MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯968 孤立死という逝き方

2018年01月15日 | 社会・経済


 本人が生前「孤立」していたかどうかはともかくとして、自宅で誰にもみとられずに亡くなるケースを「孤立死」と呼んでいます。

 ここで言う「孤立」に明確な定義はなく、遺体発見までの期間や自殺を含むかどうかなどの点については、自治体間で(かなり)ばらつきがあるということです。

 以前は(メディアなどでは)「孤独死」という言葉が使われることが多かったような気がします。しかし「孤独」には主観的な意味合いが強く、また夫婦や兄弟など複数人が孤立状態で亡くなることもあることから、厚生労働省は現在「孤立死」の方を推奨(?)しているようです。

 私たちが思い浮かべる孤立死の一般的なイメージとしては、周囲とあまりかかわりを持たない独り暮らしのお年寄りが、「最近見ないな」と思っていたら自宅で亡くなっていた…というものでしょうか。

 高齢化の進展や地域社会の人間関係の希薄化に伴い増加が予想されているこの孤立死について、10月29日の読売新聞は「「孤立死」年1万7千人超…65歳以上が7割」と題する(ある意味)衝撃的な記事を掲載しています。

 昨年1年間に誰にもみとられず自宅で亡くなった一人暮らしの人の人数について、読売新聞が都道府県警や東京都監察医務院に取材したところ、19道県と東京23区内で1万7433人に上ることが判ったと記事は報じています。

 このような「孤立死」に関する統計は、従来特定の自治体だけの数値や民間の研究機関による推計値しかなく、公的機関が把握する実数が一定規模で明らかになるのは初めてだということです。なお、残りの県警などからは、統計の取り方の違いなどを理由に条件に合う数字を得られなかったとされています。

 今回の調査では、監察医務院の定義を参考に「自宅で死亡し、警察が検視などで関与した独居者(他殺、自殺を除く)」を孤立死と位置づけ、その属性を分析しています。

 その結果、65歳以上が7割超の1万1745人を占め、(対象地域内での)死亡者数全体に占める割合は、約30人に1人にあたる約3.5%で、最も高かったのは東京23区の5.58%、低かったのは佐賀県の2.12だったということです。

 19道県と東京23区での全死亡者数は全国の約38%を占めているということですから、これを基に昨年1年間の全国での孤立死者数を単純計算すると約4万6000人に及ぶ計算です。あまりピンときませんが、日本のどこかで、毎日125人以上の人が人知れず無くなっているという事実に思いを馳せれば、現在の日本では「孤立死」もかなり身近な死に方であることが判ります。

 また、2012年以降の孤立死者数が把握できる東京23区と神奈川、静岡、岩手の各県で年ごとの推移を比較すると、2016年の合計人数はこの4年間で約8%増えているということです。

 さらに、東京23区内で昨年に孤立死した人の傾向を見ると、性別では男性が7割を占め、最も多かった年代は、男性が65~69歳(約19%)、女性は85歳以上(約29%)だったとされています。死因は、全体の約半数が虚血性心不全などの循環器疾患で、その多くが(いわゆる)突然死とみられるとされています。

 一般的に考えて、高齢になってから地域や親族などとの人間関係が薄くなってしまいがちな男性の方が(やはり)孤立に陥りやすいということでしょうか。特にサラリーマンでは、定年退職後は当然のように仕事上の人間関係もなくなり、年をとってから新しい人間関係をつくるのはなかなか難しいということは容易に想像できます。

 また、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などの循環器系の疾患のリスクが高い人では、(さっきまで元気だった人でも、突然の悪化や発作の可能性があることから)孤立死を招きやすいことも理解できるところです。

 いずれにしても、記事は、孤立死した人の多くは周囲に助けてくれる人がいなかったり、介護などに関する情報を得る機会を失っていたりした可能性が高いとしています。

 本年5月8日の「週刊AERA」に掲載された「孤立死はどうすれば防げるか 23区内で一人で亡くなる人が増えている」と題する特集記事によれば、都内で孤立死が最も多い足立区では2013年から「孤立ゼロプロジェクト」を展開し、介護保険サービスを利用していない70歳以上の単身世帯や75歳以上のみの世帯の住民情報を自治会や民生委員などに提供し、定期的な訪問活動を進めているということです。

 また、さいたま市では「郵便物や新聞がたまっている」などの通報基準を設け、東京電力など計31の民間事業者と連携して不審な状況に対する通報を受け付けるなどの対策を新たに始めているとされています。さらに現在では、電気ポットやガスコンロなどと連動させた生活状況の確認設備なども民間事業者などにより販売されています。

 確かに、健康リスクの高い高齢者の生活以上の動きをより正確にモニタリングできるようなセンサーを活用することなどで、孤立死の発生はある程度は抑制できるかもしれません。AERAの記事でも、AI(人工知能)は介護業界の深刻な人手不足を解消する切り札になり得ると期待しています。

 AIにより正確に要介護者の行動を認識し必要なときだけアラームを鳴らせるようになれば、例えば夜勤の人間を減らせるようになる。的確な見守りが可能になればサービスも普及し、廉価な提供も可能になるだろうということです。

 さて、(そうは言っても)今後、特に都市部において独居の高齢者が爆発的に増えていくことは(もはや)誰にも止められません。

 1月18日に発表された国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、単身世帯は2026年に初めて2000万世帯を超え、2040年には全世帯のほぼ4割に達するとされています。また、特に65歳以上の高齢者に限れば、実に男性の5人に1人、女性の4人に1人が1人暮らしになるということです。

 そうした状況を考えれば、このまま放置すればもう数年もしないうちに、誰にも看取られず亡くなる孤立死が「普通」の死に方となってもおかしくはないでしょう。

 個人的には、独りで家で死んでいくのもそんなに悪くないと思うのですが、周囲はそうもいかないでしょう。安心して生活できる社会を維持していくためにも、そうした状況を放置しておくのも適当とは言えません。

 「揺り籠から墓場まで」とはよく言いますが、まさに国民一人一人の「往生際」までを役所に気遣かってもらわなければならない時代が、否も応もなく(目の前に)やって来ているということなのでしょう。



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