第37章 手を取り合うために 参

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【逢魔時退魔学園 裏手】

百花 ファイテン 紫乃 澄姫

土御門澄姫「凄い音がきてたわね…ここまで聞こえてきたわよ?」

ファイテン「えへへ…ちょっと力が入っちゃったからね」

土御門澄姫「校長先生の話は…」

ファイテン「うん。澄姫と同じようなことを考えていたみたい」

土御門澄姫「そう…」

ファイテン「ああ。そうだったんだ、って残念な気持ちだったかな」

ファイテン「『殺されてくれない?』のほうがよっぽど衝撃だったよ!」

土御門澄姫「ぐっ…う… そ、そうよ、ね…」

百花文「柴乃さんはどう思いました?校長先生の発言は」

柴乃「私たちが聞いていたことはわかってたのね」

百花文「気になると思いましたし…それに、聞かせているのもあったと思います」

百花文「本当の内緒話なら、伝心か、他に人を呼ばなければいいですしね」

柴乃「私は…得心がいった、が本音ね」

柴乃「澄姫に加護を与えた前鬼と後鬼。『鬼と現との境界』の話」

柴乃「あの悪路王のことじゃなく、今回の事態が、その一部だったのかと」

土御門澄姫「だとすれば…私は、前鬼後鬼と悪路王に感謝しないとね」

土御門澄姫「ファイテンと一緒に幽世に行けるかもしれないんだから」

ファイテン「それって、どういう…?」

土御門澄姫「鬼は古くからある伝承。ほぼ全国に伝承が残る」

土御門澄姫「それなら、鬼の加護がある私だって、伝承を足掛かりに幽世に臨めるはずよ」

土御門澄姫(そうでなければ、龍神の髭がなぜ幽世にあったか説明がつかない)

土御門澄姫(きっと、あるはずなのよ…)

土御門澄姫(『あの髭をおいた』のが、吉備泉本人であれば)

