ヒビリ克服法? | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

ご意見ご要望、御質問など、コメント大歓迎です。





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  ビギナーの頃は楽しく乗れていたのに、

指導者から馬の危険性についての例を嫌と言うほど聞かされたり、クラブに行く度に増えていく膨大な数の『注意事項』にがんじがらめにされていくちに、

いつの間にか馬に乗ることが怖くなって、騎乗中もずっと馬の耳の動きなどを見ながらビクビクしている、というような方も、結構多いのではないでしょうか。


  一度そうなってしまってから、そうなるきっかけを作った当の指導者から

「リラックスして」
「力を抜いて」

などと声をかけてもらったところで、
もはや元のニュートラルな状態にはなかなか戻れないものだろうと思います。



  剣術の世界の言葉で、「四病」というのがあります。
 
 四病とは、

「驚」
「懼」
「疑」
「惑」

すなわち、

何かにつけてビクビクと驚き、
むやみに恐れ、
あることないこと疑い、
どうやっていいのか迷う、

ということです。


 これらの「病い」によって、認識が歪み、意識のあり方自体が硬直すると、世界をありのままに捉え、真の姿を「観る」ことができなくなってしまう、ということで武術の世界ではこれらを戒めてきたわけです。

   現在多くの人々が患っているといわれる、うつ病などの精神疾患の代表的な症状にも、世界の見え方がそれまでとまるで変わってしまう「認知の歪み」というものがありますが、

  人間は、自分の主観を通じてしか世界を認識することができない以上、真に「ありのままに」世界を観るということは、永遠の、最も困難な課題だと言えるかもしれません。


  不安で緊張して動けなくなっているようなときに、 ただ「力を抜いて」「リラックスして」と言われて無理に力を抜こうとしても、自然な呼吸が1分間に何回か、自分で数えようとするのと同じで、なかなか上手くいかないものだろうと思います。


  



 国民栄誉賞を受賞した「ミスタープロ野球」長嶋茂雄氏は現役時代、

「どのようにしたら,そんなにヒットやホームランを打てるのですか?」
という質問を受け、

「うーん、見て、打つ。」

とバッティングの所作をまじえながら答えたといいます。

 メジャーリーグで10年連続200本安打を放ったイチロー選手も、大切なのは「力を抜いて打席に入ること」だと語ったといいます。
 
―見て、打つ。
―力を抜く。 

 この当たり前な言葉の中に、「四病」を克服するヒントが隠されているような気がします。


 彼らの言葉の省略部分を補えば、

 『いかに球種を見分け、どうやって打つかという思考や、打とう打とうという気勢、様々な雑念を払い、あるいはその「払う」ということさえも意識せずに、出来る限り自分自身を「脱力」させて、瞬間瞬間のボールに対して「自然に」反応することが肝要なのだ。』

 といったところでしょうか。
(かなり強引な解釈ですが。)


 対象をありのままに「観る」ということを、「私」をなくして対象になりきる、同化する、というように考えると、

長嶋氏やイチロー選手の言葉は、

東洋の宗教や思想における「無」とか、「無我」「梵我一如」といったような、

世界を認識している自我というフィルターを消し去り、宇宙と一体化することによって得られる万能感、静謐、というような境地にも通じるような気がします。


   まあ、そんな大袈裟なところまではいかなくとも、


  例えば、物見をするような馬でも、意識を騎手の扶助の方に向けさせ、エネルギーをハミに集約させるようにすることで高い障害も勇敢に通過できるように、


 ーあれこれ考えず、身体の感覚に意識を集中して、全身で馬の動きを『観る』こと、

ー思考で作った二次元的な動きではない、より「自然な」動きによって、馬の動きに一致した随伴ができるようになること


レッスンの中で、そういったことを楽しんでみることが、「四病」に陥いった状態から脱するためのきっかけとなり、

初心者の頃のように、純粋に乗馬を楽しむことが出来るようになってくるかもしれません。