バハムートの焼肉@オイレンのラノベ置き場・双札

月から金、土はときどきを目標に私が書いたラノベを置いていきます。

一人ぼっちの魔王/2

 
一人ぼっちの魔王 2
 
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 「誰だ、あれは・・・?」
 城下町と外を隔てる門の前で、人が来るはずもない街道を、一人の男が余裕ありげに歩いてくるのが見えた
 腰まで届く銀の髪持つ赤い瞳の女にモテそうな美青年だ、
 だが、その体には暗黒竜の甲殻を重ねて編んだような前開きの鎧とブーツ、その下に胸元を大きく開けた体を覆い尽くすような黒いインナーを着て、
 頭には上うねる角を左右に付けた頭飾りを付けている、

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 見た目のそれも異様ながら、それよりも大きな問題は、その男がまとう魔力・・・、
 魔法使いが内に持ち、術を使う際にそれが波動の様に拡散する、それは俺を感じたことがあるのだが、魔力を持たず、魔法に疎い俺でも、奴からはそれが全身から滾り切っているのがわかる、
 明らかに異様な存在だ・・・
 「おい、そこの怪しいの!」
 思わず、そいつに声をかけていたのも無理からぬことだろう
 ・・・数刻前・・・
 「退屈ですよインガルドさん」
 「馬鹿、真面目に見張れ」
 左手の方からうだうだ言ってくる黒肌の新人騎士、デラクに対して思わず諌める、
 ようやく師の騎士付きから一人立ちを認められたのはわかるが、手柄が欲しくて血が熱くなるのを収められないのだろう
 マナス王国王都の栄えある門番の一人に選ばれたのだ、もう少し落ち着いてほしいものだが、
 とはいえ、こいつが退屈だと言うのもわからなくもない、
 いつもならばひっきりなしに人が行き来するこの往来も、今は全く人が通っていない、
 理由は先日起きた大地震だ、
 この王都はここ正面門に左右奥に一つずつ門があるが、その奥二つは城璧外の見張り台や刑務所に通じているにすぎず、右の門は森を通ればこの正門まで来れるが、左の門にいたっては周囲を海に閉ざされ刑務所以外どこにも行けない始末だ、小船を使えばどうにかなるが、
 というわけで、他の都市に行くためには必然的にここの街道を行かねばならないのだが、その先が今は全て潰れてしまっている、
 この先に十字路があるのだが、左の道は先に港町があるものの、地震と一緒に発生した津波により、船が全て使えなくなり、港町自身にも大きな被害をこうむった、現在、兵士も動員しての全力復興作業中である、
 右の道には魔法都市カレテアに通じる、岩山に挟まれた狭い道がある、が、地震によって大規模ながけ崩れが起き、現在、兵士と土木作業員と共に全力で復興作業中だ、
 そして、最後に正面の道、こちらは先に経済都市、マリネスの通じる海上の大橋が存在している、
 綺麗な灰色のレンガを組み合わせて作られた洗練された橋だったが、地震には勝てないのか古かったせいか、大規模に崩れ落ち、現在、全力で復興作業中だ、
 幸い、王都には目立った被害は無い、さすがに高いところの物が落ちたなどはあって嫁が愚痴っていたが、これくらいは仕方無いだろう・・・
 今、攻め込まれたら私達はどうしようもない、
 秘密裏に将軍様が兵士達に行った言葉が頭の中を跳ね回る、
 確かにその通りだ、
 手練れの兵士たちの八割は街道の封鎖と見張りと工事の手伝いを兼ねて街道三方の方に行ってしまった、
 二割は城の警護に当たっている、実質、城下町の警護に当たっているのは指揮以外、新人騎士が中心に・・・
 さらには、移動手段が地震で遮られ他国はおろか周辺の別の都市にも救援を頼めぬ状況、
 デラクが一人立ちを早めに認められたのも、この状況に対応しなければならないという事情がある、当の師は故郷の港町が心配なのかそちらの方に行ってしまった、
