がんになっても子どもを 男性不妊、取り組みのいま
治療の進歩で、クローズアップ
抗がん剤や放射線の影響で、精子をつくる機能が低下し、精子の数や運動率が減り、男性不妊になることがあります。「将来、子どもがほしい」と願う患者さんたちの希望に添えるよう、治療前の精子凍結に取り組んでいます。
がんの治療法が進歩し、若いがん患者さんの予後は飛躍的に改善しました。そうすると、次に考えなければいけないのは、社会復帰した後の人生です。「病気は治ったけれども、自分はもう赤ちゃんができないんだ」とか、人生でやりたいと思っていることを、がんになったことであきらめる。そういうことを可能な限り、少なくできたら、と考えています。
がん治療前の精子凍結は、日本では1990年代から始まりましたが、あまり注目されていませんでした。がんの治療法が進歩し、社会復帰する人が増えたことでクローズアップされてきた部分があると思います。
米国臨床腫瘍(しゅよう)学会(ASCO)は2006年と13年、がんの治療前に精子と卵子を凍結することについて、推奨する見解を示しました。日本でも昨年7月、日本癌治療学会が、がん患者が治療後に子どもを持つ可能性を残すための医療者向けのガイドラインを作成し、公表しています。
治療後に、妊娠したケースも
妊娠し、子どもがほしいと望むのは女性だけではありません。精子と卵子がなければ妊娠は成立しません。卵子凍結と同様に、精子凍結も重要です。
もちろん、結婚、妊娠、子どもを持つことは、あくまで個人の選択です。そういう人生を望まない場合もあるでしょう。ただし、望んだ場合にそういう選択肢がある、ということは知ってほしいと思います。
厚生労働省研究班の16年の調査では、日本全国で153施設が、こうした精子凍結の取り組みをしていました。1年間に精子凍結をした患者さんは675人。一方、治療後に使った人は120人でした。
もちろん、通常の不妊治療と一緒で、精子凍結しても必ず妊娠できるわけはありません。ですが妊娠、出産したケースは実際にあります。横浜市立大学付属市民総合医療センターでは、これまで凍結した精子を使った人は4人。このうち3人のパートナーが妊娠し、2人が出産に至りました。
市民総合医療センターでは、費用は1年目が1万5千円(検査診療費は別)で、2年目以降は1年ごとの更新で1万円ずつかかります。更新の際は、基本的に来院してもらうのですが、希望に応じて精液検査もします。精子の状態が改善していることが判明し、凍結していた精子を破棄し、自然妊娠をめざす人もいます。
医療者の連携が課題
拡大する治療前に精子凍結を希望する患者のための説明文書
こうした情報は、がんと診断された患者さんに十分に届いていないのが現状です。
「患者さんに精子凍結の説明をしているか?」と尋ねた、血液内科医に対するアンケート(16年、回答数90)があります。「患者全員にしている」は35と4割未満。「場合によってはしている」が53と6割近く。「全く説明しない」が2という結果でした。「場合によってはしている」というのは、逆に言えば「場合によってはしていない」ということです。
背景には、がんの治療医と生殖医療の医師との連携が十分ではない、という実情があると思います。がんの治療医にとっては、がんの治療が最優先ですが、精子凍結の重要性をもっと知ってもらう必要があると思います。
精子凍結は、治療後の人生設計であり、治療から復帰した先に、子どもを持つ可能性を残すという意味で、「患者さんの未来をつなぐもの」と言えます。目標ができることで、がんの治療にも前向きになる、というデータもあります。
がんと診断された場合、そのことで頭がいっぱいになり、将来のことなどその時は考えられないかもしれません。でも、精子凍結の選択肢があることは知識として知っておいてほしい。希望する場合は、遠慮せずに主治医に相談してほしいと思います。応えられるように、私も医療者同士の連携を深める努力をしていくつもりです。(聞き手・武田耕太)
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ゆむら・やすし 1967年生まれ、北海道赤平市出身。泌尿器科医。93年、横浜市立大学卒業。藤沢市民病院、横須賀共済病院、横浜市立市民病院などを経て2008年から横浜市立大学付属市民総合医療センター。14年から同センター生殖医療センター部長。
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