このシリーズは準備するまでが、わりとしんどい。いつもテーマに沿って5曲ほど揃えるのですが、その5曲が集まるまでがブルーなんです。
 テーマに沿っていればなんでもいいわけではありません。誰もが知ってるようなメジャーなものは出さないというのが大前提。おんなじような方向性のものはなるべく避け、インパクトを重視しすぎるあまりキワモノばっかりになってしまうのも阻止しなければなりません。
 今回の場合は他のテーマも並行して集める作業をしてたのですが、どちらもあと1曲、これといったナンバーが足りない“ダブルリーチ”状態でした。5つ揃ったほうを記事にしようと思いながら「なにか忘れてるものはないか」「ん、あの曲のなかに○○というキーワードは含まれてたっけ?」・・・と探しておりましたら、先に揃ったのはじつは他のテーマのほうだったのです。
 しかしその直後、もうひとつのほうも5つ集まりまして。そこで「いま記事にするとしたら、筆が乗りそうなのはどっち?」で天秤にかけたところ、今回の【太陽】を決行するに至りました。


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 ――このようにして大正生まれのブログは作られています。ボツネタになったほうは次回以降の登場となる予定ですが、そのときになったらあらためてオーダーを練り直すかもしれません。
 

 


トランザム『Come on in. Coke '77 [あふれる光の中で]』<作詞:坂田耕/作曲:チト河内>

 

 

 当ブログでは過去にスプライトポカリスエットパレード・・・といった飲料系の記事を扱ったことがあります。そのなかでCM曲が存在するものは、音楽の面でお楽しみいただきたく扱ってきたものです。
 今回はその一環として、ついにコカ・コーラの登場なんであります!
 これを演奏したトランザムは主に1970年代の中盤から後半にかけて活動していたグループで、世界的な大ヒットとなった『ビューティフル・サンデー』のカヴァーをはじめ、CMやドラマに使われる音楽を数多く担当していたことで、おそらく「バンドのことはよく知らないけど曲は聴いたことがある」という向きはたくさんいることだろう。
 メンバーチェンジがかなり頻繁におこなわれていたようであるが、リードヴォーカルにおいては3代目となる高橋伸明(高橋のぶ)氏がもっとも長く在籍していた。そのハスキーでハイトーンな歌声には田中昌之松崎しげるらと勝るとも劣らぬ感動があり、また耳馴染みが強いことで「忘れたくても思い出せないのだ」といった人たちも多くいるはずだ。
 そんなトランザムが輩出した極上のさわやかソングは1977年、『MADE IN U.S.A.』のB面曲としてリリースされた。
 聴けばわかる。これがコーラのイメージアップに多大なる貢献を果たしたであろうことが。

 

 

パチソン『キカイダー01』<作詞:石森章太郎/作曲:渡辺宙明>

 

 

 パチソンとは、どこの馬の骨かわからない歌手が歌うアニメ・特撮ソングのこと。ムード歌謡やポップスにも存在する。ホームセンターや高速道路のサービスエリアの売店やレコード店あたりでワゴンに乗せて「○本まとめて\1000」とまとめ売りにされている形態が多く、カセットテープで売られている確率が高い。
 たま~に本家を超えるほど上手な歌手もいるにはいるが、往々にしてツッコミどころ満載なヴォーカル、そしてビックリするほどヘッポコな演奏こそがこのジャンル最大の聞きどころであり、低クオリティであればあるほどマニアは大喜びするという、堅物な層からは徹底的に理解されないジャンルであるともいえよう。
 当コーナーではこれまで、かなりの頻度でパチソンを扱ってきた。筆者の趣味だからだ。
 そして今回、満を持して登場しますのは“キング・オブ・パチソン”との呼び声も高い『キカイダー01』。数あるパチソンのなかでも屈指ともいえる破壊力の高さを誇る。
「ト~ランペ!ットの~♪」「涙が止まりません」「レコード会社の関係者に発売にストップをかけるような人はいなかったのだろうか?」「申しわけございません、01はただいま故障中です」「太陽電池の出力不足」「良心回路を取り除いてしまったのでしょうか?」・・・等々、苦情は後を絶たない。 
※01の良心回路はTV版では完全なものであるが、原作版では最初から備わってないという設定だった。
 もはや説明は不要だ、聴けばわかる!


