留守宅に帰宅したら、別れた彼氏が待ち伏せ―私はショックで 小説 真愛~美女と野獣より・孤独な王子 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

 

~偶然の出逢いは「運命」だった?

この恋はもう、止められない―。

普通の女子大生がふとしたきっかけで知り合った彼は輝くようなブロンドと碧眼のイケメンだった。とんどん彼に惹かれていく私。でも、彼には謎めいた部分があって-。ディスニー映画「美女と野獣」に憧れる女の子がめぐ逢った恋とは?そして、「彼」の正体が明らかになる時。―俺は君を誰にも渡したくないと思う。君を誰かに奪われるくらいなら、いっそのと、この城にとじこめてしまいたいよ。

二人きりの古城で゛熱く囁かれる危険な夜。自分の気持ちが判らなくる私。恋と結婚の狭間で揺れる二十歳の女の子の気持ちを描きます。

 

 

 

ロザリナは小さな息を吐いた。誰も待っていない部屋に帰るのは、こんなにも侘びしい気持ちになるものなのだと改めて知った。
 ミッシェルとルームシェアしていて良かったとつくづく思う。
 その親友は今夜は郊外の実家に帰っている。何でも父方の祖母の具合が思わしくないのだそうだ。数日は泊まってくるとのことなので、今、ロザリナはアパートメントに一人だ。
 今日は久しぶりに街並み保存地区で似顔絵を描いた。同性愛者(ゲイ)だという若い男性のカップルが一組と微笑ましい若い夫婦は赤ちゃんを連れていた。どちらも観光客ではなく、この国の人たちだ。
 ロザリナに同性愛に対する偏見はない。もちろん自分がという設定になれば話はまた別だけれど、広く一般的な恋愛においては、恋に落ちるのに男女の性差はあまり関係ないと考えている。
 家族連れの方は、夫婦共に二十代後半ほど、赤ちゃんは女の子だった。生後半年になるという赤ん坊は歯が生えてきたばかりらしく、夫婦は子どもが笑ったといい顔を覗き込んで笑い、泣いたといえば顔を覗き込んで、あやした。
 見ている方が幸せになれるような幸福そうな家族の姿にロザリナの胸も熱くなった。
 おまけに、赤ちゃんの絵も描いてあげると、夫婦はとても歓んで宝物にすると言って帰っていったのだ。
 いつか自分も結婚はするだろう。家庭を持ち、何人か子どもを生む。けれど、今はそういう未来がどうしても思い描けない。まだトーマスと別れたばかりの傷が癒えるどころか、傷口からは血が溢れている。
 三日前のアーサー王子の言葉は堪えた。
―それなのに、何故、君は自分から愛する人の手を放そうとするんだ?
 別れ際、王子の端正な面には、はっきりと書かれていた。
―君には言葉を尽くして話せば理解してくると思ったのに、失望した。
 男女関係なく、ロザリナはアーサー王子のことが好きだ。トーマスとは一見、対照的なように見えるが、その実、二人の兄弟王子はとてもよく似ている。女性関係が派手だといわれるアーサー王子は実は、とても真面目で優しい人なのだ。
 アーサー王子と接してみて、ロザリナはそれがよく判った。皇太子には継母に当たるミカエル王妃と皇太子が疎遠にも拘わらず、異母弟アーサーと皇太子の絆は強いというのはこの国の民であれば周知のことだ。真逆なようでいて本当は似ているというところが、この腹違いの兄弟を近づけているのだろう。
 ロザリナは片手に提げた紙の箱を握り直した。中にはテイクアウトのピザが入っている。いつもはミッシェルと交代で夜の食事を作るのだが、今夜は一人だし手を抜こうと思っている。ピザ屋の隣のレンタル店で大好きなディズニーのDVDを借りてきた。〝シンデレラ〟の実写版だ。劇場公開されたときに観たいと思っていたのに、忙しくしている中につい見そびれてしまった。
 今夜はシンデレラでも観て、ピザを食べて早めにベッドに潜り込もう。
―普通の女の子はプリンセスにはなれないんだから。早く夢物語は忘れて、現実に眼を向けなくちゃ。
 今はまだ思い出すだけで辛いけれど、いつか彼のことも想い出になるかもしれない。ならなくても、そう思って前に進まなくては。
 トーマスは美しい夢をひととき見せてくれた。おとぎ話は終わり、王子さまは夢の世界に帰り、ヒロインになり切れなかった自分は現実の世界で生きてゆくのだから。
 ロザリナは自分なりに折り合いをつけて生きてゆこうと一生懸命だった。
 無人の玄関口を通り、エレベーターに乗り込み、四階を押す。ほどなく四階に到着し、廊下を少し歩いて〝四○四〟と記されたドアの前に立った。デイパックから合い鍵を出して開ける。