 王城の真下には隠し港があるという噂もあるが、これはあくまで噂であるし、仮に真実だとしてもそれを利用できるのは王族くらいだろう、俺達には関係ないことだ
 さて、現状だ、
 怪しい恰好をしているものをみて驚き、思わず声をかけ、きびきびと近寄って行く
 「そのような怪しげな恰好をしている者を王城に入れるわけにはいかん、それにその張り切った魔力、何かの呪詛を使っているのか?残念ながらそんな輩を先に通すわけにはいかないな、もし通りたいなら何か身分を証明するものを提示してもらおうか」
 が、その黒いのは、表情を変えず、平然と俺の方を見るのみ
 「おい、聴いているのか!?」
 「私は、1番にスケルトン30を召喚、来い」
 その男の左右の大地から、多量の人骨が湧き出してくる、一様に右手に剣を持つ・・・
 「な、何だそいつらはっ!?」
 あいつが魔法で呼んだのか!?思わず叫びつつ危険性を感じて後ろに下がり、デラクの方に顔を向ける
 「おい!早く門のそばで控えてる奴らに援軍を要請しろ、その後、城下町の人々に避難を叫びつつ城の方に報告に行け!俺はここでこいつらを抑える!」
 その後、デラクが駆けて行く中で一目散に門の方に走る、何人も同時に出はいりできる門だが、伸ばせば剣で一閃できる、全方位をきっちり囲まれるよりかはましだろう
 「ここから先は通さんっ!」
 男に向かって啖呵を切り、左手の盾を前に構える、
 第一に防御を、マナス式剣術基本の型だ
 「行け」
 間髪入れずに男が右人差し指をこちらに向け言い放った言葉、
 それに骨の一体が反応して、こちらに近づき、大上段に剣を振り上げる
 「何の!」
 振り降ろされてきた剣を盾で弾き、左腰の剣を抜きざま、一気にスケルトンを突く、
 マナス式剣術第二の型、防御から派生した返しの剣技である、
 突き飛ばされた骨はそのまま地面にぶつかりバラバラとなる、
 「よし!」
 数は多いが一体一体は大したことないようだ、いざとなれば一気に踏み込んで剣を振り回して・・・
 「だらしがない、次だ」
 と、あの男の言葉で別の骨がこちらに・・・ん?
 「そいつは・・・その右目は・・・」
 思わずそのスケルトンの右目に注目してしまう、本来眼球が入っているべき空洞、その斜め上外側から下内側にかけ、何かの巨大な爪で掻かれたような傷跡が付いていたからだ
 いや、そんなはずは・・・
 そんなことを考えている間にも、骨がこちらに走り込み、右腰の方からすくい上げるように剣を叩き込んでくる
 ぐっ・・・
 思わず盾を向けて防御する、
 この剣はこの後力ずくで相手を浮かせることを目的とする、相手が盾で防いでくる前提で繰り出される剣だ、
 マナス式剣術の穴をあえて突くことで相手にその後の対処法を叩き込ませるための剣術・・・俺はこれを好んで繰り出す男を師と呼んでいた、いや、師は俺を鍛えるためにあえてこの剣をよく使っていたのかもしれない、そしてその師は右目に・・・偶然か・・・?
 いやそれよりも今はこいつの対処が先だ、これの対処はこの後間髪入れずに剣を相手に・・・
 「私は手札から使役式・ファイヤースウェイを発動、マナス王国兵士 インガルド・ロウグスを墓地に送る」
 な、馬鹿な、あの男・・・!?
 「貴様、今俺の名をっ!?」
 「魔性の小炎よ、消滅へと導け、使役式・ファイヤースウェイ、逝け」
 放たれた小さな火の玉が、骨の上を通り、俺の方に向かってくる、
 その大きさははっきり言って柄の先程度しかないが、そこには俺でもわかるほどはっきりとした魔力に満ち溢れている、
 あんなものを喰らうわけにはいかない!
 「うぉおおおおお!」
 正しい対処法なんて無視だ、力ずくで押し通る!
 右拳でスケルトンをぶん殴って吹っ飛ばし、自由になった盾を間髪入れずに火の玉の方に向ける、
 火の弾が当たった瞬間、急激な熱膨張に体が圧縮される感覚を覚え、肌が火傷しそうな位に焦げ付く、
