人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

岡田暁生著「クラシック音楽とは何か」を読む~初心者には「クラシック音楽入門書」として、ベテランには「知識を整理するテキスト」として最適な良書

2018年03月05日 07時55分13秒 | 日記

5日(月)。わが家に来てから今日で1251日目を迎え、ビクター犬「ニッパー」に何やら耳打ちするモコタロです

 

     

      キミの耳が このブログに登場する とご主人が言っていたよ  耳よりな話じゃね?

     

        

 

岡田暁生著「クラシック音楽とは何か」(小学館)を読み終わりました 著者の岡田暁生氏は1960年京都生まれ。京都大学人文科学研究所教授、文学博士。音楽学者。音楽関係の著作が多数あります

 

     

 

この本は朝日新聞の書評欄を見て購入を決めたものです 読者好きで「ドッグ・イヤー」という言葉の意味を知らない人はいないと思います。気になるページの角を折って印にすることですが、その形が犬の耳に似ていることから付けられた言葉です この本を読み終わって「ドッグ・イヤー」を数えてみたら30か所ありました この本は全315ページありますから 10分の1ですね。それほど「そうだったのか!知らなかった」と驚いたり、「ふーん、そんな考え方もあるんだ」と感心したりしたことが多々あったということです

この本は40項目にわたってクラシック音楽を分析していますが、そのうち、自分自身が知っていることも含めて、面白そうな部分を掻いつまんでご紹介することにします

【クラシック音楽の黄金時代は19世紀】

クラシック音楽とは18世紀前半から20世紀初頭、わけても19世紀に作曲されたヨーロッパ音楽の名作レパートリーのことである 切符を買えば音楽が聴ける「コンサート」が最初に行われたのはイギリスであり、有名なのはザロモンという興行師が大陸からハイドンを招待してロンドンで行った 1791-92年と1794-95年のコンサート(目玉は交響曲第93番~第104番)である

【交響曲について】

交響曲はコンサートという制度のソフトとして生まれた 逆に言えば、コンサートがなかった時代には交響曲はなかった。バロック時代の音楽は教会儀式に使われるか、王侯貴族の生活のBGMのような性格が強く、音楽を鑑賞するためにチケットを買って聴きに出かけるなどという機会は皆無だった 交響曲が本格的に書かれるようになるのは、18世紀の半ばあたりからのことで、そのルーツの一つは『オペラの序曲』、もう一つは『セレナーデ』の類いである 交響曲は4つの楽章から成るが、オペラの序曲を拡張して4つの楽章にする、あるいは7つくらいの楽章から成ることが多いセレナーデを4つの楽章に圧縮して、交響曲が出来た、と理解してよい

交響曲というジャンルが持つ特別なオーラを決定的にしたのは、いわゆるウィーン古典派の3人の巨匠、ハイドンとモーツアルトとベートーヴェンである だが、ハイドンやモーツアルトの交響曲は、まだ「人々に熱く呼びかける音楽」ではない。彼らの作品にはもう少し貴族的なクールさがある。交響曲をして、群衆を糾合するような音楽へと高めたのは、何と言ってもベートーヴェンだ 彼は交響曲の構成に政治集会のような性格を与えた。問いかけと否定、そして呼びかけーーこれがベートーヴェンの音楽の重要な基本性格である 19世紀ロマン派の、とりわけドイツの作曲家たちは、ベートーヴェン・コンプレックスに苛まれていた

ベートーヴェンとまったく違う世界を切り開くことができた唯一の交響曲は、シューベルトの交響曲第7番「未完成」だ 熱い熱狂で終わるベートーヴェンに比べ、静けさに満ちた甘美な旋律を繰り返して閉じられる。シューベルト以降、「消えるように終わる交響曲」で成功したのは、少なくとも チャイコフスキー「交響曲第6番”悲愴”」、マーラー「交響曲第3番」、同「交響曲第9番」の3曲である

【オペラは「クラシック」じゃない?】

交響曲は「重厚で真面目で偉大な芸術音楽」であり、いわば「クラシックの王様」である だが注意しておかねばならないのは、交響曲が作られたのが、ほとんどドイツ語圏(ドイツとオーストリア)だったということだ それでは、イタリアやフランスの音楽はクラシックではないのか? 極端に言ってイエスである イタリアやフランスなどの音楽はドイツのそれと比べて、はるかに娯楽音楽に近いのだ

