小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

国家的事業か法的正義か

2018年03月13日 18時45分02秒 | 社会評論


 「これが談合といわれるなら、もうリニアには手を出しづらくなる。大成と鹿島が徹底抗戦したくなる気持ちは分かる」。リニア工事を受注した準大手のゼネコン関係者は、戸惑いを隠せない様子で語る。別のゼネコン関係者は「JR東海は積算や設計をゼネコンに手伝わせていた。工法の研究対象が重ならないよう情報交換をしてもいけないのか」と嘆いた。(中略)
 一方、検察幹部の一人は立件の意義をこう強調した。「9兆円の国家事業でなれ合いをしていたことが信じられない。こんなことをしていたら社会が腐り、日本企業の競争力が損なわれてしまう」

(以上、産経ニュース2018.3.2)

両者は完全に対立しています。
談合(話し合い)はなぜいけないのでしょうか。
しかも記事によれば、この場合は受注業者決定のための談合ではなく、工法の研究対象が重ならないための情報交換を月に一度行っていたというにすぎません。

3月3日付のヤフーニュースによれば、容疑を否認している大成建設は、ガサ入れの前に技術関連資料を移動させており、これが検察の目に証拠隠滅と映ったようです。
再捜査を受けた時に、大成側は、秘匿義務のある技術資料だったと弁明しています。
一方、検察は役職員を社長室に呼び出したうえ「ふざけるな!」と怒鳴りつけたそうです。
またある検察幹部は、「われわれが技術資料を漏らすわけがなく、証拠を移す理由にはならない」と決めつけたそうです。
しかし先の検察の言い分のうち、「社会が腐り」というのは抽象的で意味不明です。
すると、言い分の根拠は、「企業の競争力が損なわれる」という一点にあるようです。
完全な競争至上主義ですね。

最近の傾向として、公取委や検察は、以前まで定着していた指名競争入札さえも違法視するようになってきました。
一般競争入札という単なる形式的な純粋性を守ろうとして、それに抵触するものは、何でも切り捨てようとする硬直した思想。
ここには、取り締まる官庁の融通性のなさと、ヨーイドンの競争こそ最高善だとするアメリカ式新自由主義のイデオロギーとが重なり合っています。

指名競争入札には、ある特定の事業に対して経験豊富で投資力も十分な企業に参加者を絞ることで、公共事業を迅速かつ円滑に進められるという大きなメリットがあるのです。
もちろんデメリットが皆無とは言いませんが。

また上記産経記事では、検察幹部が「「9兆円の国家事業でなれ合いをしていたことが信じられない」などと子どもみたいなことを言っていますが、リニア新幹線のような巨大な事業であればあるほど、受注企業間の緊密な連絡や話し合いの機会が必要になってくるはず。
日本列島全体の経済成長に結びつくこの事業に、せっかく大手ゼネコンが協力し合って取り組んでいるさなか、幼稚な正義感をタテに口ばしをはさんで協力関係を分断する。
このほうがよっぽど信じられません。
検察は、現場の具体的な事情をどこまで知った上でこうした挙に出ているのでしょうか。

2017年4月、公取委は、東日本大震災後の農地復旧工事を舞台にした談合疑惑で、工事を発注した農水省東北農政局と、ゼネコン約二十社を立ち入り検査しました。
これも信じられない摘発です。
災害で荒廃してしまった農地は、被害に遭った農家の方々のために一刻も早く復旧させなくてはなりません。
工事を少しでも遅らせることは絶対禁物。
早く的確に着工にこぎつけるために、談合によって現地事情に詳しい適切な業者を絞り込む必要があります。
そういう「話し合い」解決がただ法律の文言に多少抵触するからといって、どうして「法の正義」を振りかざす必要があるのか
この場合も、現地の事情を何も考えない取り締まり官庁のリゴリスティックな競争至上主義が見事に露呈しています。

2017年12月、スパコン開発の第一人者、齋藤元章さんが逮捕されました。
逮捕容疑は、技術開発助成金を得るのに、報告書を他の研究目的に書き換えて四億円程度の水増し請求をしたというもの。
この件はこのブログでも一度取り上げました。
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/4f822dc62138f6d7e46b7d39cbfd7ca8
政府はとかく技術開発投資をケチります。
ですから、助成金を得るために、報告書を他の研究目的に書き換える程度のことは日常茶飯事なのです。
取り組んでいる仕事の重要性に鑑みれば、注意勧告して書き直させれば済む話でしょう。
第一、まだ請求の段階で、どうして検察が水増しであることを知ることができたのか
齋藤さんはアクの強い方のようですから、内部に「敵」がいてチクられたのかもしれません。

