NHK杯 村山慈明七段-菅井竜也六段 先手中飛車 対 角道不突き急戦 | 将棋LIFE

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NHK杯2回戦第7局、村山慈明七段と菅井竜也六段の対局を振り返ります。村山七段は手厚い将棋を好む居飛車党で、負けにくい将棋を指します。一方菅井六段は居飛車も指す振り飛車党で、自陣を低く保ち、ガンガン攻めていくのが持ち味の棋士です。菅井六段の先手番となったので、相居飛車もあるかなと思っていましたが、菅井六段は得意の先手中飛車を選択しました。

初手からの指し手
▲5六歩 △8四歩 ▲7六歩 △6二銀 ▲5五歩 △8五歩
▲7七角 △7四歩 ▲5八飛 △4二玉 ▲4八玉 △7三銀
▲5四歩 △同 歩 ▲同 飛 △6四銀 ▲5九飛 △3二玉
▲3八玉 △4二銀 ▲2八玉 △8六歩(第1図)
 




後手番の村山七段が用意していた作戦は、角道不突き急戦でした。角道を開けると振り飛車側に捌きの手段を与えるので、それを事前に防ぐ意味ですね。この思想は嬉野流(別名:ケトルシステム)に通じるものがあります。村山七段は囲いを最小限に抑えて、先手の美濃囲いが完成しないうちに仕掛けていきました(第1図)。第1図から▲同角は、△3四歩▲5五歩△5五同銀に、

・変化A:▲7八金△5六歩
・変化B:▲7七角△8七飛成▲5五角△同角▲同飛△8九飛成

の進行が考えられます。変化Aは5筋に拠点作られて先手気分が悪く、変化Bは銀桂交換で先手駒得ですが、飛車成が大きく、この変化は後手良しだと思います。なので第1図から先手は▲同歩が無難でしょう。

第1図以下の指し手
▲同 歩 △7五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲7八金 △7六歩
▲8八角 △8六飛 ▲8七歩 △8四飛 ▲3八銀 △1四歩
▲6八銀 △7三桂 ▲1六歩 △7四飛 ▲4六歩 △5二金右
▲4五歩 △6四銀(第2図)
 




△6四銀が好手に見えました。次に△7七歩成~△6五桂が狙いです。この筋を受けるだけなら▲7九歩がありますが、反撃の味がなくなってしまいます。第2図まで進むと後手が作戦勝ちに見えます。ぱっと見て先手の応手が浮かびませんでした。

第2図以下の指し手
▲4四歩 △5五歩 ▲7五歩 △同 飛 ▲5七銀 △7七歩成
▲同 角 △1五歩(第3図)
 




難しいタイミングで村山七段は端歩を突きました。解説の船江五段も驚きの声を上げていました。この局面で歩を突くのがベストなタイミングだと判断したのでしょう。後手は先手の端をへこませることに成功して、それが結果的に終盤に活きることになります。

第3図以下の指し手
▲6六銀 △7六飛 ▲5五銀 △同 銀 ▲同 飛 △1六歩
▲1八歩 △5四歩 ▲同 飛 △6五桂(第4図)
 




△5四歩▲同飛の交換を入れて、後手は狙いの△6五桂が実現できました。▲9五角などと角を逃がすと△7八飛成で後手必勝になるので、先手は角桂交換に甘んじるしかありません。第4図から私の第一感は、▲5二飛成!でしたがさすがに無理でしょう。船江五段もその筋は上手くいかない、とおっしゃっていました。これは先手困ったんじゃないかと思っていましたが、ここから菅井六段の手作りはさすがでした。

第4図以下の指し手
▲5三歩 △同 銀 ▲4三歩成 △同 金 ▲8四飛(第5図)
 




▲5三歩から玉の横っ腹を開けてから▲8四飛と旋回するのが菅井六段の構想でした。第5図までいくと、銀に加えて桂香も持ち駒に加わりそうなので先手も戦えそうです。また▲5三歩に△同金は、▲5三飛成△同金▲4三歩成△同玉▲5四歩で食いつけそうです。

第5図以下の指し手
△7七桂成 ▲同 金 △4八歩 ▲同 金 △4六飛 ▲8二飛成
△7二歩(第6図)
 




△7二歩が受けの好手でした。▲同竜なら△5二歩や△4二金上と受けられたときに、一手で香車を取ることができません。また△5一歩と底歩で受ける余地も残しています。こういう手を実戦で指せるようになりたいですね。

第6図以下の指し手
▲4七銀打 △4四飛 ▲9一龍 △4六歩 ▲5六桂 △4七歩成
▲4四桂 △同 銀 ▲4七銀 △5一歩 ▲5九香 △4二銀
▲5二歩 △同 歩 ▲4五歩 △同 銀 ▲4四歩 △同 金
▲4六歩 △3四銀 ▲6二飛 △5一銀打 ▲7二飛成 △3一角
▲5三歩 △同 歩 ▲同香成 △5二歩 ▲6三成香 △6二歩
▲同成香 △3五桂(第7図)
 




