ローズ、君は俺が守る。君を手放したりはしない―皇太子の決意は強く 小説 真愛~美女と野獣より・孤 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

~偶然の出逢いは「運命」だった?

この恋はもう、止められない―。

普通の女子大生がふとしたきっかけで知り合った彼は輝くようなブロンドと碧眼のイケメンだった。とんどん彼に惹かれていく私。でも、彼には謎めいた部分があって-。ディスニー映画「美女と野獣」に憧れる女の子がめぐ逢った恋とは?そして、「彼」の正体が明らかになる時。―俺は君を誰にも渡したくないと思う。君を誰かに奪われるくらいなら、いっそのと、この城にとじこめてしまいたいよ。

二人きりの古城で゛熱く囁かれる危険な夜。自分の気持ちが判らなくる私。恋と結婚の狭間で揺れる二十歳の女の子の気持ちを描きます。

 

 

 

 その次のページを捲ったロザリナは更に固まった。次の画像はロザリナとアーサー王子が寄り添い合っているものだ。二枚ある。どちらも大学でたまたまアーサー王子に声をかけられたときに撮されたらしい。
―だが、このロザリナ嬢には、色々と不穏な噂がある。ロザリナさんの交際している相手はトーマス皇太子だけではないというのだ。我々も調べたところ、ロザリナさんはトーマス皇太子の弟アーサー王子とも関係があるという。現に二人が仲睦まじそうに語らっている姿が王立大学内でも度々見かけられている。更には、このロザリナ嬢、一般人の開業医とも数年前から親密な交際を続けているという事実もあるとのことで、未来の皇太子妃候補としては、いささか奔放なお嬢さんではないかと関係者の間では物議を醸しているそうだ。
 流石に王族ではない一般人だからか、コリンの名前は出ていない。そのことに少しだけホッとしながらも、ロザリナは涙が溢れるのを止められなかった。
 すべて事実無根だ。トーマスと付き合っていたのは確かだけれど、アーサー王子とは二度大学内で話しただけだし、交際なんて、とんでもない。なのにゴシップ誌はその二回きりの写真をどこからか盗撮し、これが証拠だと決めつけている。
 最後の下りは更にロザリナを打ちのめした。
―我々は大学に通う途中のロザリナさんをひそかに追跡した。清楚かつ儚げな美少女で、数年前、ハリウッド映画で主演を務めてアカデミー主演女優賞を受賞した女優某(二十六)に激似した美女である。この美貌であれば二人の若き王子たちが虜になるのも納得はできる。しかし、三人の男を同時に手玉に取るのが二十歳の可憐な女子大生というのも何か末恐ろしい気はしないだろうか。まさに、十七世紀半ばに我が国を混乱のるつぼに陥れた妖婦カトリーヌが存在した。カトリーヌは夫のある身で国王トーマス二世に近づき愛妾となり、次はトーマス二世を殺して、その息子アーサー四世の寵姫となった。奔放なロザリナさんを見ていると、まさに王室の男二人を自在に操って権力を欲しいままにした彼(か)の毒婦を彷彿とするのは記者だけであろうか。
