターか。

>め い っ ぱ い  心 か ら  . すなお な か んじ で  金山君を 好きになっ た の よ 。

猛々しくもある金山君のそのキツイ言葉の裏には、実は人へ奮起を促す思いやりが込められていて、言われた側はそれを感じ取り俄然やる気がみなぎる。無意識に人心をつかむ、金山君。

男としてのフェロモンを校庭の隅々まで放つ金山君に、キョーコさんもますます嵌っていく様子。

>友 の こ と を  好き な の  生き 生 き した か んじ の 好き っ て か ん じ なの .  ワカル?

人生のピークを今まさにその時迎えている無双状態の金山君に、キョーコさんがそこまでなるのは無理もないことか。

>宮脇 さん と 山角君  たち は  教室で  なにか  .  いっしょうけんめい** 書いて た の  。 勉 強 家 ね 。 金山君 どう な って ん のか し ら ?

受験を間近に控え、とても冷静でいる、宮脇君と山角君。キョーコさんはともかく、後先を考えていない金山君は、その地位を高校で失う可能性もありそうだ。

> 昨日の 卓球  に 均 * と  いっ し ょ に いた人 は ** 竹 中 の三年  古 川 だ っ て  ・ ** 銀 ぶ ち の 目 が ね なんて か けてさ  ,

この時代の中学生が、銀縁の眼鏡を掛けていることは、珍しかったのだろうか。スネオ的な露骨にプレミアム感を自慢しているような眼鏡と人柄だったのかもしれない。

> 金山君 大好き 。 友達に なってよ 友 !

連日の所ジョージとタモリ熱は一旦冷めて、再び金山君へと回帰したかに見える彼女だった   



 キョーコさんはお祭りに参加をする。屋台などいろいろ出ていたようだが、年々少なくなって来ているのだという。街の過疎化が祭りの屋台の数にも影響を及ぼしているらしい。

 さらには、またもやポエムを創作して、堂々、一ページを使って披露する。

 テーマは彼と風。

 あえてその詩を読み解いてみたところ、最後に彼は何処かへ行ってしまうという内容なのだが、それは彼女が自分自身を見失う前兆のような気がしてならなかった・・・・・・
 

 
つづく…

「彼女がポエムで伝えたかったこと」 実録、廃屋に残された少女の日記.55

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