もともとは娯楽音楽だったものが、いつの間にか交響曲などと一緒に「クラシック」に分類されるようになってしまったジャンルがイタリア・オペラである 図式的にいって、私たちがクラシックと呼んでいるヨーロッパの近代音楽には2つの「極」があった。ドイツの交響曲とイタリアのオペラである。ドイツ対イタリア、そして交響曲対オペラ・・・両者は水と油のように音楽文化が違う。イタリア・オペラは19世紀の演歌だった

それとは別に「19世紀版ムード・ミュージック」とも言うべきジャンルが「サロン音楽」である サロンではショパンやリストが活躍する。彼らは19世紀のポール・モーリアやリチャード・クレイダーマンだった

【クラシックの古典芸能化】

恐らく人々は19世紀くらいまで「演奏」にはあまり興味がなかったはずだ。例えばマーラーは大指揮者としても有名だったが、彼が指揮したオペラ公演のポスターを見ても、彼の名前は出ていない 人々の興味はもっぱら「誰が何を作るか」に向けられ、「誰の何を誰がどう演奏するか」などどうでもよかった それが20世紀に入ると変わってくる。あまり新曲が作られなくなり、レパートリーが固定し始める。クラシック音楽の古典芸能化だ 定期的に同じ作品が頻繁に上演されるから、必然的に人々は有名な曲を覚える。だから「今度は何を誰がどう指揮するのだろう」という関心とともにコンサートに臨むようになる。また、演奏家が演奏に特化するようになったことも関係する。マーラーやリヒャルト・シュトラウスは大指揮者だったが、それ以前に大作曲家だった。それが「演奏しかしない大演奏家」が増えてくる。それに先鞭をつけたのがイタリアのトスカニーニだった

【名演とは何か】

クラシック・ファンの間には、レパートリーの定番名曲についての、暗黙の「この曲、かくあるべし」のイメージがある 第1楽章のテンポはだいたいこんな感じ、あそこは少しブレーキがかかる、ここで盛り上げてあそこへもっていく、サウンドはこういう感じが良い等々。もちろん漠然としたものではあろう。はっきりした根拠があるわけではないのかもしれない。しかし、この暗黙のイメージ規範には結構な権威があって、そこからあまりにもかけ離れた演奏をやったりすると、たとえそのクオリティーが極めて高いものであっても、「異端」のレッテルを貼られかねない デビューした当時のグレン・グールドが弾いたバッハは、まさにこれが理由で、異端視されたわけだ

「いい演奏」とは、自分を消して徹頭徹尾作品に奉仕する類のものである 対する「名演」に特徴なのは、あえて言えば、一種の「ドヤ顔」である。それは遠慮会釈なしに「オレ様」を前面に押し出す。フルトヴェングラーのベートーヴェン、クライバーのヨハン・シュトラウス2世、バーンスタインのマーラー、ホロヴィッツのショパン・・・みんなそうだ 意地悪く言うなら、彼らの「名演」はほとんど彼らのアレンジだと言っても過言ではないくらいに、自分の個性と確信を強烈に押し出している それはフルトヴェングラーのベートーヴェンであり、ホロヴィッツのショパンであり、バーンスタインのマーラ―なのだ 「名演」とは、一方で恣意すれすれのエグ味を持ちつつ、単なる勝手には陥らないギリギリのところに成立する

【演奏のよしあしはどうすればわかる?】

どうすれば具体的に演奏のよしあしが分かるようになるか。極端に言って最良の方法は、「とんでもなく凄い演奏」と「とんでもなくひどい演奏」の両極端を経験することである それもライブがいい。もう一つは、プロモーションの誇大広告に注意すること まるで何十年に一人の天才であるかのような宣伝とともに売り出すことは、業界にはしょっちゅうある こういう演奏家を聴いて、「評判の人なんだから、たぶん良かったんだろう」などと思い込むのは止めた方が良い。「演奏のよしあし」はレストランの印象とよく似ている。「自分が美味しいと思えば、とりあえずそれでいいじゃないか。何かいいところはあったのだろう」「評判はあまり気にしない」「ものすごくいいものと、とんでもなくひどいものは誰にもすぐわかる」「よさが分かるまで時間がかかるものも時にはある」などだ

いつものように、こんな調子で紹介していったらキリがありません この本には 以上のほか、「モーツアルトとベートーヴェンの違いについて」、「宗教音楽について」、「古楽器演奏」、「オーケストラになぜ指揮者がいるのか」等々、クラシック愛好家には興味深いテーマが満載です クラシック音楽を聴き始めて日が浅い人たちには入門書として、かなりクラシック音楽を聴き込んでいる人たちには これまでの知識を整理するテキストとして最適な良書です

広くお薦めします あなたはいくつのドッグ・イヤーを折ることになるのでしょうか

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