「小手綱」の効用 | 馬術稽古研究会

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従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

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  通常の乗馬の馬具しかご覧になったことのない方には、おそらく馴染みがないものだと思いますが、
 
 馬車を輓く馬などに取り付けるハーネス(輓具)の中の一つで、

『小手綱(こたづな)』といわれるものがあります。

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小手綱は、「支頭手綱『しずたづな)」とも呼ばれ、
馬の背中にのせた「輓鞍(ばんあん)」に付いた金具(terret=小手綱掛)から、うなじ革の両サイドに吊られたリングを通って、ハミへと繋がるような構造になっています。

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英語では、

bearrig rein、あるいは、

checkrein というようにも呼ばれます。


  馬が頭を下げる(bearing)のを止め(check)、馬の頭を操作しやすい高さに保持するための手綱というわけです。



  金融の用語でも、「ブル」「ベア」などという表現がありますが、

ベア(bear)には、熊が首をうなだれているような形から、頭を下げる、相場が下降する、というような意味があるようです。
 (ちなみに、ブル(bull)は、牛が角を天に向けて頭を高く持ち上げている様子が基になっているようです。)


  馬車馬の頭絡には、片手でも操作がしやすいように、「リバプールビット」といわれるような、枝付きの作用の強いハミが用いられるのが一般的なのですが、

そのために、馬が顎を巻き込んで「潜って」しまうと、走行中に躓いたり、ブレーキが効かなくなったり、手綱が肢に絡まったりして、大変危険です。

そこで、いわば「安全装置」として、馬が一定の高さよりも頭を下げることが出来ないよう、小手綱を取り付けるわけです。

 
  欧米ではその歴史の中で、見た目の美しさのためにずいぶん酷い使われ方もされたということで、「虐待」のイメージが強いようですが、

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使い方にさえ気をつければ、乗馬の安全のために有効なのではないか、とも考えられます。


  例えば、乗馬クラブの練習馬でも、ネックストレッチや折り返し手綱、あるいはシャンボンやゴッグなどを使って馬の頭を下げさせるような運動をしているうちに、

馬が顎を巻き込んでのめって走るようになったり、首を低く前下方に伸ばしたまま走るような癖がついて困ってしまうことがあります。

馬が草を食むときのように、頭を下げて首を低く伸ばす姿勢自体は、精神的にリラックスして背中や首の筋肉を緩め、肩甲骨や股関節の可動域を増大させるような効果があるのですが、

それによってバランスが前のめりになってブレーキが効きにくくなったり、首を何度も力強く前下方に伸ばして手綱を振り解き、勝手にどこかへ行ってしまうようなことになると、初心者向けの練習馬としては使いづらい感じになってしまいます。

  そうした馬に、子どもや初心者の方を乗せなければならないような場合に、ここで紹介した「小手綱」のようなものを取りつけてあげるだけで、随分安心感が出るのではないか、と思うのです。




  競馬の「リップチェーン」と同じく、その使用には否定的な意見も少なくないのだろうとは思いますが、

こうした道具を使用することによって、馬が無事に仕事をこなすことが出来て、結果的に長く、安定して働けるようになれば、

それはそれで、人馬双方にとって幸せなことだと言えるのかもしれません。