 だが、それは一瞬、鎧が熱で変形し、盾が溶けて使い物にならなくなるも、なんとか耐えきった
 「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ・・・」
 しかし、盾と一緒に左腕も使い物にならなくなった気がする、いや、動くか、感覚が無くなっても動ければそれでいい
 と、いきなり男の右手にカードが出現する、何だあのカードは・・・
 白と黒が斜めで区切られ、端の方で反転している、何より、あのカードにも魔力がみなぎっている、一体・・・
 「私は使役式・オーバーマジックワーカー・序を発動し、スケルトン30の魔力を三千上げる、幾多の暗黒の闘士よ、その力を増せ、オーバーマジックワーカー・序」
 前に出されて行われた宣言により、カードの魔力が骨たちに分割して向かって行く・・・
 と、ここで初めて気が付いた、人骨たちが持つあの幅の広い古ぼけた両刃の剣、あれは全て、マナス軍の旧式剣だ!
 馬鹿なあの剣はもう使われていないはず、先の大戦の後、軽くてより硬く鍛えられた、俺達が今使っている新式の剣の原料となったはず、
 残っているものがあるとすれば、それこそ、一般の人間に渡った物を除けば・・・
 はっ、そうだ、大戦終了後に鎮魂として装備のいくつかが軍設の兵士たちの墓に相当数、他の装備と一緒に埋葬された・・・
 まさか、このスケルトン達はそこからあいつの魔力で呼び寄せられ操られているのか!?
 だとするならあの右目に傷持つ人骨、
 昔、一緒に森に魔物を退治しに行った我が師、討伐対象だった左右から上に曲り角を生やした大型の熊のような魔物、
 我が師は、俺が先走ったばっかりにその右目に魔物の爪を深々と突き刺され、それが脳まで達していたのか、俺の前で息絶えた、俺はその後救援に来た他の騎士に助けられ、師は軍共用の墓地に埋葬されたのだが・・・
 やはり、あのスケルトンは・・・それに、他の人骨たちも・・・
 が、その人骨たちが、まるで俺をあざ笑うかのようにカタカタと笑い始める、その様子に、思わず俺は気圧され・・・
 「ま・・・待て、待ってくれ・・・」
 思わず情けない声を上げてしまう、いや、この際だ、まず、
 「なぜだ・・・なぜ・・・貴様は俺の名を知っている!?」
 「なぜも何も、そのぐらい、私の術をもってすればたやすいことだ」
 「なに!?」
 こいつの術!?それで俺の名前を知ったというのか、そんな魔法は聞いたことが無いが、俺の勉強不足なのか・・・?
 が、そいつは余裕の表情で俺を見下し
 「さて、すぐに貴様も先輩騎士の元に送ってやろう、なに、すぐに貴様の妻と娘も逝くことになる」
 「な・・・」
 俺の師をスケルトンにして無理矢理使役するだけでは飽き足らず、俺の妻と娘も手にかけようというのか・・・
 「きさまぁああああ!!」
 「行け」
 倒したはずの骨が再生し、それが先頭となって全ての人骨がこちらに向かってくる、無論、我が師の骨も一緒だ
 が、ここで熱くなってはダメだ、先ほどの言葉はおそらく挑発、俺を熱くさせるための罠、
 ここは十分に向こうを引きつけ、ここだっ!
 「このぉ!」
 思い切り剣を回し一閃、骨たちを一気に斬り崩す、よしっ
 が、次の瞬間、上高くに跳躍する骸骨たちが見え、後頭部に鈍い衝撃が走る
 「がっ」
 体が自由を失い、膝が地に落ち、前のめりに倒れてしまった、
 無数の痛みが体を襲う、そのほとんどが何かの鋼の塊を打ち付けてくる痛み、
 力が抜け、体中から出血しているのがはっきりとわかる、
 ぐっ・・・熱くなりすぎてしまったか・・・
 我が師よ、デラクよ、兵のみんなよ、妻よ、娘よ・・・すまない・・・
 誰か、奴を止めてくれ、
 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょぉおおぉおおおおおおぉお!!
 
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