このように一連の流れを見てきますと、最近の取り締まり官庁は、国家や国民生活にとって重大な意味を持つ事業に次々に水を差して、純粋正義派お坊ちゃま君を演じているという按配です。
物事の優先順位を完全にはき違えているのです。
ここには、日本国民のために仕事をするという、公共精神のかけらも見当たりません
また、摘発するにも、現場の事情を斟酌するさじ加減というものがあることをまるでわきまえていません。
秀才の大きな欠陥と言うべきです。
この純粋お坊ちゃまの振る舞いが、ただの正義派を演じているだけならば、まだしも許せる部分がないではない。
しかしその背後には、こうした正義派ぶりを利用して、日本の高度な技術を盗んで国力を貶めようと企んでいる某勢力(複数)の影がちらつきます。
よく指摘されるように、日本はスパイ天国です。
こう考えると、先の検察幹部の「われわれが技術資料を漏らすわけがない」という言葉も信用がおけなくなってくるのです。

このぶんでは、世界で唯一の建設候補地として北上山地に指定されている国際リニアコライダー(高速線型加速器を内蔵した研究施設)も、予算がどうのと言ってまごまごしているうちに、さまざまな邪魔が入っておぼつかない状態となり、中国あたりに取られてしまうかもしれません。
日本の内部崩壊の危機を何とかしなければなりません。
課題は山積しています。


【小浜逸郎からのお知らせ】
●『福沢諭吉 しなやかな日本精神』(仮)を脱稿しました。
出版社の都合により、刊行は5月になります。
中身については自信を持っていますので(笑)、どうぞご期待ください。
●『表現者』75号「誤解された思想家たち第28回──吉田松陰」
●『表現者』76号「同第29回──福沢諭吉」
●月刊誌『正論』2月号「日本メーカー不祥事は企業だけが悪いか」
●月刊誌『Voice』3月号「西部邁氏追悼」
●『表現者クライテリオン』第2号「『非行』としての保守――西部邁氏追悼」
(4月16日発売予定)



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12 コメント

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Unknown (紳士ハム太郎)
2018-03-14 00:43:16
こんにちは。
先にコメントしたものです。
出来れば私にも返信コメントください。

そりゃ、戦後、日本の総理大臣を含む(少なくとも父方の家系)政治家に朝鮮人が複数いるのだからそうなります。
先にも書いたように、戦後日本の正体という本や、
あ〇・こい〇〇の父方の家系の顔写真を調べてください。
数学者のピーター・フランクルさんの著書にもそれとなく日本は民主主義の国ではないと聞いたことがあると書いています。
日本はスパイ天国どころか、
侵略パンダキムチリパブリックです。

今の社会は、日本人の生命財産を奪うスキームの社会になっています。
東芝、神鋼、三菱自動車、スパコンもそうでしょう。
どう控えめに考えても、日本企業を潰そうとしてます。
上場企業の監査をする監査法人も最悪な状況になっているのではないでしょうか。
例えば、4大監査法人のトーマツ、朝鮮で調べてみてください。

政治力が必要な企業には多数の朝鮮系企業があります。
情報・通信、流通、ギャンブル、マスコミ。
例えば、情報産業を調べたらかなり朝鮮人、中国人です。
他にも身近な所だと靴の〇〇〇マート。絶対一等地にあります。ユニ〇ロも朝〇人を意図的に採用しています。
少なからず政治力が必要な企業は朝鮮系がかなり多いはずです。
大阪は半分乗っ取られています。
4割位は朝鮮人・中国人がいます。

国政レベルで不正選挙も指摘されています。
ム〇シについて調べれば分かるかと思います。
そもそもム、実質某氏が支配している1企業が選挙システムを独占していることからだけでも、外観的信頼性がないです。
一部の人は絶対逮捕されないし法治国家でもないです。
一般に公正妥当な真実といえる報道もなされていません。


私は大阪に住んでいます。
街中のいたるところにパチンコギャンブル、統一教会等宗教・サークルを装った朝鮮工作機関であろう組織があります。
報道されない在日の犯罪、暴力団、風俗、マスコミ、街宣車。
もうこの時点でおかしいです。異常な国です。
朝鮮銀行破綻の際の2兆円程度の税金投入、テレビ、ネットを始めとして公共広告にも多数出演する朝鮮人。
特に男ですが、何人かわからなくするための洗脳でしょう。

いまの日本の政治に正当性なんてありません。一般に公正妥当な報道もされてないし、選挙も公正にされてないからです。
法治国家でもないです。
Unknown (紳士ハム太郎)
2018-03-14 00:57:20
>秀才の大きな欠陥と言うべきです。
この表現はかわいそうです。
人事と金を握られたうえ、
何一つ真実の報道がされない。
挙句の果てには、自殺だか他殺だかで死人が出てる状況です。
官僚の方たちもこんなバカげたことをするために官僚になったわけではないでしょう。