 


栗田ひろみ『太陽のくちづけ』<作詞:山口あかり/作曲:森田公一>

 

 

 アイドルなのに「すきっ歯」というのは、この人とタモリとクロマティくらいではないだろうか。こと前歯の存在感でいえば、動物だったらリスかビーバーですけどマンガだったら『ゲームセンターあらし』クラスです。
 そこのところだけでもレアな個体であるといえそうなのですが、さらに歌手としては過呼吸式歌唱法(?)とでもいうんでしょうか、まず他ではお目にかかったことがない独特のスタイルで見る者・聴く者を困惑・・・いや魅了してくれるのであります。いまにも白目をむきそうな表情が怖いdeath。
叫び
 曲のほうはいいんですよ、森田公一先生の作品ですから。穢れのない、心が洗われるような楽曲ではありますね。で、歌う栗田ひろみのほうも、まったく邪気のないキャラクターでありますので、世界観じたいは間違いではない組み合わせだとは思うのです。
 ところがこの方、あの浅田美代子に「下手くそ」と言わしめる伝説のアイドルとしてに後世に語り継がれるほどのツワモノだったのです。
 実際に歌わせてみるまでスタッフも気づかなかったんでしょうかね? 先ほどの『01』のときも意見があったように、レコードの発売にストップをかけるような動きはなかったんだろうかと気になって仕方がないのであります。
 ちなみに少し前、この方が主演した映画『夏の妹』を観てみたのだが、いかにもアタマの弱そうなヒロイン(たぶん本当はそういう設定ではないんだろうけど、結果的にそうなっている)を好演(?)していました。現場での「誰だ、あんなのをキャスティングしたのは!」という声が聞こえてきそうな凄まじさでありましたよ・・・。
ショック!


 

 

ジョニー広瀬『太陽に抱かれたい』<作詞:幸田栄/作曲:遠藤実>

 


 歌っているのは本業が吉本興業に所属するマジシャン=ジョニー広瀬という人です。
 あの遠藤実先生の作曲作品とのことですが、とにかく聴いていると全身がアブラギッシュになりそうな歌声が最大の特徴。ジャイアンよりもジャイアンぽくもある。ただし音痴ではない。
 ラジオ番組『赤坂泰彦のミリオンナイツ』における「うさんくさいポップス」というコーナーで紹介され、赤坂氏からは「泥からあがってきたザリガニのような声」と評されたことがあるそうだ。もっとも、個人的にはザリガニの声というものを耳にしたことはないのであるが。
 当コーナーではかつて太子乱童の『愛の絶唱』を掲載したことがある。そのときは太子氏の3種類の歌声を使い分ける歌唱法が、読者さんのご家族を窒息死寸前まで追いこんでしまうという事態を招いてしまった。
 太子氏はスイッチが入るとアブラゼミみたいな声になってしまうのが特徴であったが、広瀬氏の声もそれに近い印象を受ける。ただしこちらの場合は常にスイッチが入った状態のザリガニボイスなのでありまして。この愚直なまでに主張しっぱなしな歌声を聞くかぎり、おそらく太子氏のようにギアチェンジできるタイプではないものと思われる。
 そこで提案なのだが、私が勝手に「みんなおんなじに聞こえてつまんないと思ってる歌手」の代表=徳N英明あたりとコンビを組ませ、クリスタルキングのように緩急を利かせたツインヴォーカルとして活動させてみたらイケるのではないかと・・・。少なくとも「置きに行く」音楽という印象の強い(ように私には映る)徳N氏でも、さすがに広瀬氏とのタッグならば攻めの姿勢を見せてくれるはずだ。ルバルバルバルバ・・・。