 ドアを開けて中に入ると自動ロックがかかる仕組みだ。ドアを開けてすぐにダイニングキッチンになる。学生が借りる典型的な安い賃貸アパートだ。それでも陽当たりが良いのとキッチンは別として部屋が二つあるのはありがたい。バス・トイレも完備である。
 ダイニングキッチンには大きなテーブルを設置しているので、とりあえずその上に紙箱を置いた。
 常夜灯がほの暗く室内を照らしている。何の気なしに視線を巡らせたその時、テレビの横に人影を認め、ロザリナは悲鳴を上げた。
「誰?」
 暗闇に包まれた部屋の片隅というのは更に闇が凝っているように見える。ロザリナは一瞬、本当に闇が人の形を取って現れたのかと思ったほどだ。
 夢中でスイッチを探し当て、室内灯をつけた。途端に明るくなった室内に、一人の男の姿が浮かび上がった。
「トーマス」
 ロザリナは身体中の力が抜けるかと思った。
「愕かせないで。泥棒かと思った」
 だが、考えてみれば、彼がここにいることも十分おかしい。ロザリナは警戒するように彼から少し距離を取った。
「何故、あなたがここにいるの?」
「ローズ、もう一度、考え直してくれないか?」
 彼はあの日―六月下旬の夢の夜と同じように黄色い薔薇のブーケを手にしていた。
「愛している。俺には、ローズが必要なんだ」
「もう、終わった話よ」
 ふと思った。アーサー王子は指輪をトーマスに渡してくれたのだろうか。見かけによらず思慮深いアーサー王子のことだから、まだ渡してしないような気がする。
 何より彼はトーマスと自分が別れることに反対しているようだった。
 高価なものだし、早く返したいと思っていたから、いつでも返せるように持っていたのだけれど、やはりトーマス本人に返した方が良かったのかもしれない。
「トーマス、私は自分の留守に勝手に家に上がり込むような男とお付き合いする気はないの」
 トーマスの白皙に血がのぼった。痛いところを突かれたのだろう。
「黙って上がり込んだのは悪いと思っている。でも、こうでもしなければ、君は俺と逢ってくれないと思ったんだ」
「どうやって鍵を開けたの?」
 部屋の鍵を持っているのは住人であるミッシェルとロザリナ、後は大家だけだ。大家は五十過ぎの親切な婦人で、一階に暮らしている。夫を数年前に亡くし、近くに息子夫婦が暮らしていると聞いている。
「ああ、大家さんに命令したのね」
 小さく首を振りながら言った。
「あなたは王子さまだから、鶴のひと声で大家さんは鍵を開けたでしょう」
 トーマスが恨めしげに言った。
「どうして、そんな言い方をする?」
「だって、本当のことでしょう。あなたはいずれ国王になる人だもの。誰もが皆、あなたの命令には逆らわない、逆らえないと信じている。でも、私は違うの。私はエーデリンデ人ではないのよ。あなたがこの国の皇太子殿下だからといって命令に従う必要はないの」
 本当はこんなことを言いたくはなかった。でも、彼とはもう、これ以上続けられない。彼の将来だけでなく自分のためにも、ここで別れた方が良いのだ。
 普通の女の子は永遠にプリンセスにはなれない。
 誰もが口を揃えて言う。プリンセスは見かけは華やかだけれど、常に人の眼を意識しなければならない。針の筵だと。
 ましてやロザリナは日本人だ。たとえ半分の血はこの国のものだとしても、日本で生まれ育って考え方は日本人である。遠く離れたエーデリンデとは生活様式も思考も違う日本人がヨーロッパの王室に嫁ぐなんて、できるはずがない。
「お願いだ、ローズ。もう一度、俺にチャンスを与えて欲しい」
「ごめんなさい。これ以上、もう話すことはないの」
 そう言って背を向けたときだった。
「離さないっ」
 トーマスが叫び、突進してきた。
「きゃぁっ」
 ロザリナは声を上げ、襲いかかってきたトーマスにその場に押し倒されていた。フローリングの床に倒れ込んだため、頭や腰を打った。
「トーマス、何をするの?」
「判ってくれ。ローズ、好きなんだ」
「止めて、こんなこと、止めて」
「止めない。俺はもう十分に待った」
 ローズはありったけの力で暴れたが、屈強な男の力に敵うはずもない。彼女のささやかな抵抗はあっさりと力で封じ込められた。
「俺はどうしても君を諦め切れない。悪いが、今夜、ここで君を俺のものにする。俺に抱かれれば、君も諦めるだろう。何なら、早く子どもを作っても良いんだ。君だって妊娠すれば、諦めて王室に入る覚悟をするだろう?」
「何言ってるの、トーマス」
 熱に浮かされたように呟く彼の瞳は尋常ではない色を湛えているようだ。いつもの優しくて冷静なトーマスはどこにもいない。
―怖い。
 ロザリナは何度か彼に対して憶えた恐怖をこの時も感じた。