土御門澄姫「杯、交換しておきましょうか。本当は酌み交わすものだけれど__」

土御門澄姫「物として残しておきたいの。…いい?」

ファイテン「うんっ!」

………

百花文 ファイテン 伊邪那岐

伊邪那岐「海坊主の結界のこともある。これが終われば己も戻ることにしよう」

伊邪那岐「随分長い間、ここに居て貰っちゃいましたね」

伊邪那岐「見届けたいこともあったしな。成ったようで安心した」

百花文「…校長先生のことですか?」

伊邪那岐「ああ。荷を託すことを覚えたのなら、心配ももうあるまい。ほぼ、だがな」

ファイテン「ほぼ…?」

伊邪那岐「今回の四国逆うち、泉が考えたことだが__結果としてそれは幽世を呼び、海坊主の顕現を早めた」

伊邪那岐「己から教えておこう。あの龍神の髭、元は現世のものだ」

伊邪那岐「何者かがあの地より幽世に至り、誘いとして置いたものだろう」

伊邪那岐「かくりよの大門の力が強まり、幽世と現世の境が曖昧になれば__海坊主は間違いなく、完全な姿で現れただろう」

伊邪那岐「そう、あと数ヶ月もあれば、力は満ちていたはずだ」

伊邪那岐「それまでは年月をかけて、少しづつため込んでいたものがな」

百花文「ここ最近、あの門は現れたと聞きましたが、違うのですか?」

伊邪那岐「泉と悪路王は、実際に目にするまでは阿弖流為の策だと思っていたらしいな」

伊邪那岐「だが、違う。断言しよう。阿弖流為だけで考えたことではない」

伊邪那岐「利用する心持ちはあっただろうが、あの髭自体はもっと以前のものだ」

伊邪那岐「さて、ここで少し考えてみろ」

伊邪那岐「近年で【龍神】を狩り、髭を持ち幽世に至れた者は?」

伊邪那岐「さらにその髭の存在を、阿弖流為が知っていた理由は?」

ファイテン「それ、は…」

伊邪那岐「今は真実を知る方法はない。だから憶測しかできない」

伊邪那岐「過去の行動が、偶然引き金になったのか__『己の主の死。犠牲すら計算の上で、ここまで見越していたか』」

ファイテン「でも、それは憶測です」

伊邪那岐「だが、今の泉にとっては最も恐ろしい想像だ」

伊邪那岐「悪い方にはいくらでも考えを及ばせることができる」

伊邪那岐「己の主の返し方が、閂に魂を宿らせることだったら?」

ファイテン「……」

伊邪那岐「自らも共にありたいと思い、あの泉に…式姫に何らかの方法で保険をかけ、大門にて『式姫との成り代わり』を考えていたら?」

伊邪那岐「いや、そもそも__」

伊邪那岐「己の主と、吉備泉に友情はあったのか。全てが偽りだとしたら?」

ファイテン「それは…悪い方向に考えすぎだと思います」

伊邪那岐「…事が起こった際には己も召喚されてそこにいた」

伊邪那岐「吉備泉の絶望は本物だった。あの瞬間、確かに自らを呪っていた」

伊邪那岐「いくらでも憶測はできる。しかし、主の思惑を__悪い方向に考えなければならないこと。式姫にとっては、とても、とても辛いことだ」

ファイテン「……」

伊邪那岐「ああ、それと__」

伊邪那岐「主に会えることはまだ望んでいるが、己はファイテンも気に入っている」

伊邪那岐「母親に倣わずともよい部分はある。この意味、覚えておくようにな」

………

悪路王土下座

吉備校長「話は終わったようじゃな。では、次の遠征地について語ろう」

ファイテン「あっ…うっかりしてました。門、開いたんですか!?」

吉備校長「いや。違う。幽世が現世に現れようとしているのじゃ」

………

百花文「【壇ノ浦】ですか。あの合戦があったと言われる」

吉備校長「真剣【草薙】が沈んでいるともされている場所じゃ__」

吉備校長「古戦場と言う場所柄も含め、影響が出る場所としては納得がいく」

ファイテン「実際に現れるまでは、まだ時間があるんですよね?」

吉備校長「ああ。その間に地域での対応や、封鎖の段を取らねばならんの」

………

三善 吉備校長

吉備校長「八重」

三善先生「はい。なんでしょう。泉先生」

吉備校長「先も言ったが、幕府への対応を頼む。今まではワシがやっていたが__」

三善先生「ふふ…返事は前と変わりませんよ。頼られることは嬉しいことですから」

三善先生「承りましょう。代役、見事にこなしてみせます」

吉備校長「頼りにしておるぞ」

………

澄姫 校長

吉備校長「悪、土御門」

吉備校長「幽世に至る方法をワシと探そう」

吉備校長「大門とは異なり、今回のような幽世の一部であれば、方法はあるはずじゃ」

吉備校長「そして、土御門。加えて力を磨く機会を、じゃったな」

吉備校長「調査の合間合間になるが、共に力を磨こうではないか」

土御門澄姫「この間のお願い、聞いてくれたんですね。ありがとうございます」

吉備校長「そのお礼が、ワシと悪への恨みごとに変わらんといいがの」

吉備泉 悪路王2

悪路王「吾もまた力を磨かねばならぬ。教授するのではなく、人と共にな」

悪路王「ついて来られぬならば、容赦なく置いていくぞ」

澄姫 校長

土御門澄姫「それはこっちの言葉よ!私は、諦めないんだから!」

悪路王「今の言葉、覚えておこう」

………

吉備泉

吉備校長「この度は、このような場を設けてまで、回りくどいことをしてしまった」

吉備校長「ワシには何が正しいのか、何が真実だったのかはわからぬ」

吉備校長「だから、一人で考えるのは止めにした。オヌシらを存分に頼らせて貰うぞ」

………

文 校長2

百花文「古い文献は私が調べておきますね。ここ最近の陰陽師のことも含めて」

………

三善 吉備校長

三善先生「幕府はお任せください。泉先生が、やりたいことに専念できるようにします」

………

柴乃 吉備泉

柴乃「土御門家の文献、文だけでなく私も調べるようにしておきます」

………

澄姫 校長

土御門澄姫「ファイテン…絶対に、横に並ぶからね!」

………

吉備泉 悪路王2

悪路王「鬼と人との杯、か。破ることはできぬな」

………

吉備泉

吉備校長「この杯に誓い、共に…ワシと一緒に、戦ってくれ」

吉備校長「主の遺志を継ぐのではなく、ワシや皆のいるこの国を守るために」

吉備校長「頼む…!」

………

ファイテン 校長3

ファイテン「わかりました。一緒に…頑張りましょう!」

………

吉備校長「ファイテン。皆が帰り、この場に誰もいない今、話すことがある」

ファイテン「はい…何ですか?」

吉備校長「これからは、昔のことに関して少しづつオヌシに伝えていこう」

吉備校長「このままワシが持っておっても重く、また正しいのかもわからぬからな」

吉備校長「おぬしの母に関わることは、まずオヌシだけに教える」

吉備校長「口止めはせぬ。話す相手は自分で選ぶが良い」

ファイテン「はいっ!」

吉備校長「まずは、一つ確実なこと。オヌシの言っていた式姫じゃ」

ファイテン「…あの子、のこと…」

吉備校長「まだ式姫が式姫と呼ばれぬ頃から存在だけは伝えられていたもの」

吉備校長「どう召喚したかはわからぬ。ワシはそこにいたことを覚えているだけ」

吉備校長「じゃが、召喚されたことがある以上、依代さえあれば呼び出すことは可能じゃ」

ファイテン「依代…型紙、ですか」

吉備校長「特別な型紙となろう。それ故、今は名前だけ覚えておくがいい」

吉備校長「天沼矛(あめのぬぼこ)より零れた一滴から生まれた式姫」

吉備校長「【国造(くにつくり)】とお前の母は呼んでいた」

吉備校長「それでは、太古の役職だとワシの主は笑ったらしいがな」

ファイテン「それが、あの子の名前…!」

吉備校長「共に調べていこう。召喚が叶えば、あのときのことも、わかるやもしれんしな」

ファイテン「…はいっ!」


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