今年受験したみなさん、ご苦労様でした。記述問題の採点がありますので結果は発表まで不明という方が多いと思います。試験日に向かって集中して勉強してきたでしょうから、肉体的な疲れのみならず脳も相当疲れていると推察します。ゆっくり身体を休める期間を少し置くと良いのではないかと拙ブログは考えます。

 そんなこともあって時事を取り上げます。「共有」の話が中心になるのですが、ここ1年は行政法を書いていましたので確認したら「共有」をちゃんと書いていませんでした。近いうちに改めて書こうと思っています。

 と言うわけで、気軽に読んで戴けると助かります。 自宅前の共有の道路を自分の「私有地」と主張し、通行人に傷害を負わせて逮捕された人がいます。「通行妨害し自転車男性押し倒す 傷害容疑で男を逮捕 堺」から。
以下引用(太字は済印によるもの。)

 自転車の男性を押し倒してけがをさせたとして、大阪府警西堺署は8日、傷害の疑いで、堺市西区上、無職、平野保生(やすお)容疑者(79)を現行犯逮捕した。「私有地に勝手に入った自転車を止めようとしただけ」と容疑を否認している。
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 同署によると、私道は平野容疑者を含む周辺住民が共同で所有。平野容疑者は自宅前の道路に白いペンキで「私有地」と書き、通行人を怒鳴りつけるトラブルを繰り返していた。9月以降に110番が10~20件あったという。
 平野容疑者は平成27年11月にも、今回の私道に植木鉢などを並べ、周辺住民の通行を妨げたとして往来妨害容疑で逮捕されている。

引用終了

 拙ブログもテレビで自転車の女性を止めて怒鳴っている男性の映像を見ましたし、記事の最後の部分にある物などを置いて道が狭くなっていたことがグーグルマップにも出ていたようで、「市況かぶ全力2階建」の「位置指定道路を私有地と言い張る大阪の男、グーグルマップに戦いの痕跡を残す」はこれを取り上げたものです。

Ⅰ.共有
 記事に「周辺住民が共同で所有」とありますから、男性の自宅前の道路が共有であることは間違いないと思います。共有の最初の条文。

民法
(共有物の使用)
249条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる

 「共有」は民法の

「第二編 物権」→「第三章 所有権」→「第三節 共有」

ですから、所有権の一形態であることは明らかです。従って、記事の男性が「私有地」と主張するのはその通りです。
 しかし、249条は「共有物の全部」についての使用権を認めており、独占的に使用することはできません。このことから上記「市況かぶ2階建」のグーグルマップのような物などを置くことは認められませんし、他の共有者の使用(通行)を妨げることもできません

 テレビでは近所の同じ並び(共有者)らしい人の話もやっていて、迷惑しているとは言っていたのですが、他の共有者の通行も認めていないのか、それとも他の共有者の通行は認めているけど単に道路として通行する人を妨害しているのかは良く分かりませんでした。

 次項で「道路」の話を書きますが、「道路」という面を除外して単に「共有地」という面だけを取り出すと

・他の共有者の使用を阻害することはできないが、共有者以外の者の使用については妨害排除請求ができる

ということになると思います。

 因みに、共有の「道路」というのはそんなに珍しいことではありません。登記簿を見たわけではないのですが、聞くところによると新宿ゴールデン街の道路も共有になっているようです。行ったことがない方にはイメージがつかみにくいと思いますので「HDRTS -hdr&tiltshift-」さんから写真を拝借して入れます。

 
新宿ゴールデン街

Ⅱ.位置指定道路
 ゴールデン街の道路は「通路」ではあって法的な意味での「道路」ではないのだと思います(中には「道路」と思われるものもあります)。これに対して今回問題になっている道路は一般に「位置指定道路」と呼ばれいてるものだと思います。「位置指定道路」については、

売買13 瑕疵担保責任2

の中で書いた説明を建築基準法の条文を除いて繰り返します。

<道路に面した大きな土地を分譲地として開発をする場合、道路から離れた内部の土地(宅地)は道路に接しなくなってしまうので、業者が土地の内部に道路を作ってそれを「公式な道路」と認めて貰います。これが「道路位置指定」です。

 この42条1項5号の指定を受けた道路が「位置指定道路」といわれるものです。  道路を作った段階では業者のもの(私有地)ですが、建築基準法上は「道路」として扱われます。

 宅地が完成すると市などに寄付する場合が多いと思われますが、私有地として残ることもあります。そうすると、「ここは俺の土地だ。勝手に通るな!」という話になってきます。>

 最後の部分にある「ここは俺の土地だ。勝手に通るな!」というのが将に今回の場合です。上で、

「道路」という面を除外して単に「共有地」という面だけを取り出すと・・・

と書きましたが、これは「道路」となると原則として通行の妨害ができないからです。
 上に挙げた拙ブログには過去問も入れたのですが、最高裁判決(最判平9.12.18)の裁判要旨だけ入れます。

裁判要旨
  建築基準法42条1項5号の規定による位置の指定を受け現実に開設されている道路通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の 排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有する

 私有地だけど公共の「道路」として認められるため、「公物」では「私有公物」と称されています。お持ちの行政法の本に「公物」が入っていれば、そこに書いてあると思います。

 以上のように、今回の男性の行動は法律的(民法・行政法)には無理な話なのですが、奥さんも男性と同じような主張をしているようなので逮捕ぐらいで怯(ひる)むとは思えず、説得が通じないというのが現実なのでしょう。  

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