MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯610 キャリブレーションスキル

2016年09月22日 | 日記・エッセイ・コラム

 たまにランチを食べに行くオフィスの近くの洋食屋さん。とてもおいしくて毎日でも通いたい位なのですが、残念なことに(ホールに出ている)接客係の人がとっても無愛想で、一部の常連客以外にはどうも人気は今一つのようです。

 おそらくは、お昼の忙しい時間だけパートタイムで手伝いを頼まれている人達なのでしょう。見た目50歳がらみの女性が二人、そろって話しぶりがぶっきら棒なだけでなくお皿やコーヒーの出し方もかなり乱暴です。そして、何よりもお客さんの「気配」に気が向かず、二人で世間話などをしていてなかなか目を合わせてもらえないため、皆な注文をお願いするタイミングに苦労しています。

 なぜ、その人達がずっと雇われ続けているのかはわからないのですが、もしかしたら親戚かご近所の人、ともかく(断り切れない)お店の御主人の知り合いということなのかも知れません。

 この女性達に限らず、(決して悪い人ではないだろうに)よりによってどうしてこの人が客商売をやっているのか理解できないというタイプの人を、しばしば接客の現場で見かけることがあります。

 そういう人たちは、時に居酒屋の店員だったり、ビザの配達人だったり、宝くじ売り場の売り子さんであったりもするわけですが、意外なことに以前は無愛想の代表格とされていた交番の警察官や市役所や郵便局の窓口の人などは、最近では随分とにこやかで丁寧、さらにはフレンドリーになっていることに驚かされます。

 そうした(接客に向いていないなと感じる)人に接した際によく思うのは、やはり他の人と円滑なコミュニケーションを築くためには、一定の「認知力」のようなスキルが必要なのではないかということです。

 それが生まれつきのものかどうかは別にして、相手が「何を考えているか」や「何を求めているか」について察する(察しようとする)ある種の能力(意欲)が備わっていない人には、「接客」の基本的なスキルはなかなか身につかないものなのかもしれません。

 愛想の悪い人は、(恐らく)自分が決してほかの人より愛想が悪いとは気付いていないのではないかと思います。気が回らない人だってわざと気を回さないわけではなく、気の回し方がわからないだけであることは(きっと)間違いありません。

 無論、自分が相手の表情や態度、配慮などを「気持ち良い」と感じることができれば、相手にもそうしたいと思うでしょうし、自分の表情や態度、配慮などによって相手が気持ち良くなっていることが判れば、更にそうしたいと思うことでしょう。

 つまり裏を返せば、そのような経験が無かったり少なかったりする人は、接客に必要な表情や行動、気遣いなどが理解できないということになります。

 確かに、人から気遣いをされて「気持ち良い」と感じるためには、幼いころから「人に気遣われ」そしてそれを心地よく有難く受け止めた経験や、自分の態度や言葉、表情によって、相手を気持ち良くさせられたという実感が必要なことは想像に難くありません。

 自分の気持ちを「察してもらえた」経験なしには相手の気持ちを「察する」能力は育たないし、「察する」ことで喜んでもらえた経験が無ければ、人を「察する」モチベーションは生まれないということでしょうか。

 「接客」という仕事には、どうやらこのように、(「能力」以前の問題として)生来の資質や育ってきた環境に由来するある種の「適性」のようなものがあるような気がします。

 例えたった10分間の面接でも、相手の目を見てかすかにほほ笑めば、そのリアクションから対人業務への向き不向きくらいはわかるものです。

 さて、そう考えればなかなか奥の深いこの「接客」のスキルについて、9月18日のYahoo newsは、経営コンサルタントの横山信弘氏による「なぜ道で人にぶつかるような人は『接客業』に向いてないのか?」と題する興味深いレポートを掲載しています。

 横山氏はこのレポートにおいて、ラッシュ時の駅やスクランブル交差点など、別々の方向に歩く人が混ざり合う場所でよく人とぶつかってしまう人は、総じて「サービス業」「接客業」には向いていないと言い切っています。

 こうした場所でよくぶつかる人は周りへの注意が足りない人であり、特に付加価値の高い商品を販売する店舗スタッフは務まらないと横山氏は言います。そして、その理由は、そういう人には「キャリブレーションスキル」―いわゆる「先回りの観察眼」が足りないからだということです。

 横山氏によれば、航空会社の優秀なCA(客室乗務員)は、「乗客にコールボタンを押されたら負け」と考えているということです。

 それは、コールボタンを押される前から、乗客がこちらを見る目、見ていなくても行動の変化などを察知し、先回りして声をかけることが最も大切だと普段から教育されているからだと氏は説明しています。

 例えCAでなくとも、ビジネスなどの場で一定以上の成果を上げるためには、周りの人たちへの気配り(と周囲を和ませる少しばかりの愛嬌)が必要なことは敢えて指摘するまでもありません。

 そして、そのような「気配り」のスキルを身につけたければ、相手の一挙手一投足を見つめ、表情の変化を読み取り、次に自分が何をしたらいいのかを先回りして観察する力「キャリブレーションスキル」を手に入れることが重要になるというのが、横山氏の見解です。

 それでは、キャリブレーションスキルは一体どうしたら身に付くのでしょうか。

 田舎から出てきたばかりの人は、誰だって都会のラッシュアワーの人込みを(人にぶつからずに)すいすい歩けるわけではありません。

 しかし、だからといってそこで諦めたりせず、人混みに入っても自分が向かう先(目標や結論)のことばかりを考えるのではなく周囲の様々な存在(や思い)に気を遣いながら進む努力を続ければ、こうした力は知らず知らずのうちに身に付いてくるものだと横山氏は説明します。

 もとより、(私自身)生まれ育った環境や成長過程での経験の影響なども大きいのではないかと考えていましたが、「目端が利く」という言葉もあるように、対人業務には周囲を見渡す力がさらに求められていることは、氏の言う通りなのかもしれません。

 人の立場に立った「気遣い」を続けることで、人込みを歩く時の作法は(自然と)身に付くものだとする横山氏の指摘を、「キャリブレーションスキル」という言葉とともに、このレポートから興味深く読んだところです。




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