ところで、現在、公務員に意図的に朝鮮民族を採用しています。
国交省、内閣府等の職員をよく調べてみてください。


もう許せませんね。


法と行政 (とさか)
2018-03-14 08:26:11
いつも鋭い考察、楽しみに拝読しております。ご指摘された、『純粋正義派お坊ちゃま君』的な空気は行政のみならず、日本全体に広がる性質と感じています。私は、これを『潔癖症』と読んで批判しておりましたが、『純粋正義派お坊ちゃま君』は手続きに愚直な行政を言い得ており、言葉のセンスに脱帽します。
ただ、『物事の優先順位を完全にはき違えて』いるという批判は行政に対して適切でしょうか。ある意味では手続きに愚直で、『純粋正義派お坊ちゃま君』であることは行政のひとつの理想像とも見ることができると思います。ただ、これが『日本国民のために仕事をするという、公共精神』を体現するものになるためには、適切な行政を動かす(操る)法の仕組みが欠かせません。今回のリニア談合をめぐる件にしてもそうですが、行政官は国民の直接的な新任を得ているわけではありませんから、行政に恣意的な判断があることは私は望ましいありかたとは思いません。小浜さんは自律的、能動的な行政が好ましいとお考えでしょうか。
Unknown (nanba)
2018-03-16 02:39:30
機械的にこなすだけの四角四面の仕事ではダメ、先のコメントの方も言うように現場の独断専行も危険(その最たるものとして、手足を縛られた自衛隊は有事の際に「善意のクーデター」を起こしかねないと私は危惧している)…であれば、原理的に考えて、必要なのは有機的で機動的な不断の法整備だろう。
立法府はいわば一国の中央制御室として実務に大忙しであるべきだ。現行のようなお猿の劇場ではなく。

もう一つアイデアを出すなら、現場に蓄積される知見や、ある意味ではしがらみと言えるものを積極的に伝承する仕組みと、それが閉鎖的奇形的なものになっていかないようチェックする仕組みを同時に整備すべきだろう。
つまり「仕事のできる人事」が塩梅してるようなことを制度化するのだ。
日本人も朝鮮半島人も古来から変わらない (wazou)
2018-03-16 08:05:33
残念ながら仕方ないかな?との想いが常にあります。
日本人は談合当たり前の人種だし、朝鮮半島人は弱肉強食が当然の人種だから、社会が経済低迷や周辺国が政情不安などになると朝鮮半島人の気質が発動し、日本国内を混乱状態にします。
幕末から明治・昭和まで福沢諭吉先生が達観したとおり、朝鮮半島人との関わりで日本を不幸な行動に至らしました。
古代も朝鮮半島人との関わりが同様な不幸を招いていたのではと思わせられる事件があったと思いました。
止められない流れ┉
しかし、この日本には怖くて優しい八百万の神々がおり、この地に住む人々を日本人に戻してくれます。
Unknown (紳士ハム太郎)
2018-03-16 23:53:10
朝鮮工作員さんへ
日本人と朝鮮半島人は遺伝的に別人種です。顔、骨格とも違います。
朝鮮人はエベンキ族の血が入っているそうです。
誘拐結婚という本にでてくる、中央アジアのキルギス人と顔が似ています。
エベンキ族と容姿、行動パターンや言語で共通点があります。
とさかさんへ (小浜逸郎)
2018-03-18 11:34:01
コメント、ありがとうございます。

ご質問にお答えします。

私が自律的、能動的な行政に対して好ましいと考えているかどうかとのご質問ですが、行政にもピンからキリまであり、場合によりけりです。
行政一般に対して、自律性、能動性が望ましいか、それとも法令を遵守して機械的にこなすのがよいのかという問いには、お答えすることができません。
一般的に言えば、官僚もロボットではないのですから、ある枠内で自律性、能動性を発揮できる余地があることは確かでしょう。

私が上掲記事で論じたのは、監査機関である公取委や検察が、事案の重大性をなんら斟酌せずに、杓子定規に「法的正義」に従って行動する傾向が最近目立つという点についてです。
彼らは、その他の、より小さな膨大な案件を抱えているに違いなく、その場合はさじ加減を考えているはずです。
とすれば、上記のような事例では、「ある」硬直した思想にもとづいて狙い撃ちをしているのではないか、そういうことをしていると、他国につけ込まれるだけではないのか、と言いたかったのです。

逆に財務省などは自律性を押し出し過ぎていて、デマと洗脳によって緊縮財政路線を国民に信じ込ませ、デフレによる貧困化をもたらしています。こういうケースでは、国民の声を盛り上げることによって、政治の手で即刻、自律性を摘み取るべきです。
Unknown (紳士ハム太郎)
2018-03-19 00:15:29
小浜逸郎さんは、
意見によって返信するかしないか決めるのでしょうか。
間違っていると思うところがあれば、指摘したらよいのではないでしょうか。
ブログのタイトル、ことばの闘い、ですよね。

よろしくお願いします。
紳士ハム太郎さんへ (小浜逸郎)
2018-03-19 01:26:59
おっしゃる通り、私は、ご意見によって返信するかしないかを決めます。
返信しない基準は、この種のご意見には返信しても平行線で、疲れるだけだと、私が感じた場合です。
これまでも、返信しなかった例がたくさんあります。
私も有限の身で、他にしなくてならないことをたくさん抱えています。どうぞ悪しからずご了承ください。
ただし、抹消することはしませんので、掲示板の一つとお考えになって、どうぞご自由にご意見をお寄せください。
御礼 (とさか)
2018-03-19 08:18:50
行政に自律性、能動性は程度の差こそあれ内在されている。しかし、問題なのはその自律性能動性が健全たるかである。
と理解いたしました。考え方の幅をまた少し広げていただいたように思います。引き続き勉強させていただきます。ありがとうございました。

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