韓流時代小説 光と闇の王~殺したい男がいる。そいつはこの国の王よ。私は義賊光王に助力を求めて | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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小説 光と闇の王 第二部 光の王

朝鮮王朝時代、家のために女官となった少女と若き内官の恋。

 だが、女官であった彼女を国王が見初めたときから、三人をめぐる

 運命の歯車が狂いだしー。

 恋人を惨殺された少女はプロの刺客となり、男装して内官に化け    

 て王宮に舞い戻る。すべては王に復讐するために。 

 ーあの男を殺したあなたを私は許さない!

 

 

☆ その端正な美貌は、まさに月のごとし。瞳はハシバミ色、時に陽の光を受けて深い蒼に染まり、長い髪は茶褐色、やはり陽の光のもとには黄金に輝く。
 まさに、月の化身、月の光を凝らせたれば、このような妖しき美しき男にならん。
 その男、ただいま、都で庶民から神のように慕われる天下の大義賊カンワンという
 まさに闇の世界を照らす、ひとすじの光となる光の王なり ☆ 

清花(チョンファ)は宮殿の女官を務める少女だ。育ての親ともいえる厳しい尚宮(サングン)には、いつも失敗ばかりして叱られてばかり。

 だが、貧しい家に生まれ、早くに父を失った清花は女官となったからには、将来、尚宮となり、キャリア女官になりたいと夢見ている。

 そんなある日、清花を若い国王が見初める。女好きで評判の王はいやがる清花を追いかけ回し、無理に我がものとしようとする。
 しかし、清花にはひそかに恋い慕う男がいた。男とはいえ、既に去勢して男ではなくなった若き宦官であった。
 清花を好色な王から、宦官は生命賭けで清花を守り抜こうとするが。。。

 

