感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

両側性急性非閉塞性腎盂腎炎について

2017-03-04 | 感染症

背景にHCV感染とHCCのある方の、発熱、白血球増多、画像で両側腎の腫大あり両側性腎盂腎炎疑いとのことで当科に相談がありました。血液培養ではグラム陰性菌が生えつつあるとのこと。たいていは腎盂腎炎は片側なので両側性ということがあるのか文献で調べました。気腫性腎盂腎炎emphysematous pyelonephritis (EPN)でとりわけ糖尿病背景で発生し、両側性となる率もでてくるようですが、本例は気腫性を思わせるガス所見はありません。また尿管逆流症や子宮などの骨盤内の癌や腫瘍形成などの尿路閉塞機転もなさそう。非閉塞性で両側性の腎盂腎炎とは?

 

 

まとめ

 

・急性腎盂腎炎(APN)は、腎実質および集合系の細菌または真菌感染症として定義される。

・高齢者APNでは約5分の1の発熱がなく、胃腸または肺の症状を呈することがある

・大腸菌は症例の60%以上を占めている

・カテーテルや器具の使用が増えると、Proteus、Klebsiella、Serratiaなどの感染が増える傾向にある

・APNを示唆する画像所見としては、巣状/びまん性腎サイズの増加、densityの減少したくさび状領域、 腎周囲stranding毛羽立ち、 そして、腎皮質膿瘍および気腫性変化

・超音波検査は、急性腎盂腎炎の診断において正常でありしばしば非特異的である

 

・重篤な形態の腎盂腎炎である気腫性腎盂腎炎は、腎実質および/または収集管内のガスによって特徴付けられる。

・気腫性腎盂腎炎(EPN)でも 両側EPN(10%)はまれな現象

 

・非閉塞性の急性細菌性腎盂腎炎は、以前に健康なヒトで急性腎障害をきたすことは稀でありこの原因のリストにはあまり考慮されない。

・ARFを伴った成人腎盂腎炎患者の発生率は、1件の研究では2〜3%、10件では0.7%であった。

・急性細菌性腎盂腎炎に続発する急性腎障害例では、患者の大部分は、留置カテーテルの存在、免疫抑制剤の使用、妊娠、腎結石、単一腎臓、または非ステロイド性鎮痛薬やアルコール使用のようないくつかの素因がある状態を有していた

・腎盂腎炎におけるARFの発生の可能な病因として、好中球および食細胞の間質浸潤による尿細管機能の崩壊、間質性浮腫、細胞破片による尿細管閉塞および腎内血管収縮が示唆されている。 

・急性細菌性腎盂腎炎に続発し生検で証明された急性腎障害の16例の文献のレビューでは、多くで、多核好中球による間質性と尿細管周辺の炎症と微小膿瘍を示した。閉塞性尿路症または脈管炎の変化の証拠はなかった。

・Krishnamurthy らの報告した重篤な急性腎不全を呈した腎盂腎炎例では腎生検で間質性壊死の病巣を有する密集したリンパ形質細胞浸潤および好中球を示した。[Indian J Pediatr. 2008 Sep;75(9):961-3.]

 

・APNにおける急性腎障害(AKI)は、敗血症または腎実質の直接的な感染に起因して起こりうる。

 (1)両方の腎臓における感染の存在、

 (2)片側性腎盂腎炎による敗血症によるサイトカイン媒介性傷害

 (3)急性尿細管壊死をもたらす片側性急性腎盂腎炎による敗血症に続発する低血圧またはショック。

 

・Yadlaらは、2型糖尿病患者の両側性非閉塞性APNに起因するAKIの診断をした25例を報告。(UTIを示唆する)発熱および膿尿は全患者にみられたがいずれも両側の腎盂圧痛を認めなかった。AKIの程度が様々でAKIN 3は14名いて血液透析サポートがなされた。いずれもが尿路閉塞または逆流、または腎石を有していなかった。糖尿病患者と非糖尿病患者の比較研究ではなかったため糖尿病患者で一般的であるかどうか不明。 [Saudi J Kidney Dis Transpl. 2014 Mar;25(2):338-42.]

 

・Lee YJらは、腹部CTを施行したAPN入院患者を調べ全296名のうち両側APNを有していた99名を報告。両側性APN群で明瞭な圧痛を有したのは74.4%のみだった。また両側APN 患者の25.6%は片側性の圧痛を有していた。身体所見だけでは片側と両側APNを区別できないことを意味する。片側群と比較して白血球増加症、血小板減少症、菌血症、急性腎障害、ショックおよび死亡はより頻繁。尿および血液培養の陽性率もまた、片側群よりも両側群においてより頻繁であった。脳卒中または糖尿病の病歴、および入院前の症状の持続期間は、両側性APNに関連する独立した危険因子。 [Postgrad Med J. 2014 Feb;90(1060):80-5.]

 

・YadlaらはAKIを伴う両側性非閉塞性APNの9人の高齢患者を報告。6人が糖尿病患者であった。重度AKIのため5名で血液透析を施行、うち3名は透析から離脱。[Int Urol Nephrol. 2011 Sep;43(3):919-23.]

 

 

・治療

 

・Husainらの慢性腎盂腎炎による急性腎障害の1例では、患者腎機能の徐々の回復は適切な抗菌薬療法を伴い数週間にわたって起こった。[Int Urol Nephrol. 2011 Sep;43(3):925-8.]

・いくつかの報告では、抗菌治療にステロイドを追加した場合、重度の急性腎盂腎炎における腎機能の完全な回復および腎臓の瘢痕の縮小が示されている。

・急性腎盂腎炎と関連する腎障害がある場合、敗血症、腎毒性薬物曝露や造影誘発性腎障害などの可能性を考慮する必要がある。両側の腰痛がない場合、両側性急性腎盂腎炎の鑑別診断はしばしば見過ごされている。

・AKIを有する急性腎盂腎炎の各患者においては、両側性APNを除外するための画像検査など意図的な努力をすること

 

 

結構あるかもしれないのに見つかりにくいのは(志智まとめ)

 

CTで両側腎の腫大といっても軽度であったり過去CTと比較でもしないとなかなか両側共に腫大しているととらえにくいこと

両側の腎叩打痛など身体所見がないことが結構あること

腎障害は強く出ることが多いようだが、それと腎盂腎炎を結びつけるのは頻度からしても稀で思いつかない

 

 

参考文献

Saudi J Kidney Dis Transpl. 2014 Mar;25(2):338-42.

Postgrad Med J. 2014 Feb;90(1060):80-5.

Int Urol Nephrol. 2011 Sep;43(3):919-23.

Int Urol Nephrol. 2011 Sep;43(3):925-8.

Indian J Pediatr. 2008 Sep;75(9):961-3.

 


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