act… 自傷


「 ママ…ママ…… 」

ワタシの意識は次第に覚醒していく

「 ママ 」

「 心桜… 」

「 ママ、またうーうーって言ってたよ 」

「 そう起こしちゃったのごめんね 」

ワタシは布団をかけ直してあげた、またあの夢を見ていた…

血はつながってないけれどワタシの養女

ワタシの娘…みお

そう陽弥の血を受け継いだ女の子

3月に生まれたから桜の字を付けたかった
心から愛される女の子になってもらいたいと…
願いを込めつけたと照れながらワタシに聞かせた。

心桜は今年小学校にあがる
ワタシは24歳のときにSRSを受け女性となり間をおかずに4歳の女の子の母親となった…

今日は心桜の通う保育園の卒園式

桜の花はまだ満開ではないけれど、卒園式を盛り上げるくらいの花はつけている。


『 陽弥、見てるよね。心桜はもう卒園だよ、今日と入学式の為に新しいスーツを買ったよ。どう似合ってるでしょ…ねえ陽弥 』


仲の良いママ友に園の門の前で心桜と並んだ記念写真をとってもらうと心桜は友達と今日で最後の保育園の門を駆け足でくぐった。

「 ママ、早く早く … 」


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「 ユウキ、突然すまない別れてくれ 」

突然彼は切り出した。
ワタシは理由を問い詰めたが全ては自分が悪いんだの一点張りで理由を言おうとしなかった。

「 そんなんじゃ全然納得できない、薮から棒に別れようだなんて言われて理由もわからずに、はいそうですかと別れるなんてできっこないでしょ 」

陽弥は観念したのかポツポツと語り出した

「 すまない、前から付き合っている女性がいる…そして子供ができた。だから別れてくれ 」

「 ウソでしょ陽弥… 」


陽弥の車の助手席でワタシは顔をしかめ声を押し殺した…

異変に気付いた陽弥がワタシを呼ぶ声が薄れゆく意識のなかで木霊した…



「 …ウキ……ユウキ… 」
気付いた時には病院のベットだった
ワタシをのぞき込む陽弥の顔に焦点が合う
声をだそうにも言葉が出てこない、変わりに涙が流れた。

ワタシは車の中で飲んでた缶ジュースのプルトップで左手首を自傷していた、その瞬間の記憶はない

別れの言葉を聞き、突発的に指でもてあそんでいたプルトップで切ったようだった。
夜目にもわかるほど白くなった顔と意識をなくしたワタシに陽弥はルームランプを点け手首から流れ出ている血に気づいた、慌てて救急車を呼びワタシは搬送された。


意識が戻った時には失語症になっていた。
医師の診断では精神的ショックの為で一時的なものという判断だった。
傷は意外と深く心のケアも必要なために2週間の入院を余儀なくされた。

「 ユウキ…なんて言ったらいいのか 」

彼は一晩中ついててくれたようだ憔悴した顔には髭が伸びている。
ワタシはジェスチャーで書くまねをした。
彼は察しナースステーションでメモ用紙とボールペンを借りてきた。

『 もう帰って、あなたの顔を見てると辛くなるから 』

「 わかった、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ、できる限りの事はする 」

医師はワタシを1人にするのを渋った、精神状態が安定するまでは付き添いの者を付けるようにとのことだった。


今は誰にも会いたくない
陽弥に純女との子供ができた
こんな形での裏切り、許せない
心が震えた
死にたい…


ワタシは陽弥に車からバックを持って来るように頼むと菊美ちゃんに電話をしてもらった、彼女は出勤の途中だったらしく、そのままかずみさんに連絡をし3日間の休みをその場で貰うとその足で駆けつけてくれた。