ひたすら受けに回っていた村山七段ですが、ついに反撃に出ました。第7図から▲3八銀と引くと△8四角が痛打になります。成香を取られるわけにはいかないので▲5一成香としますが、そこで△4八角成と金を取った手が△3八馬▲同玉△4七銀▲2八玉△3八金までの詰めろになっています。

第7図以下の指し手
▲5一成香 △同 銀 ▲3八銀 △4七歩 ▲4九金 △2四香
▲6一龍上 △8一歩 ▲3六銀 △5七角 ▲5八歩 △4六角成
▲8一龍左 △6四角 ▲3五銀 △同 銀 ▲5一龍 △同 金
▲同 龍 △3六銀 ▲5二龍 △4二飛 ▲4一銀 △2二玉
▲4二龍 △同 角 ▲3九桂 △7九飛 ▲3二金 △1三玉
▲4二金 △1四玉(第8図)
 




△1四玉の早逃げが落ち着いた手に見えました。△1三玉のままだと▲1五飛~▲3一角の筋がちょっと気になります。玉の早逃げにより後手玉に寄り付きがなくなりました。また△4九飛成▲同銀△2七香成以下の寄せがあり、第8図は後手勝勢です。

第8図以下の指し手
▲7五飛 △5五歩 ▲6三角 △4八銀 ▲3六角成 △同 馬
▲同 歩 △4九銀不成 ▲4七銀 △4八角(投了図)
まで146手で後手の勝ち




投了図以下、先手玉は△3八銀成▲同玉△3九飛成までの詰めろになっていますが、適当な受けもなく投了もやむなしです。

まとめ
菅井六段の先手中飛車に対し、後手番の村山七段が角道を開けないまま棒銀を仕掛けていきました。この珍しい作戦が功を奏し、村山七段が優勢になりました。菅井六段が必死に食らいつきますが、村山七段の手厚い差し回しに一歩及ばず逃げ切られました。村山七段の快勝譜になりました。また菅井六段の劣勢になってからの粘りも参考になりました。

棋戦:第65回NHK杯テレビ将棋トーナメント
先手:菅井竜也 六段
後手:村山慈明 七段

▲5六歩 △8四歩 ▲7六歩 △6二銀 ▲5五歩 △8五歩
▲7七角 △7四歩 ▲5八飛 △4二玉 ▲4八玉 △7三銀
▲5四歩 △同 歩 ▲同 飛 △6四銀 ▲5九飛 △3二玉
▲3八玉 △4二銀 ▲2八玉 △8六歩 ▲同 歩 △7五歩
▲同 歩 △同 銀 ▲7八金 △7六歩 ▲8八角 △8六飛
▲8七歩 △8四飛 ▲3八銀 △1四歩 ▲6八銀 △7三桂
▲1六歩 △7四飛 ▲4六歩 △5二金右 ▲4五歩 △6四銀
▲4四歩 △5五歩 ▲7五歩 △同 飛 ▲5七銀 △7七歩成
▲同 角 △1五歩 ▲6六銀 △7六飛 ▲5五銀 △同 銀
▲同 飛 △1六歩 ▲1八歩 △5四歩 ▲同 飛 △6五桂
▲5三歩 △同 銀 ▲4三歩成 △同 金 ▲8四飛 △7七桂成
▲同 金 △4八歩 ▲同 金 △4六飛 ▲8二飛成 △7二歩
▲4七銀打 △4四飛 ▲9一龍 △4六歩 ▲5六桂 △4七歩成
▲4四桂 △同 銀 ▲4七銀 △5一歩 ▲5九香 △4二銀
▲5二歩 △同 歩 ▲4五歩 △同 銀 ▲4四歩 △同 金
▲4六歩 △3四銀 ▲6二飛 △5一銀打 ▲7二飛成 △3一角
▲5三歩 △同 歩 ▲同香成 △5二歩 ▲6三成香 △6二歩
▲同成香 △3五桂 ▲5一成香 △同 銀 ▲3八銀 △4七歩
▲4九金 △2四香 ▲6一龍上 △8一歩 ▲3六銀 △5七角
▲5八歩 △4六角成 ▲8一龍左 △6四角 ▲3五銀 △同 銀
▲5一龍 △同 金 ▲同 龍 △3六銀 ▲5二龍 △4二飛
▲4一銀 △2二玉 ▲4二龍 △同 角 ▲3九桂 △7九飛
▲3二金 △1三玉 ▲4二金 △1四玉 ▲7五飛 △5五歩
▲6三角 △4八銀 ▲3六角成 △同 馬 ▲同 歩 △4九銀不成
▲4七銀 △4八角

まで146手で後手の勝ち

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