引用記事です。ヤフーニュースから
 
受動喫煙対策、ようやく本腰の日本

 政府は3月上旬に健康増進法の改正案を提出し、受動喫煙対策を強化する方針です。この法案が成立すれば、病院や小・中学校での「敷地内禁煙」、大学や官公庁などでの「屋内禁煙」、駅などの公共施設や飲食店の屋内での原則禁煙「ただし喫煙室設置可」の3段階で喫煙が規制されることになり、違反した場合は、罰せられることになります。

 私は乳がんを経験し、2008年からは日本対がん協会の「ほほえみ大使」としての活動もしてきました。喫煙による健康被害は、今では科学的に証明された事実であり、肺がんや、咽頭がんだけでなく、他の多くのガンの発症にも繋がっています。百害あって一利無しと言われる喫煙ですが、長らく愛煙家達は、「自分が選択している趣向品なので、他人にとやかく言われる事はない」と、規制派に反論してきました。

 しかし、近年、主流煙よりも受動喫煙の害のほうが深刻なことが証明され、段階的に喫煙規制が行なわれてきました。しかしそれでも、従来の日本の受動喫煙対策は努力義務でしかありませんでした。

 受動喫煙で毎年、世界で60万人が死亡していると発表しているWHO(世界保健機関)は、日本の受動喫煙対策は世界最低レベルであると指摘しました。そして2020年の東京オリンピックを「たばこのない五輪」にするよう勧告しています。

 一方、より厳しい規制が行なわれると「売り上げが激減して商売が成り立たなくなる」と反対する飲食関係者もいます。しかし、今や喫煙人口は2割に満たず、8割以上の人は、他人から吐きだされた煙を吸いたくないと思っています。産経新聞社の調査でも規制賛成派が8割で、喫煙者でさえ、3割が規制に賛成しています。

 27年前、私がスタンフォード大学に留学していた当時、すでにカリフォルニア州には禁煙に関する法律があり、大学のある地域での公共の建物内は全面禁煙、建物から15フィート離れた屋外まで禁煙でした。

 「本当に不便で仕方がない」と喫煙者の友達は嘆いていましたが、家を売るにしても中古車を売るにしても、「タバコの臭いがするからイヤだ」と敬遠されてしまうような社会的な風潮が、すでに出来上がっていました。

 現在、公共の建物の屋内全面禁煙の国は、世界に49ヶ国あります。あのタバコ天国の中国ですら、2008年の北京オリンピックを契機に、罰則付きの喫煙規制をすすめています。

 遅ればせながら日本でも、先進国と同レベルの禁煙の法律ができるように期待しています。

 法律が成立すれば、飲食店の心配は、きっと杞憂に終わるでしょう。全ての店が横ならびに禁煙になれば、愛煙家も選択肢がなくなるので、結局、売上げが落ちることはありません。むしろ8割の嫌煙家の選択肢が広がるので、売上げが伸びるようになると思います。

 最近、喫煙者の友達と外食をしました。彼は禁煙の店ではないのに、「ちょっとタバコタイム」と言って、席を外し、店の外へたばこを吸いに行きました。本来、法律があってもなくても、こうした愛煙家の周囲に対する配慮と心づかいが必要なのだと思います。

 現在、日本の喫煙率は19.3%。男性が32.2%、女性は8.2%で、男女とも減少傾向にあります。しかし男性の3割が習慣的喫煙者なのは、先進国では高い数字で、問題です。政府は禁煙外来を増やしたり、たばこ税を上げるなど、さらに喫煙率を下げるための努力をしていかなければなりません。

 高齢化が進む日本では、がん予防はもちろん、健康寿命を維持するためにも、スモーキングフリーの社会の実現が急務なのです。

■アグネス・ M ・チャン(教育学博士)
1955年香港生まれ。本名金子陳美齢。72年日本で歌手デビューしトップアイドルに。上智大学を経て、トロント大学(社会児童心理学)を卒業。94年米スタンフォード大学教育学博士号取得。98年日本ユニセフ協会大使。2016年ユニセフ・アジア親善大使も兼務。