「なんじゃこれは」
「手間賃です」
「ほう、殊勝な」
平松はバックを開けると一瞬固まったが、顔を上げ鮫島を睨んだ。
「五千万あります」
「じゃ遠慮なくいただくか」
平松は一束、札束を掴むとジッパーを閉め、鮫島にバックを返した。
「全部受け取ってください」
「人間欲掻くとロクな事ねえ、俺はこれだけでいい」
持った札束を鮫島の前でゆらした。
二人はしばらく無言でにらみ合ったがやがて、鮫島はバックを掴むと
「若頭に電話してもらえますか、俺がここにきて、無理矢理おっさんにパスポート作らせたって」
「すまねえな、もう電話はさせてもらった。まもなくここに猿渡の連中がくるはずだ」
「さすが、おやっさんだ。なんでもお見通しですね」
「だてにこの年まで生きていねえ」
「何時ごろきますかねえ?」
「そうよな、若頭の川崎はおまえんとこの組長と違って頭切れるから、いがいと早いかもな」
「俺もそう思います」
鮫島と平松は目を合わせると、唇を緩めた。
「お、そうだ、鮫、これ持っていけ」
平松が鮫島に手に持っていた物を放り投げた。
受け取り、見れば、ジッポのライターだ。
「欲しかったんだろ、それ」
「すみません」
鮫島の表情が完全に崩れた。
タバコを咥え、もらったライターで火をつけると、大きく煙を吸い込んだ。
「うめー」
「鮫、そろそろだぞ」
「わかっています、じゃ、おっさんすみません」
鮫島は銃を取り出すと、一瞬のためらいののち、平松に向かって一発発射した。
「きゃー」
悲鳴を上げたのは琴音だった。
倒れた平松に駆け寄ろうとした琴音の腕を掴むと、銃をしまい、バックを掴むと、琴音を引きずる様に外に向かって歩き出した。
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