未成熟の卵子を特殊な培養液に入れて受精できる段階まで育て、顕微授精させる技術は「体外成熟培養(IVM)」と呼ばれ、卵子が卵巣内で育ちにくい多のう胞性卵巣症候群などの患者を対象に多くのクリニックが実施している。しかし、卵巣内で成熟した卵子よりも受精率や妊娠率が低いといった課題が指摘されている。今回の研究では培養液などの異なる条件で複数の卵子を育て、受精率が高い方法を探る目的がある。
ヒトの受精卵は倫理的な問題から、研究目的に作ったり実験に使ったりすることは原則禁止されているが、政府の総合科学技術会議(当時)は2004年、生殖補助医療研究などに限っては容認した。これを受け、両省は10年、精子や卵子は無償提供▽作った受精卵をヒトや動物の子宮に戻さない▽受精卵は受精後14日以内に原則廃棄する--などとする倫理指針をまとめた。
31日から始まる審議会では、研究に協力するカップルのインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)や、クリニックの研究態勢が妥当かどうかについて検討する。
解説 生命の萌芽、倫理に課題
不妊治療クリニックで広く実施されている「IVM」は、自由診療のため1回当たり10万円程度の費用がかかる一方、妊娠率は通常の顕微授精より低いとされる。今回の研究によって、より効果的な培養手法が確立されれば、不妊に悩むカップルにとっては朗報になる。
しかし「生命の萌芽(ほうが)」とされる受精卵を、生殖目的ではなく研究目的で作ることは、倫理問題をはらむ。国の指針では受精後14日以内に受精卵を廃棄することが定められており、命の可能性を絶ってしまうことになる。研究に協力するカップルに納得してもらうためにも、丁寧なインフォームドコンセントは欠かせない。
ヒト受精卵を研究材料として扱うことが許されるのは、余った受精卵から再生医療に使う胚性幹細胞(ES細胞)を作る研究と、生殖補助医療研究の二つに限られている。前者は既に多くの研究機関で進められているが、後者の申請は今回が初のケース。国民の理解を得るためにも審査の透明性を図る必要があるが、31日の審議会は非公開で、情報公開の課題も抱える。生殖補助医療に詳しい北海道大の石井哲也教授(生命倫理)は「生命倫理の問題がありうる研究にもかかわらず、審議を非公開とするのは問題だ」と指摘する。【阿部周一、酒造唯】
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