 末尾にロザリナの写真が掲載されていた。大学に行くところなのか、いつものようにカッターシャツにオーバーオール姿でデイパックを担いでいる。
 これのどこが〝可憐な美少女〟なのかは判らないが、通学途中にまで撮影されていたとは考えもしなかった。
 ロザリナは写真誌を握りしめ、唇を噛みしめた。あまりに強く噛んだので、血の味がした。でも、そんなのはどうだって良い。
 ロザリナは写真誌元に戻し、書店を出ようとした。そこで周囲から突如として声が上がった。
「あ、あの子、ロザリナよ」
「ええ、本当?」
 二人組の若い女性が歓声を上げ、スマホが向けられた。
「あの〝ロザリナ〟がここにいるのか?」
「女優のN似だって?」
 若い男性の声がして、またスマホが向けられる。
「ロザリナだって、わっ、可愛い」
「トーマス皇太子の恋人がいるってよ」
 あちこちで〝ロザリナ〟と囁かれたかと思うとスマホのレンズが向けられ、シャッター音が切れ目なく続いた。
「止めて。写真を撮らないで」
 ロザリナは叫びながら、手のひらで顔を隠してスマホを向ける客たちを押し分け外に出た。
 それは本当に経験した者にしか判らない恐怖だった。一斉にカメラを向けられる、恐怖。それも彼らは人を見ているわけではない、ただゴシップ誌に載っていた〝ロザリナ〟をあたかも珍獣を眺めるように面白半分で見ているにすぎないのだ。
 ようやっとカメラを押しやりつつ外に出た途端、眼前にマイクがヌッと突き出された。
「ロザリナさんですね。私、CBB局の記者をしています。今朝、ロザリナさんとトーマス皇太子の親密な交際が有名誌のトップに掲載されましたが、何か感想はありますか? 我々の関心としては、報道が真実かどうかというところがいちばんなんですけれども、実際のところ、トーマス皇太子とは、どのようになっているんでしょうか? 一部で破局説など早くも出ているようですが」
 ロザリナは恐怖に身震いした。まるでハイエナが狙いをつけた獲物に群がってくるようだ。幾ら逃げても容赦なく追いかけてくる。
「そんなことは知りません。私を追いかけてこないで」
 ロザリナは口早に言うと、まだ追い縋ってくる三十代くらいの男性記者から逃れ、石畳の道を横切ろうとした。いつもは必ず注意して渡るのに、そのときは通行車を気にするゆとりはなかったのだ。
 プップッー。烈しいクラクションを鳴らして向こうから白いワゴンが疾駆してくる。
 ロザリナは通りを横切っている途中で、身を強ばらせて動けなくなった。運転手のハンドル捌きのお陰で車には当たらずに済んだが、間一髪のところを車が疾走し、その煽りで転倒してしまった。
 それは、さながら可憐な一輪の花が風に煽られて折れたように見えた。
 遠くから救急車のサイレンがけたたましく響いてくるのを聞きながら、ロザリナは意識を失った。

