フランス大統領選挙・第一幕 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

 

 

フランス大統領選挙の結果がおおむね出ました。

予想通り過半数を取る候補はおらず、5月7日の決選投票に持ち越しとなり2候補にしぼった選挙戦が繰り広げられることになる。

 

フランス、イギリス、アメリカの新聞から

 

仏大統領選、マクロン氏とルペン氏が決選投票へ(AFPBB)

http://www.afpbb.com/articles/-/3125851?cx_part=topstory

 

仏大統領選、ル・ペン氏とマクロン氏が決選投票へ(BBC)

http://www.bbc.com/japanese/39689397

 

フランス大統領選、マクロンとルペンの決選投票へ

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/04/post-7471_1.php

 

おおむねどの新聞も似たような反応。

グローバル化を維持するマクロン氏と脱グローバル化のル・ペン氏の決戦になると予測しているようだ。

 

ル・ペン氏を移民やテロの恐怖を煽るポピュリストと評する新聞が多いが、その新聞らの主張は、裏返せばグローバル化に背を向けて国を閉ざせば世界で生きていけなくなるぞと、これまた不安を煽っているわけで、どちらもポピュラリティに依存してるわけですな。

で、どちらが現実的なのか…てことですが。

 

 

おもしろいのはニューズウィークで、開票が進んだ前半ではル・ペン氏が勝っていて、都市部の開票が進んだ後半でマクロン氏が追い抜いたと書いている。

この経緯をAFPBBが公開していた速報結果で見ることができます。

下の画像は最も開票が進んだ時点のもの。

 

(引用元→)https://twitter.com/julesbonnard/status/856281972859187200

 

黄色がマクロン氏、濃いグレーがル・ペン氏。

 

おもしろいことに、ドイツに近い北東部から地中海沿岸のマルセイユなどがル・ペン氏に投票しているようだ。

地中海に浮かぶコルス島もフィヨン氏、ル・ペン氏が多い。

マクロン氏はスペインやイギリスに近い地方を中心にしている。

前後半で結果をひっくり返したのは人口の多い大都市パリ、ということなのでしょう。

 

また、マクロン氏とメランション氏が、ル・ペン氏とフィヨン氏が隣接または包含する形になって暖色・寒色に色分けされているのもおもしろいですね。

 

こうしてみると、アメリカ大統領選挙でトランプ支持とヒラリー支持でパッキリ分かれたのとにています。

 

トランプ氏を支持したのはラストベルト(錆びついた地帯)と言われる失業者の多い格差が深刻な中部の州でしたが、フランスの場合はドイツに接しているかそうでないかで分かれているように見えます。

 

ドイツと国境を接するアルザス・ロレーヌ地方は第二次世界大戦中、ドイツに併合された地域で、ベルギーと接するシャンパーニュやカレー地方も戦車の進軍を受けた。

また、モナコを囲むイタリアと国境を接するプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地方もイタリア・ドイツに侵攻された地方だ。

外国からの脅威を直接体験した人々がル・ペン氏を支持したと言えそうだ。

 

一方、国境から離れたブルターニュ地方は酪農で安定した地域で自動車産業やIT産業が盛んで最大都市のレンヌは学術都市になっている。

スペインに近いトゥールーズは航空産業が盛んで、ツール・ド・フランスが行われるオート=ピレネー県は観光産業が盛んだ。

貿易や観光…つまりグローバル化の恩恵を受けている人々がマクロン氏を支持したと言えそうだ。

 

 

得票の多かった4候補では、一人マクロン氏のみがEU支持派。

ル・ペン氏は経済・安全保障・文化のすべての面で離脱派。

メランション氏は金融財政政策の主権を取り戻す経済面でEU離脱を辞さない考え。

フィヨン氏はEU維持だが人の移動の自由を担保するシェンゲン協定は見直す考え。

というわけで、違いはあるがEU懐疑論がマクロン氏以外の三者に振り分けられている。

 

EUに懐疑的な民意がル・ペン氏にどれだけ上乗せされるのかが注目点だろう。

フィヨン氏はマクロン支持を表明したが、メランション氏はまだ態度を明確にしていない。

EU問題以外の感心が強ければマクロン氏が勝つだろう。

 

その場合、フランスはグローバリズム・緊縮財政・構造改革という日本と同じ「デフレ三点セット」を継続することになる。

 

 

酪農や農業、自動車産業などは自国の需要が高まれば貿易に拘泥する必要はない。

国民のための政治(経世済民)を主眼にすればグローバリズムを制限しても大きな問題にはならないはずなのだ。経済恩恵は国民に渡る。

問題は緊縮財政と構造改革を進めるのにグローバリズムが都合良くなることなのだ。

この場合、経済的恩恵はフランス国民以外のグローバリストにも渡ることになる。

 

 

もう一つ、別な見方をしてみる

 

マクロン氏を代表とするグローバリズム・緊縮財政・構造改革路線は、安倍政権とよく似ている。

彼がその政策の根拠としているのはEU最大最強の隣国ドイツで、安倍政権におけるアメリカだ。

それぞれ、かつて自国を武力制圧した相手に依存している、という視点でもよく似ている。

 

 

グローバリズムを「善」としてきた欧米メディアや日本の主流派メディアがマクロン氏の勝利を願っているように見えるのも納得がいく。

国境を越えて利益を得てきたグローバリストに都合の良い政治が継続するか、国民全体のための経世済民が取り戻されるのか。

 

世界を舞台にした大きな問いかけがこれからもつづく。

 

 

 


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