 

 

三上寛『気狂い』<作詞:三上寛/作曲:三上寛>

 

 

 楽しい時間はここでおしまい。「日常が辛すぎるから、せめて音楽には癒しが欲しい」という向きには、このへんでお引き取りいただきましょう。ですが、音楽には「カワイイもの」「カッコいいもの」ありきで聴いてるという人たちにはもう少々おつき合い願いたい。
 音楽は私たちをしばしば幻想の世界へいざなってくれます。現実に起きた嫌なことや、現実の自分の嫌な部分を忘れさせてくれたり。なかには「こんなイケてる曲を聴いてる自分、イケてるじゃん」と、自己陶酔してる人も多いのではないでしょうか。カッコよかったりカワイかったりするアイドルが歌ってる曲なんだから、これは素敵な曲に違いない・・・そうやって悦に浸ってる人もいることでしょう。いや、理屈はともかく楽しければいいのです。だって音を楽しむと書いて音楽なんですから、ね。
 甘ったれんな小僧! 三上寛サマはな、そういった幻想をいっさい許してくれませんのじゃ! ヾ(。`Д´。)ノ
 かつてタモリ氏は、すぐ「カワイイ」と口にする若い女性のことを全否定していた。いわく「カワイイと言えるのは、ものすごく醜いものを知ってて初めて口にできる言葉」と説明してたように記憶している。
 夜の新宿や銀座の街を歩いてると華やかな店が建ち並び、いかにも高そうな服を着飾った男女が出入りしてるのを見かけます。でも、ちょっと裏の路地をのぞいてみますと、客が残した残飯なんかが置かれてて、その周りを巨大なネズミがチョロチョロ走り回ってるのを見ることができます。表側の歩道でも、客がさっき食べたものと思われる嘔吐物が散在し、それに鳩がたかっている情景を目の当たりにします。場所を弁えず立ちションするオニイサン、酔いつぶれて醜態を晒しているオネエサン・・・。本当の姿はそっちなんでしょ?
 三上寛の歌からは、そういった情景に在るニオイまでもが漂ってくる。カッコよくはない。カワイくもない。でも、それが人の本質なんでしょう。カッコよく見える人にも黒歴史はあり、カワイく見える人にも下劣な面はある。あなたが憧れるあの人にも、そういう部分はきっとある。かならずある!
『気狂い』は、前回に続きアルバム『ひらく夢などあるじゃなし 三上寛怨歌集』の収録曲だ。ここでの太陽は夕陽として存在しています。しかしその色は赤いものではなく、黒なのだ。
 とりわけ終盤のたたみかけは鳥肌モノである。なんと鬼気迫る歌声であろうか。三上寛の前には業界のタブーだろうがなんだろうが、いっさい通用しないのだ。三上寛の前には徳Nのような媚びた歌などは「説得力のカケラも感じられぬ!」と却下されるに違いないのである。

 残酷な歌声が、通常とは違ったカタチで、通常とは違った音で、私たちを楽しませてくれることでしょう。聴けばわかる。そう、本当のお楽しみはここからだあああー! Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!

 


 

 

 ――そんな5曲。あなたのお好みはどれですか?
 よく考えたらブログ的には「そんなに陽のあたらない名曲」っていうテーマにしてるのに、よいこのデンジャラスセレクション的には【太陽】にしてしまったのがイタかったかも。
えっ

 


 最後にひとこと。
 ヘレン・ケラーは言いました。「いつも太陽のほうを向いていなさい。そうすれば、影を見ないで済むでしょう」と。
 影を見てるほうが面白いと思ってしまう私は人としてアリでしょうか?
 私ね、まぶしい光を浴びると溶けちゃうんですよ。

 

 

 

 

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