彼女は病室に入るなり

「 ユウキ大丈夫!」
と駆け寄り左手首の包帯を見た、

その途端

「 あんたユウキに何したのよ!」と陽弥につかみかかっていた

たまたま入院手続きをするために来た看護師に止められ事なきを得た。
陽弥は菊美ちゃんに事情を説明し菊美ちゃんにワタシの事を引き継ぎ帰って行った。

ワタシの手を取り「 かわいそうなユウキちゃん、私だったらユウキの事こんな目にあわせないよ 」

涙ながらに彼女は呟く
ワタシもしゃくりあげて泣いた

「 ユウキ安心して私がずっと付いててあげるから、かずみさんに言ったらこれは休みじゃなく業務命令だってさ、だからあなたを見てる事で私は時給が貰えるの24時間が3日分だから72時間分。だから遠慮しないで 」

彼女はそう言うと病室を見渡し

「 入院の用意何もしてないんだよね。あとで看護師さんに頼んで私、買ってくるから。お金は心配しないで、あの男に全部請求するから、ここの入院費用もね 」

早速彼女はナースコールを押し看護師さんを呼ぶとワタシの事を見ていてくれるように頼んだ。
看護師さんは快く了承し菊美ちゃんは買い物に行った。

しばらくするとワタシは眠りに落ちた処方された薬は精神安定剤なのだろう、看護師さんの付き添いもいらないようだった。
目が覚めた時には菊美ちゃんが帰っていた

「 起きた?」

ワタシは頷き返事する。

「 色々買ってきたよ 」

ワタシは買い物の袋の量に圧倒された

『 それ菊美ちゃんひとりで持ってきたの 』

「 タクシー使っちゃった。多分足りないものはないと思うけど欲しいものがあったら遠慮なく言って 」


『 あんまりお金使うと悪いよ 』

「 なに言ってるのユウキ。あんたがこんな事になってるのは誰のせい?男だったら自分の撒いた後始末するのは当たり前よ、慰謝料請求してもいいくらいなんだから。ユウキは余計な事考えなくていいから、ワタシが全部うまくやってあげる 」

陽弥も菊美ちゃんが相手だと適わないだろう
大変な相手を敵にまわしてしまったようだ。

ワタシにとって一番恐れていた結末だった
陽弥は結局、純女に戻っていった。

「 君を悲しませるような事はしない 」と言ってくれたのに…初めはそれでも安心出来なかった、いつか純女の方を選ぶんじゃないかって恐る恐る始まった恋だった…しかしこの2年間は安心しきっていた、幸せは永遠に続くものだと思っていた。

そのぶんショックは言葉では言い表せない…

『 子供出来たなんて言われたら認めざるを得ないじゃない…ずるいよ陽弥…
ワタシはどう逆立ちしたってあなたの子供は産めないのに…姿が女性になってもワタシには膣も子宮もない、もしも純女だったらあなたの子供を宿したかった 』

「 ユウキ…泣いてるの 」

彼女はワタシを抱きしめて流れた涙を唇で吸い取ってくれた

「 かわいそうなユウキ 」

それからというもの菊美ちゃんがいる事で随分気が紛れた
入院して3日目精神状態も安定してきた、この3日間お店の仲間や薫ちゃんや叶愛さんなど入れ替わりにお見舞いにきてくれた、部屋は花だらけとなり菊美ちゃんはとうとう花のお見舞いをストップした。
看護師さんのあいだでも菊美ちゃんは人気者となりワタシが寝ている間は看護師さんとおしゃべりしてたようだ。

「 それでね511号室の人ね… 」

どこで仕入れてきたのか他の病室の患者さんの事を面白おかしくワタシに聞かせる

「 アハハ 」

菊美ちゃんの大きな目がことさら大きく見開いて

「 ユウキ、今笑ったよね 」

ワタシは喉を意識し言葉をだす

「 菊美ちゃん… 」

「 出た出たユウキ!声が出た! 」

菊美ちゃんは感激のあまり泣き出した。
ワタシが起き上がると二人して抱き合いながら声をだし泣いた…



次回は act… 心の闇

お楽しみに

ユウキ






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