渡辺棋王、新構想実らずも終盤に逆転勝ち | 将棋LIFE

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第74期順位戦A級二回戦、渡辺棋王対久保九段の一局を振り返る。本局は、久保九段の先手中飛車に対し、渡辺棋王は居飛車穴熊で対抗した。従来の後手の作戦は、右銀を62~51~42と持っていき4枚穴熊で対抗するのがよくある形だ。渡辺棋王は、去年の朝日杯将棋オープン戦で羽生名人の先手中飛車にこの作戦を用いている(参考図)。ただこの作戦は、私も何回も経験しているが、角が使いにくく、捌きに苦労する印象がある。しかも振り飛車側に4枚穴熊に組まれると、固さ負けして作戦負けになりやすい。そこで渡辺棋王が本局で披露した構想は、右銀を64に持っていき積極的に攻めることにあった(1図)。

初手から

▲5六歩 △8四歩 ▲7六歩 △6二銀 ▲5八飛 △3四歩
▲5五歩 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉 ▲3八玉 △5二金右
▲2八玉 △8五歩 ▲7七角 △4四歩 ▲6八銀 △3三角
▲1八香 △2二玉 ▲1九玉 △4三金 ▲2八銀 △1二香
▲5七銀 △1一玉 ▲3九金 △3二金 ▲4六銀 △7四歩
▲3六歩 △7三銀 ▲5九金 △6四銀 ▲4九金左


上図は、先手が59の金を49に寄せた局面。先手は、後手に攻めさせてそれに乗じて先手も攻めていく、振り飛車お得意のカウンターを狙っている。後手は△2二銀で穴熊を完成させるのが普通だが、この場合は、先手が3筋から攻めてくるのが分かっているので、それに備えて角の逃げ道を作る意味で22には銀を上がらない。というわけで後手は固める手はないので、△6五銀から攻めていくことになる。


1図から

△6五銀 ▲5九角 △8六歩 ▲同 歩 △7六銀 ▲3五歩

△2二角 ▲3四歩 △6七銀成 ▲5六飛 △3四金 ▲6二歩(2図)

▲6二歩が好手で先手有利になった。この歩は、飛車で取れば利かされになるし、そのままでも飛車の横利きを止める手で損のない手だ。感想戦のコメントによると渡辺棋王は△3四金で粘れると踏んでいたようだが、▲6二歩に気づいていなかったようだ。△65銀から仕掛けていったが、あまり戦果を挙げられていないのが誤算だった。私の検討では1図からは△7五歩▲同歩△7二飛もあるかなと思ったが、以下▲3五歩△同歩▲3八飛(A図)となると64の銀が遊び駒になりそうで、後手自信ない。1図周辺は、後手が何かしらの工夫が必要かなと思う。2図以降は、先手の攻め、後手の受けという構図になった。渡辺棋王は、決め手を与えず粘り強く指し続けたことが奏して逆転勝ちを納め、2連勝スタートとなった。今年こそは悲願の名人挑戦はなるだろうか。一方、久保九段は2連敗スタートとなって、まずは残留を目標に戦っていくことになりそうだ。

先手:久保九段
後手:渡辺棋王

▲5六歩 △8四歩 ▲7六歩 △6二銀 ▲5八飛 △3四歩
▲5五歩 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉 ▲3八玉 △5二金右
▲2八玉 △8五歩 ▲7七角 △4四歩 ▲6八銀 △3三角
▲1八香 △2二玉 ▲1九玉 △4三金 ▲2八銀 △1二香
▲5七銀 △1一玉 ▲3九金 △3二金 ▲4六銀 △7四歩
▲3六歩 △7三銀 ▲5九金 △6四銀 ▲4九金左(1図) △6五銀
▲5九角 △8六歩 ▲同 歩 △7六銀 ▲3五歩 △2二角
▲3四歩 △6七銀成 ▲5六飛 △3四金 ▲6二歩(2図) △3六歩
▲3五歩 △3三金引 ▲3八金左 △4三金寄 ▲6一歩成 △7三桂
▲7七桂 △1四歩 ▲5一と △4二金引 ▲8五桂 △6五桂
▲7三桂成 △8一飛 ▲6二成桂 △4五歩 ▲同 銀 △5七桂成
▲3六飛 △5八成銀 ▲5二と △5九成銀 ▲4二と △同 金
▲3四歩 △6七角 ▲3三歩成 △同 金 ▲4四銀 △同 金
▲3二歩 △4二銀 ▲5二成桂 △3三銀 ▲7二金 △8三飛
▲4一成桂 △4八歩 ▲3一歩成 △4九歩成 ▲3四歩 △同 銀
▲3二と △3三銀 ▲2二と △同 玉 ▲5四歩 △3九と
▲同 銀 △4五角成 ▲3五歩 △3六馬 ▲3四歩 △同 金
▲4三銀 △3七歩 ▲3一角 △1一玉 ▲3四銀不成△3八歩成(投了図


まで108手で後手の勝ち