 

 ロザリナが災難に巻き込まれていたその頃、トーマスは皇太子宮の執務室にいた。
「殿下、お耳に入れたいことがあります」
 室外の扉前に待機していたSPが軽いノックの後、顔を覗かせた。
「何だ?」
 父王が数日前から軽い風邪で寝込んでいる。そのため、皇太子である彼のところに普段は国王が見るべき書類が回ってきている。
 彼はそれらの書類に眼を通してから、国王の玉爾を捺す。既に議会で決議され、首相の公印が捺してあり、国王は形式的に承認したとの意味で玉爾を捺すだけだ。
 それでも彼は一枚一枚を疎かにせず、すべてに眼を通してから玉爾を捺すことにしている。
「ロザリナ嬢が」
 SPはいつもトーマスが下町に出かける際に付き従う、特に彼の信頼する者たちである。もちろん、離宮までロザリナとデートした日も彼らは目立たないように距離を置いて別の車で警護についていた。
「ロザリナがどうした!?」
 皇太子は血相を変え、執務机から立ち上がった。SPのところまで走り寄り、胸倉を掴まんばかりの勢いで迫った。
「何があった?」
「ロザリナ嬢が自動車事故で病院に搬送されたと―」
 トーマスは最後まで聞かずに執務室を飛び出した。
 廊下を歩きながら、彼は護衛官から更に詳しい事情を聞いた。
 今朝、国内でも販売トップ数を誇る写真週刊誌が皇太子の恋人発覚の記事を巻頭に掲載した。美形の皇太子が三十近くなってもいまだに結婚どころか、恋人の影さえないのは有名な話だ。
 一部では皇太子は同性愛者ではないかという不敬な噂さえ流れている中、国民が皇太子の恋愛問題に寄せる関心は高い。そんな中で、堅物で知られる皇太子の心を射止めた女性として、ロザリナの記事が報道された。しかも、湖岸デートした際の画像を撮影されていたらしく、ディープ・キスの写真が大きく掲載され、今、国内では大変な話題になっているという。
 ネットで検索をかけても、国内では〝エーデリンデ 皇太子 熱愛発覚 新恋人 ロザリナ〟などの検索ワードが急上昇しているとのことだ。
 トーマスは実のところ、この記事が今朝、世の中に出回ることは知っていた。王室庁の報道部から予め報告が入っていたからだ。だが、流石にその内容がここまで過激だとは迂闊なことだが、想像していなかったというのが現状である。
 流石の王室庁も記事全文を事前入手するのは不可能ゆえに起きた悲劇でもあった。
 まさかキスシーンまで撮られているとは考えもしなかった―。
 トーマスは暗澹とした想いに囚われつつ、傍らを歩く護衛官に問うた。
「それから、急上昇の検索ワードは?」
 護衛官が言いにくそうに告げた。
「後は〝二股〟と〝現代のカトリーヌ〟です」
 バンと、トーマスが左の手に右の拳を打ちつけた。
「くだらん」
 ロザリナが二股などかけられる娘ではないことを、トーマスは誰よりも知っていた。あの子はこの世のどんな女よりも無垢で優しい。だからこそ傷つきやすいし、そんな彼女を守ってやりたいと彼は思うのだ。
 アパートで待ち伏せていた夜、思わず弟と彼女の間を疑うようなことを言ってしまったのは、彼がその時既にゴシップ誌の記事内容をわずかなりとも知っていたからだ。だから、つい嫉妬に任せて彼女を傷つける暴言を口にしてしまったことをどれだけ反省して後悔したか知れない。
 けれど、彼はロザリナを守ってやれなかっった。王室庁から報告を受けた時、何らかの手を打っていれば、ここまで事態は深刻化しなかったかもしれない。
 言論の自由があるから、報道規制はできない。ましてや、現段階でロザリナが皇太子の恋人だというのは噂の域を出ない話だ。これが国王が認め、王室庁が公表した正式な交際相手であれば、ロザリナについて、ここまで酷い書き方をされることはなかっただろうが。
 すべてはもう遅い、遅すぎた。
 トーマスのように生まれながらの王族、皇太子であれば、ある程度は〝慣れ〟というものがある。報道に対する耐性とでもいえば良いのか。一歩外に出れば、すぐにカメラを向けられるものだ―という意識というか心構えのようなものがあるから、たとえ外出しても薄い膜を鎧のように纏い、外部に対して防護壁を築く習慣が自然に身に備わっている。
 計算された笑みを浮かべ、鷹揚に頷きながら歩くのは常にカメラを意識しているからであり、そこに本来の自分の姿はない。
 可哀想に、どれだけ怖かっただろう。
 いきなりトップ週刊誌にゴシップ記事が載り、キスシーンまでが流出した。しかも、弟のアーサー王子と二股かけている―どころか、あの町医者と三股かけていると妖婦呼ばわりされ、〝現代のカトリーヌ〟とまで悪し様に貶められたのだ。
 護衛官の報告によれば、ロザリナは自ら書店に写真誌を買いにゆき、そこで野次馬に囲まれた。次々にスマホで写真を撮られ逃げるようにして本屋を出たところで、テレビ局の記者に捕まったのが運の尽きだった。
―そんなことは知りません。私を追いかけてこないで。
 容赦なく質問を繰り出す記者を振り切り、道を横切ろうとした最中、対向車と接触、転倒したという。
 こうなるのは判っていた。なのに、自分は何の手もほどこさず、大切な女がむざと騒動に巻き込まれるような事態を招いてしまった。
 だが、まだ、できることはあるはずだ。
 失った信頼を取り戻すのは容易ではないかもしれない。
 それでも、何かできることがあれば何でもやってみるつもりだ。彼女との縁(えにし)を絶対にここで途切れさせたりしない。
 トーマスは護衛官と並んで皇太子専用車に乗り込んで、ロザリナが搬送されたという病院へ向かった。