脱走   ~幼犬期~ | おばあちゃんになった、わんこさんのおはなし。                    ~高齢柴犬の闘病・介護記録~

おばあちゃんになった、わんこさんのおはなし。                    ~高齢柴犬の闘病・介護記録~

ハイシニア柴犬介護記録です。
1年3カ月の闘病期間を含め、いつでも家族みんなで笑いながら過ごした、柴犬「わんこさん」との16年と8カ月の生活。
悲喜こもごもあったけど、トータルしてとっても幸せだった日々のおはなしです。

犬と一緒に過ごす生活って、いいね。

わんこさんは体も丈夫で物怖じしない性格、とても元気な子でした。

そんな子なので、どうしてもおてんばエピソードが増えてしまうのも仕方ないことでした。

 

はじめての夏、わんこさんが生後3・4カ月頃。帰宅寸前の私は、家の前でお向かいのおじさんに呼び止められました。

「お宅の犬、きちんとつないで飼っているかい?」

 

本当はとても優しい方なのですが、唐突な質問と強面、さらにそっけない口調に慣れなかった私はとっさに叱られたか責められたかと思ってしまい、

「きちんと鎖でつないでいますが…。」と返しました。

「おんしつさんの犬じゃなかったか。それじゃ、あの子はどこの子か、散歩してて知り合いの犬の中に心当たりはないかい?」

やっぱり優しいおじさんです。おじさんの視線の先、玄関のドアノブに係留用の頑丈で重い鎖のまま繋いで保護してもらっていた脱走柴犬。自分に向けられた視線に気づきびょんびょんと嬉しそうに大きく飛び跳ね、くるくる回り、後ろ足で立ち両手で手招きして過剰なアピールを繰り返す騒がしいその子は、間違いなくわんこさん!

「ああっ!うちの子です!わんこさんです!すみません、そしてありがとうございます。」

 

わんこさんは地面に埋め込んだ鎖をつなぐ金具を根もとから引っこ抜き、体の厚みより低いはずの閉じていたガレージの門扉も腹這いになって無理矢理くぐり抜けたらしく、鎖をくっつけたまま道路を走り回っていたそうです。金属を引きずる音に気づいてもらい、見つけてもらえてよかった。車に轢かれたりどこかに鎖をひっかけて身動きできなくなる前に保護してもらって、本当によかった。

この日おやつに食べるはずだったハーゲンダッツのファミリーサイズのアイスクリームは、急きょ保護のお礼として甘党だというおじさんのご家庭に渡りました。固い鎖を繋いでもらったまま大暴れし続けたわんこさんがドアノブに傷をつけなかったか心配だったので、アイスクリームだけでは不十分だったかもしれないのに、「うちのドアには傷なんてつかないよ。」って言って笑い飛ばしてくれたおじさんには本当に感謝です。

 

すぐに地面に埋め込む金具をそれまでよりさらに深く、大きく頑丈なものに変えて。以降わんこさんが金具を抜いてしまうことはなくなりました。けれどその後も、バックルの端を自分で噛んで引っ張って首輪を外してしまったりして、わんこさんは何度か脱走をしました。そのたびに家にあったとっておきのお菓子や果物が、次々お詫びの手土産に変わりました。植えたばかりの花壇の花苗をほじくり返したその上に寝そべっていてお隣のおばあちゃんをびっくり仰天させたり。植木鉢をひっくり返して玄関前を土まみれのグチャグチャにしてしまったり。それでもわんこさんが危険な目にあったり怪我をしたり怖い思いをすることなく、あっけらかんと笑顔で帰ってこられたからよかったのです。迷惑をかけただろうけれど、お詫びに出向けば快く許してもらえて「わんこさんって賢そうだと思ってたけど、ほんとはやんちゃなのね。」って最後は笑ってもらえたこと、今になって思い返せば本当にありがたいことでした。

 

その後わんこさんは大きくなり、子犬時代特有の過剰な運動量も落ち着いて、成犬期を過ぎ老年期にさしかかり。おとなしく単調に毎日を過ごしていました。

わんこさんが12歳前後だったでしょうか。脱走癖の過去など忘れたうっかり体質の私は、ある日散歩用のリードから係留用の鎖につなぎかえる際にきちんと確認せず、ストッパーを完全に締めきらないままにしてしまったらしく。何かの拍子に鎖から外れ、首輪だけの状態になったわんこさんが鎖につながれたままのいつもなら絶対にいるはずのない位置をうろうろ歩いていたりして家族を驚かせました。けれどもうわんこさんは、自由に動き回れても何のいたずらもしなかったのです。呼べばおとなしく小屋に戻って容易に鎖に繋げたことを、私たちはわんこさんの賢さが増したと思い喜んだのでした。いろんなことに興味が薄れる老化現象だとは気がつかなかった。パワーが余ったゆえの困ったいたずらに手を焼くことがなくなってきたということは、つまり神様のもとに召される時が近づいてきたということなのだという事実には当時まだ、気づけなかったのでした。

こうやってわんこさんの生涯を振り返ってみてはじめて、私はその事実に気づいたのです。そして、私たち家族の力だけでなく、ご近所さんの暖かい優しさに支えられてわんこさんが日々を送れていたことへのありがたさにも、今、改めて気づけました。

 

想定外の事態やうっかりミスの連続で失敗だらけのわんこさんの育成だったかもしれませんが、わんこさんは怪我もせず無事大きくなり立派に育ち、そして幸せに生涯を送れました。たまたまの幸運な偶然が重なったと言えばそれまでですが、どんなに気を配っていても事故が起きるのはほんの一瞬の隙だと分かってはいますが、家族だけではわんこさんのすべての安全を守り切れなかったのも事実です。周囲の好意や協力ってありがたいものです。感謝の気持ちとともに巡り巡っての恩返しが私にはできているかを顧みれば、充分だと言える境地には程遠いことに気づきます。全部返しきれないかもしれないと嘆くよりも、できる行動からはじめていきましょう。わんこさんのお母さんとして、恥ずかしくない人物でいられるように。私にはまだまだ、時間はあるはずです。生き方の大切なポイントには気づけたのですから、ついつい忘れてしまわないように気を引き締め、諦めずに歩みましょう。

 

 
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