歩法と歩幅 | 馬術稽古研究会

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従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

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  馬が走るとき、その速度が上がるにつれて、「常歩(ウォーク)」、「速歩(トロット)」、「駈歩(キャンター)」、「襲歩(ギャロップ)」というように、走り方が変わっていくことはご存知だと思います。

  このような歩法の変化は、脊椎動物の進化の過程における移動方法の進化とも似ています。



  例えば、水中を身体をくねらせるようにして泳いでいた魚の祖先の一部が、陸に上がり、地面に胸ビレと腹ビレを引っかけて前に進むようになったときの歩き方が、「常歩(ウォーク)」で、イモリなどの両生類の歩き方や、人間の赤ちゃんのハイハイも同じです。

   皆、常歩で進んでいくときには、同じように①左後肢、②左前肢、③右後肢、④右前肢、という順番で肢を運びます。


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  馬に乗って常歩で歩く時、左右に揺れるような感じがするのは、このときの背骨の動きが、魚が泳ぐ時と同じように、左右にスイングするような動きになっているからです。


  ですから、常歩で歩くときには、騎手も魚になったようなつもりで、背骨を左右にくねらせるようにしてやると良いかもしれません。




   それよりもう少し速い、「速歩(トロット)」は、陸に上がった両生類が、やがて爬虫類へと進化したとき、より速く移動するために獲得した歩法です。


  走る速度を上げるためには、ピッチ(回転数)をあげる、ストライドを伸ばす、ということが必要になりますが、常歩では常に一方の肢が着地しているために、肢の振り幅以上には歩幅を広げることが出来ません。

  そこで、肢の運びの中に跳躍を入れることでストライドを伸ばしたのが、速歩というわけです。

   速歩では、跳躍に伴って上記の常歩の②と③、④と①が同時になり、2節のリズムで、上下に弾むような揺れ方になります。




  さらに進化が進んで、もっと速度を上げるために哺乳類が獲得した走り方が、「駈歩(キャンター)」、そして「襲歩(ギャロップ)」です。


  駈歩(キャンター)は、一般的に、①左後肢、②左前肢と右後肢が同時、③右前肢というように肢を運んで、3節のリズムで走るとされています。(右手前の場合)

  ですが、速度の遅い駈歩では、よく見ると②の左後肢と右前肢の着地がわずかにズレて、左前肢の後に右後肢、という順番になっていたりします。

  こうなると、面白いことに肢の運び順が常歩と同じになり、4節のリズムで、揺れも独特な感じになります。
  

  それが速度が上がるにつれて、3節の駈歩になるのですが、更に加速して、後肢の着地後に前肢が着地するまでの間の歩幅が大きくなっていくと、今度は②の着地の順番が逆転して、右後肢、左前肢という順で着地するようになり、4節の襲歩(ギャロップ)へと移行します。

  駈歩(キャンター)はこのように、本来、速歩から襲歩の間の橋渡しをする歩法なのです。



・馬のストライド

  障害のレッスンなどで、馬の駈歩の歩幅は何メートル、などという話を聞いたことがあるのではないかと思いますが、4本足の馬の歩幅を、どうやって測るのでしょうか?


   一般的には、馬が片方の後肢が地面を蹴ってから、その足が再び着地するまでを、「一完歩」として、その蹄跡間の距離が馬のストライドとして考えられているようです。



  例えば、常歩の歩き方を①②③④という4節と考えると、①で着地した後肢が地面から離れてから、次にまた着地するまでが「一完歩」で、初めの①から次の①までの蹄跡間の距離が一完歩のストライド、ということになります。


  常歩では、後肢が着地した蹄跡の間の距離を2倍したものが、一完歩のストライドということになるのに対して、襲歩の場合では、最初に着地した左後肢の着地点からその次の右後肢の着地点までの、後肢間の歩幅に、そこから身体を伸ばして次に左前肢が着地する地点までの前後肢間の歩幅と、さらにその後に右前肢が着地する地点までの前肢間の歩幅、そして最後に、右前肢で踏み切った後、空中を大きく飛んで、再び左後肢が着地する地点までの距離(エアボーン歩幅)を全て合わせたものが、一完歩のストライド、ということになります。

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  ちなみに、三冠馬ディープインパクトが2005年の菊花賞の直線で見せたギャロップの一完歩はおよそ7.5m、エアボーン区間だけで、じつに2.6mも進んでいたそうです。


  歩法の進化によって、動物のストライドがいかに飛躍的に伸びたかということが、わかるのではないでしょうか。


 


・駈歩のストライドと、障害飛越


   障害飛越の競技などでは、飛越の踏み切りの位置をうまく合わせるために、コースの下見をしながら足で障害間の距離を測ったりして障害間の歩数をイメージしたりするわけですが、

   駈歩で走っている馬を思い浮かべると、何となく後肢の着地から前肢の着地するところまでを1歩としてイメージしてしまいます。

  ですが、駈歩には、前述したようなエアボーン区間があり、後肢が着地するところまでが1完歩ですから、そのストライドは馬の身体の長さから考えるイメージよりももう少し広くなります。

   実際には、ゆったりした駈歩ではエアボーンの距離もそれほど大きくなく、前肢の着地点付近に後肢が着地する感じになるので、あまり問題にならない場合が多いのですが、スピードが速くなったり、馬のバランスが前のめりだと、エアボーンは大きくなって、前肢の着地点よりもうんと前方に後肢が着地する感じになりますから、障害の直前で思っていたよりも詰まった感じになってしまう、というようなことになる可能性が高くなります。



   レッスンなどで障害に向かって助走する時、アプローチで馬の体勢を起こしておくことは、エアボーンがあまり大きくならないようにようにして、踏み切りのタイミングを合わせやすくなるためにも大切だと思います。


  踏み切りの3〜4歩手前から「1、2、3!」などと数えるときには、一完歩の初めと終わりのポイントである、「外方後肢の着地」に合わせると、タイミングのズレが少なくなるかもしれません。