※フィクションの部分もあります。あと、現代の言葉を使っています。
ご了承下さい。
ガラシャ物語<5>
大阪の屋敷に移った珠には、多くの家臣と侍女がつけられた。 忠興がつけた珠の監視役である。 しかも、忠興は出掛ける前には「妻の貞操が危ぶまれる事態が起きたときは、迷わず殺せ」と家臣に言い、珠自身にも「貞操を捨てなければならなくなったら自害せよ」と言い切った。
これは決して、珠を憎いからではない。 その真逆。 珠と離れたくないという忠興の愛情であった。 しかし、このゆがんだ愛情は、珠にとって第二の幽閉となってしまったのである。
また幽閉の身となってしまった珠は、時折青い空を見上げて、宮津にいた頃を懐かしんでいた。
「宮津での暮らしはほんの短い間でしたが、天橋立のあの美しい景色に何度心を奪われたことでしょう。 中でも春に行われた天橋立での茶会は忘れられません。 忠興様や我が父、茶人の方などをお招きしたのです。 そして、翌日には、与謝の海での船遊びを楽しみ、本当にいい思い出です。 あの頃が懐かしい・・・」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた珠だったが、それを聞いていた侍女が口をはさんだ。
「殿はあまりにもひどいのではありませんか? これでは幽閉と同じではございませんか!」
この侍女は、丹波の山中に幽閉されていた時に、珠に仕えた女性であり、心の許せる数少ない侍女であった。
「これがあの方の愛情なのです。 本当なら、父・光秀が信長を討った時に、私は殺されていたはずなのに、それを忠興様は救って下さった。 外出させないことで、私を守ろうというお考えなのです。 決して文句を言ってはなりませんよ」
たしなめられた侍女は、「申し訳ございません」と頭を下げ、部屋をあとにしたが、一人の男がその様子を聞いていたことに気づくことはなかった。
「珠、こんな形でしか守れずすまん」
その男・忠興は、一粒の涙を流していた。
そして、同じ頃、先ほど部屋をあとにした侍女は、私は私なりのやり方で奥方様を守ろうと決心していた。
その侍女を通してキリシタンの道へ進むことになるのは、後日のことである。
了
いかがだったでしょうか
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さてさて、次週からのお話は・・・私がこの小説を書こうと思った時に
絶対に主人公にしたいと思った悲劇のヒロインです。
お楽しみに
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