Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

ブラインド聞き比べ

2018-04-12 | マスメディア批評
バーデンバーデンでの復活祭の一連として収録された番組を聞いた。ラトル指揮第七交響曲イ長調演奏の前日の同地での公開番組だ。四人の音楽評論家が四つの録音を持ち寄ってブラインドで聞いて演奏実践に迫るという番組である。この手の評判の高い私の友人が出ているスイスの番組との違いは、演奏実践の相違について分析していくよりも、対抗馬を落として行って最終的に二つを勝負させるというところが大きく違う。つまり客観的な相違を洗う出していくというようなところまで至らない。

今回の番組もだから演奏実践の核というか、演奏家がどのように楽譜を読みどのように音化しているの実態には全く触れない。やはり評論家の質にもよるがアカデミックなアナリーゼを抜けきれない。それでも今回は自身の管弦楽団を持ってベートーヴェンアカデミーを率いているルーヴァンの教授指揮者も一人だったのだが、この人の批評がアカデミックな和声システムの色付けとそこから急に演奏を称して表面的で心が籠もっていないというようなまるで日本人評論家が謂うようなことに飛躍する。

一人目のスイス人が持ってきた録音がヴァイル指揮1811楽団の演奏を称して、音を正しく出すことに終始していると聞こえるらしい。私からすると下手な演奏なのだが、この教授が持ち寄ったアーノンクール指揮欧州管の評判は悪く、最初から落ちた。理由は各声部の方向性が揃っていなくててんでばらばらだったからだ。しかしそれを言い出すとそもそもアーノンクールの指揮者としての限界を定めることでしかなく、そもそもイ長調交響曲と何ら関係が無い話なのである。

二人目が持ってきたのはお気に入りではなく、伝統的演奏実践の例としての提示らしかったが、一楽章主部のヴィヴァーチェでのテムポの動きで皆おかしいと思う。決して伝統的な均整の取れた古典派像ではないだろう。これは細部が弾きこまれていないので仕方ないとされながらも最後まで一つ目と並んで残った。二楽章でもシューベルトのさまよい人や葬送行進曲風が上手に出たからである。教授がここで態々強調するのが二拍目のスラー効果であり、一体この人に習うアカデミーって思ってしまう。要するに二流の音楽学者の二流の指揮者でしかないだろう。二流のアカデミズムに二流の芸術趣味が宿っている。

そこで司会のロッテ・ターラー女史が出してきた録音が面白かった。明らかにフルトヴェングラーの歌い方を真似ているのだ。皆がppの抑え方の難しさについて語るそれで、結局二つ目と比べて本物臭くないので落とされたが、答えはアバド指揮ベルリンのフィルハーモニカーの演奏だった。勿論ラトルはそこまで弾かすことは無かったがということになったが、1990年代当時のあの楽団の状態を表す録音だった。アバドの弟子とされる教授は、この演奏はアーノンクールの指揮だと推測した ― アバドの弟子にはどうも真面な耳を持っているような人が居ないようだ。 

最終的には四楽章フィナーレでのメトロノーム72よりも遥かに速い一枚目が落とされて、二枚目のクレムペラー指揮のモノラル盤が残った。稔りの無い放送だった。キリル・ペトレンコ指揮イ長調交響曲がフルトヴェングラー指揮の価値を超えることなどは期待しないが、上の話しでは触れられていない、楽聖のその筆運びを体感したいのだ。つまり、音楽のアーティキュレーションなどを幾らアカデミックに触れても、その創作の湧き上がるリズムを刻んでというあの感じは演奏家が本当に新鮮な気持ちでムジチィーレンをしていくところでないと伝わらないものなのである。なるほど上の教授が正確に音化しようとする努力だけが耳につくというのは正しいのだが、それはしっかりとアインステュディールングをしてこそ演奏者から湧き上がってくるものなので、教授の言うような「心から出でで心へ帰らんとする」ことはとても技術的なことであることを語らなければ話しにならない。

二拍で区切ろうと四拍を一緒に歌ってその大きなフレージングの流れで和声的に辻褄を合わせようが、その回答は決して伝統的な演奏実践に解があるのではなくて、あくまでも考証的な楽譜への傾倒にしかない筈ではなかろうかと、改めて思い起こさせる放送だった。



参照:
van Beethoven: Sinfonie Nr. 7 (SWR2)
そろそろ詰めよう 2018-03-27 | 雑感
次はシェーンベルク 2018-03-28 | 文化一般
演奏会発券当日の様子 2018-03-07 | 雑感

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