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 いつだったか、守尹と光王が二人だけで話しているのを耳にしてしまったのだ。あれは、確か、守尹があまり両班の奥方とは拘わり合いにならない方が良いと言っていたのだった。光王本人は後腐れがないつもりでも、不用意に拘われば、どこから光王の正体が知れるか判らないから、と。
 その時、光王が言っていた。
―愛してもおらぬ女と寝るのに、心など必要ないさ。相手は俺の身体といっときの火遊びを求め、俺はそれに見合う対価で相手をしてやる。心配するには及ばない。奥方たちは旦那に浮気がバレるのを何より怖れている。あいつらから俺のことが外に洩れる危険はない。
 あの科白を聞いた時、光王は、女を抱くときでさえ、どこまでも醒め切っているのだと軽い衝撃にも似た愕きを感じたものだ。むろん、二人は清花が外で話を聞いていたことなど知るはずもない。
 光王の塒は都の外れにある。賑やかな大通りを抜けて、小さな川が流れているその先だ。
 ここら界隈は昼間でも人通りが少なくて、物騒だといえば物騒だけれど、その分、訳ありの連中が身を隠すのには丁度良い。
 まるで欠けた櫛の歯のように、ぽつぽつと民家や小さな店が建っている。川には小さな橋がかかっているが、この橋を渡ってこちら側に来る暇な人間は実のところ、そうそうはいない。
 塒はごく普通の庶民の家だ。それこそ全部合わせても、煮炊きのできる厨房代わりの土間の他に、三部屋しかない。威承と清花が二人で一つを使い、光王と守尹はそれぞれ別の部屋で起居している。他の連中が転がり込んでくるときは、大抵、守尹の部屋で雑魚寝だ。だから、守尹は
「何で、俺だけが狭苦しい部屋で野郎どもと寝なきゃなんねえんだよ。なっ、光王。俺は清花と一緒の部屋が良いや」
 そんな戯れ言を口にしては、光王に睨まれている。しかし、守尹はけして女に無体をしかけるような男ではないことは知れていた。
 それに、彼には恋人がいるらしい。相手は妓楼の女―つまり妓生(キーセン)で、守尹は数日に一度はその女の許で夜を過ごすから、塒にも帰ってこない。これは威承から聞いた話で、あくまでも守尹には内緒という約束になっている。
 威承は近くの飯屋で働いていて、昼は塒にはいない。むろん、こちらも職人や人足といった庶民相手の店で、多少でも金のある者ならけして脚を踏み入れない類の小さくて薄汚れた店である。
 守尹は何をしているのかといえば、光王と共に行商をしているのだが、こちらは光王ほど商売熱心ではなく、途中で姿を消しては、どこかで油を売って、よく光王に叱られている。威承も守尹も育った境遇など微塵も感じさせず、明るいお人好しの兄妹だった。
 清花が塒に居着くようになって、三ヵ月ほどが経ったある日のことだ。普段、塒にいるのは清花だけで、皆、出払っているのが常だが、その日に限って、光王が昼過ぎに帰ってきた。
 昼飯を外で食べ損ねたので、何か作って欲しいという彼に、清花は即席でキムチ鍋を作った。むろん、たいした具はありはしない。魚が少々と野菜ばかりだったが、それでも光王は旺盛な食欲で瞬く間に平らげた。
「清花、お前が心に抱えている闇は、一体、何なんだ?」
 すっかり空になった碗を見つめ、光王が唐突に言った。
 愕きに眼を見開く清花を、光王は心もち眼を眇めて見つめた。
 この時、清花は光王の双眸が随分と色素が薄いことに気付いた。茶色がかった瞳の色は、彼のさらさらとした長い髪と同じ色だ。
 彼はいつも肩下まで伸びた髪を結い上げず、後ろで一つに括っている。だらしないといえばだらしないのだが、これがまた光王の常人離れした美貌によく似合っているのだ。
 まるで少しの嘘さえ許さないとでも言っているかのような彼の鋭い視線に、清花は眼を伏せた。
 氷を含んだような静寂が二人の間に落ちた。
 結局、清花は何も応えられなかった。
 光王は辛抱強く彼女の応えを待っていたが、やがて、ポツリと呟くように言った。
「生きろ。憎しみの焔を燃やしていても良いから、とにかく生きろ。生きることを諦めるな」
 何故、彼が自分の心をこうまで見事に言い当てたのかは判らなかった。清花は、医者くずれの老人が光王に〝この娘は生きることを拒否している〟―、そう告げたことを知らない。
 だが、清花自身は全く気付いていなかったが、必要以上に明るくふるまおうとする清花の態度は、光王だけでなく守尹や威承の眼にも健気というよりは痛々しく映っていたのである。時折、彼女の横顔に落ちる翳は、彼女が体験した苛酷な過去を何より物語っていた。
 宮殿の門の前に血まみれで気を失っていたことから考えても―しかも、そのときの清花の格好は見るも無惨で、明らかに陵辱された痕跡が身体に残っていた。
 後に彼女を診察した賢法は清花が生娘だと証明はしたものの、誰かに陵辱されかけたことは確かだった。身体中の至る場所に強い接吻の跡が刻まれており、また、下半身は指でひどくかき回され、傷ついていた。彼女が相当に乱暴な扱いを受けたのは明らかで、陵辱しようとした男は、自分の欲望に任せて清花に酷い責め苦を与えたのだ。
 彼女の衣服に付いていたのは、彼女自身の血ではなかった。だとすれば、彼女が宮殿で何らかの事件に巻き込まれたと推察するのは難しくはなかった。
 しかし、光王も誰もが清花自身にそのことを告げてもいないし、訊ねてもいない。触れるにはあまりに酷すぎる過去の傷であった。
 身体の傷は月日が経てば、治癒するけれど、心に受けた傷はなかなか癒えない。ゆえに、清花が自ら話そうという気になるまで、光王にせよ守尹、威承兄妹にせよ、この話題にはけして触れないようにしてきた。
「美味しかったぞ。また、作ってくれ」
 そう言って立ち上がり、部屋を出てゆきかけた光王の背中に向かって、清花は言った。
「殺したい人がいるの。手を貸してくれないかしら」
 刹那、光王の動きがピタリと止まった。
「そいつは誰だ?」
 当然の問いであったろう。殺す相手がどこの誰かも判らないで、手を貸すも何もない。
 振り返りもせずに問うた光王に、清花は言った。
「私の愛した男を殺した奴。―そいつは、この国の王よ。彼は私を守ろうとして死んだ」
「そうか」
 彼から返ってきたのは、ただそれだけだった。
 光王の中ですべての辻褄が合った。
 清花を欲情の赴くままに陵辱しようとした身勝手な男。
 恋しい女を守ろうと自らを犠牲にした彼女の恋人。その男は想い人を好色な国王の毒牙から守ろうとして死んだのだ。
 清花が見るも無惨な格好で宮殿の門前に転がっていた事情を理解した瞬間だった。
「手を貸して欲しいの。お願い」
 追い縋るように続けた清花を光王が初めて振り返る。
「それは、お前次第だ。俺は直接には手を貸さない。だが、お前が目的を遂げられるように、協力することはできる。人を殺すのは、お前が考えているほど甘くも容易くもない。相手を殺せなかったときは、自分が殺されるだけだ。だからこそ、玄人の刺客は相当の熟練した腕を持たなければならない。必ず一撃で相手を仕留めるだけの腕をな」