ある町~去る人、来る人、戻る人~【フォトダイアリー】 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

あの人はどこにいったのか
この人は今どうしているのだろう
そんなことを時々考える
かつて自分が暮らしていた町をふと訪れてみた時
懐かしい隣人たちは元気でいるだろうか
相変わらず良い仕事をしているに違いないと
少しの淋しさと強い確信と期待を持ちながら
ゆっくりと歩いたことがあった
つば広の帽子を目深にかぶり マスクで顔を覆って
まったくの別人であるかのように

 

 

【写真はイメージです。作者が撮影した作品ではなく、フリー素材からお借りしたものです】

 

 

自分がどこに棲んでいるのか
そして どんな仕事をしているのか
かつては気になって仕方ないときもあった
自分と隣人を比べては溜息をつき
自分が取るに足りない小さな人間だと落ち込み
妬みさえ憶えるようになった日々
これではいけないと悟った
このままでは自分はどんどん嫌な人間になる
ある夜 ひっそりと長年住み慣れた町から逃げ出した
まるで夜逃げをする人のように

 

 

一年余りが過ぎて
懐かしい町に帰ってきた
離れている間に気づいたことがある
どんな仕事をしているか
成功しているかどうかよりも
もっと大切なものがこの世の中にはあると
仕事をどれだけ愛しているか
どれだけ集中して取り組んでいるか
長年 探し求めていた応えは自分の中にあった
他人と比べても見つかるものではなかった

 

 

今 私はかつての故郷に戻り
穏やかな日々を送っている
自分なりの仕事が自分のペースでできる
そんな今がいちばん幸せだ
かつてここで暮らしていた私だと知りながら
皆 気づかない新しい隣人として接してくれる
慣れ親しんだ町で「新しい私」として暮らすのも悪くない

 

 

あの人はどうしているのだろうと考えるのは
そんなときかもしれない
そして かつて夜逃げのように引っ越していった私について
「あの人はどうしているのか」と思い出してくれる人もきっといるのだろう
この町にはたくさんの住人がいる
長く棲んでいる人もいれば 
ある日 突然居なくなる人もいる
家だけは残し 住人だけが消えることもある
かつて私が暮らした家はそのまま残っているけれど
私は今 新しい家を建てて暮らしている
皆 それぞれ一生懸命に生きているのだ
去る人
来る人
戻ってくる人
そういう人を日々 呑み込んでなお
泰然としているこの町の不思議さを思う