小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

トランプ次期大統領に日本はどう対応すべきか(その2)

2017年01月19日 00時40分58秒 | 政治

      



 それでは、経済に関わるトランプ氏の政策姿勢から、日本は何を読み取るべきでしょうか。
 彼が公約として掲げている経済政策の主なものは次の通り。

①TPPからの離脱
②NAFTAの見直し
③ラストベルト地域を中心とした製造業の復活による雇用の創出
④劣化したインフラ整備のために10年間で一兆ドルの財政出動
⑤米国企業の外国移転の抑制とグローバル企業の国内還帰のための法人税の値下げ
⑥トヨタなど外国有力企業からの輸入に高関税
⑦オバマケアを破棄し新たな保険制度を創出

⑧ついでにリベラルからPC(ポリティカル・コレクトネス)に反する差別だとして悪名の高い、いわゆる「移民排斥」「メキシコ国境に壁を建造」も挙げておきましょう。これは労働政策であり、労働政策はすなわち経済政策だからです。
 
 さてこれらがすべて実現可能であるかどうか、また適切であるかどうかは別として、その姿勢は見事に一貫しています。狙いをひとことで言えば、グローバリズムがもたらした弊害を一掃することであり、同時に国内需要を増大させて経済的利益を少しでも一般国民に還元させ、超格差社会を是正しようという考え方に立っています。
 一つ一つ検討してみましょう。

①TPPからの離脱と②NAFTAの見直し
 これはTPPやNAFTAに盛られた関税撤廃・自由貿易の促進がアメリカの主要産業をますます弱体化させ、またさせてきたという認識にもとづくものですが、その根には、アメリカの経済的パワー、特に製造業がなぜこんなに衰えてしまったのかという嘆きがあります。その原因を自由貿易促進を謳う各国間協定という外部要因に求めるのは、やや不適切の感無きにしも非ずですが、とりあえず、⑤や⑥と相まって、国内産業保護の効果を持つことは明らかで、グローバリズムを善と考えるイデオロギーに対しても強力なアンチテーゼになっています。その意味で経済思想として評価できます(日本にとって有利という意味ではありません。後述)。
 なお、アメリカのTPP撤退はトランプ氏が当選した時点で決定的で、すでにTPPは死んだので、その後日本国会がこれを批准したことはアホの極みですが、いまだに政府内には、「TPPの対中戦略の側面を理解すれば(トランプ氏の)立場に変化があるかもしれない」(産経新聞1月16日付)などという超アホなことを言う人が政府内にいるそうです。それぞれの国の利害の調整によって成立する国際的な経済協定が軍事同盟の絆を固くするなどということはあり得ません。むしろ経済関係が深まれば深まるほど、その内部で軋轢の可能性も増すと考えるのが自然です。
 また逆にTPPのお流れを喜ぶ向きもあるようですが、ことはそう簡単ではありません、これからの対米通商交渉において、日本における協定の批准は、かえってガンになりかねないのです。というのは、あのアメリカ流規制緩和・各分野における制度変更・国家に対する企業優先の姿勢を謳ったTPPを批准してしまった日本は、これらの拘束条件を前提として対米交渉に臨まなければならないからです。アメリカはそれにうまく便乗して、さらに厳しい条件を要求してくる可能性があります。

③ラストベルト地域を中心とした製造業の復活による雇用の創出
 これは解説するまでもなく、ニューディール政策と同じ性格のもので、⑤や⑥と連動しており、トランプ氏が彼の支持層に応えるべき最も重要な政策と言ってよいでしょう。うまく行けばトランプ氏の国内人気は一気に高まるものと思われます。

④劣化したインフラ整備のために十年間で一兆ドルの財政出動
 アメリカのインフラはその劣化が日本よりもひどいそうです。この政策は乗数効果も見込まれ、たいへん有意義な政策です。
 日本のインフラがまだ一定水準を保ちえているのは、50年以上前の高度成長時代に大規模な公共事業を徹底して行ったからで、半世紀も前のインフラがまだもっているからといって、少しも威張れません。
 すでに笹子トンネル事故、常総市堤防決壊、博多駅前陥没事故をはじめとして、全国の橋やトンネル、道路、堤防、水道管などはあちこちで壊れていっています。これからどんどん劣化の度合いは進むことは必定で、おまけに日本は屈指の災害大国ですから、トランプ政策を大いに見習って、一刻も早く大規模な公共事業の拡充に乗り出すべきです。
 ところが土木学会による点検作業はまだ始まったばかりで、橋梁で9%、トンネルで13%しか進んでいません。こんな状態でわかっただけでも橋梁、トンネルいずれも五段階評価でD(「多くの施設で劣化が顕在化。補強、補修が必要」)という危険な状態です。これから10年先が思いやられます。
http://committees.jsce.or.jp/reportcard/system/files/shakai.pdf
 しかもいまだに日本には、財務省を筆頭として公共事業アレルギーが蔓延しており、公共事業予算は1998年のピーク時に比べて現在はなんと五分の二以下に減らされています。http://www.mlit.go.jp/common/001024981.pdf
 日本にトランプ氏のような決断力のある政治家がいれば、と羨望せずにはおれません。

⑤米国企業の外国移転の抑制とグローバル企業の国内還帰のための法人税の値下げ
 これはタックスヘイヴンに大量の資本が逃げている現在、企業を国内に呼び戻そうと思ったら法人税減税競争に与さざるを得ないので、やむを得ない措置として当然ではあります。しかし税収減を消費増税のように他の面で補うとしたら、一般国民にしわ寄せがいくことは当然で、国民経済はデフレから脱却できないでしょう。無条件で減税するのではなく、国内設備投資減税、雇用促進減税、賃金値上げ減税などの条件を付けるべきでしょう。
 世界経済を健全化させるというマクロな面からは、いずれタックスヘイヴンを一掃して法人税減税競争をどこかで食い止めるような国際ルールを作る必要があります。
 しかし応急手当としてはこの政策は間違っているとは言えません。事実、フォードはこの政策を呑み、その他の有力企業の中にもこの国家的方針に従う流れが出始めています(アメリカでは国内にタックスヘイヴンが存在し、おそらく大企業はそちらのほうに逃げるのでしょうが)。

⑥トヨタなど外国有力企業からの輸入品に高関税
 これまた製造業の復活と雇用の創出を目指すアメリカの側に立てば当然の措置と言えます。しかしもちろん日本企業にとってこれはシビアな問題です。①と並んで、これから世界各国の企業と米企業との間でさらに熾烈な競争が起きるでしょう。TPPとの関連で言えば、もはやTPPは死滅したのですから、この協定のISD条項を使って合衆国政府を訴えるわけにもいきません。その意味で、トランプ氏は国益を守るためにじつに巧妙な政策を打っていると言えます。トヨタなど日本のグローバル企業はよほど臍を固める必要があるでしょう。

 ちなみに、トランプ氏のこれらの姿勢に「保護主義」というレッテルを貼る人たちが多いようですが、それは間違いとは言えないものの、単純に決めつけすぎています。彼は貿易の自由を認めていないわけではありません。TPP離脱にしても、高関税の主張にしても、自国の弱体化した部分の補修を優先的に考えているというだけで、二国間の取引に限定してそれぞれについてことを有利に運ぼうとしているのです。どこの国でもやっていることです。第一、いまさらこれだけグローバル化(グローバリズムではありません)してしまった経済を元に戻すなど不可能だということくらい、ビジネスマンのトランプ氏が知らないはずはありません。自分もそれによって大いに恩恵を受けてきたわけですから。
 要はバランスの問題なのです。

 長くなりましたので、続きは明日アップすることにします。



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