晴れ、ときどき映画三昧

「インサイダー」(99・米)80点


・ マイケル・マン監督渾身の社会派ドラマ。




「ラスト・オブ・モヒカン」(92)、「ヒート」(95)のマイケル・マン監督による実話をもとにした社会派ドラマ。米国タバコ産業における不正を報道したTVプロデューサー(アル・パチーノ)と大手タバコ研究開発担当(ラッセル・クロウ)の告発による葛藤を描いた。原作<「知りすぎた男」>はマリー・ブレナー。

CBS人気ドキュメンタリー番組「60ミニッツ」の熱血プロデューサー、バーグマン役のA・パチーノが信念のTVマンぶりで画面を終始圧倒する。冒頭、中東情勢が混沌とする中単身現地に乗り込んで、インタビューする様子で彼の人となりが窺える。

B&W社の研究開発担当だったワイガンド博士は良心と生活不安のハザマで苦悩する研究者。当時34歳だったR・クロウが悩んだ末告発に向かうまでを等身大で演じている。

マン監督はとことんリアリティに拘りドキュメンタリー手法で撮影しながら、ドラマとしての盛り上がりは忘れずにしっかり描いていて、157分の長さを忘れるほど。

これだけ堂々とメディアの裏側と企業の内部告発を絡めたドラマが実話がもとであるのは、あまりお目に掛からない。

TV局は会社を譲渡しようとしていて、B&W社の提訴により譲渡価格が下がることを恐れワイガントのインタビュー収録部分をカットして放送してしまう。

機密保持契約で縛られながら信念と良心に苛まれ情報提供したワイガントを守るため東奔西走するバーグマン。権力に屈しない熱血漢ぶりがA・パチーノにはピッタリなはまり役だ。

人気キャスターマイク・ウォレス役には本人かと見違えるほどイメージそっくりなクリストファー・プラマーが扮し、会社としてのTV局の立場とキャスターとして本来の役割を果たすのか微妙な立ち位置を好演。
ドン・ヒューイット役のフィリップ・ベイカー・ホールとともに本物感を醸し出している。

雑誌社に番組編集の信実を伝え世論を味方にすることでインタビューは放送されるが、そのための犠牲はバーグマンが負う破目に。その潔さは巨大な悪に向かう正義の漢だ。

大向こうは拍手喝采だが、バーグマンもワイガントも多大な傷を負ってしまった。しかしタバコに発がん性物質があるという事実は揺るぎのないものだ。

いまこんなストレートな映画は滅多にお目に掛からないほど貴重な作品だ。オスカー無冠に終わったが映画史に残る作品といって良い。

コメント一覧

オーウェン
この映画「インサイダー」は、自分を信じ自分を貫こうとする男の美学をクールに熱く語る、マイケル・マン監督の社会派ドラマの傑作だと思います。

「ヒート」、「コラテラル」のマイケル・マン監督が放つ、男同士の死闘をクールに描いた骨太の社会派ドラマですね。

静けさの中にもほとばしる熱気、マイケル・マン監督の抑制された演出が、男達の生きざまを輝かせます。
自分を信じ、自分を貫こうとする男の美学が、我々観る者の心を激しく揺さぶります。

アメリカのCBSの人気報道番組「60ミニッツ」の舞台裏で実際に起きた事件を描いた、実録社会派ドラマで、「60ミニッツ」の敏腕プロデューサー、ローウェル・バーグマン(アル・パチーノ)とタバコ会社の不正を内部告発した、ジェフリー・ワイガンド(ラッセル・クロウ)という二人の実在する男達の熱い戦いを実録タッチで描いています。

2時間38分と長い上映時間ですが、マイケル・マン監督の工夫を凝らした演出が、ピリピリするような緊張感を持続させてくれます。

まず、実話に基づいている事もあって、手持ち撮影によるドキュメンタリー・タッチが実に効果を上げていると思います。

更に、クローズ・アップやスローモーションで画面にメリハリをつけ、バーグマンのジャーナリストとしての信念と、ワイガンドの迷える複雑な心情を鮮やかに映し出していると思います。

このワイガンドが内部告発をする段になって、様々な圧力がかかり、身の危険や家族崩壊の危機にさらされる事になります。
凄まじいまでの葛藤と戦い、ワイガンドは強固な正義心を貫こうとします。

現実問題として、このような過酷な試練にさらされた時、人間は理想というものを貫き通せるものであろうか?

人間は本来は、もっともっと弱いはずだし、このワイガンドの勇気を我々は現実のものとして、受け止められるであろうか?----と、自問自答せざるを得ません。

様々な脅迫に耐えられず、夫から離れていったワイガンドの妻は、現実的な人間らしさを象徴するキャラクターでもあります。

ただ、残念ながら、この女性は丁寧に描かれていたとは言い難く、このドラマの枠外へと追いやられてしまっています。

こう考えてくると、結局のところ、ワイガンドの正義心を前へと突き動かしているのは、"男と男の信頼関係"だったのだと思います。

バーグマンの信念、それは、自分の情報源になってくれる人間を守ってやる事。
これがジャーナリストの鉄則だと信じているのです。

CBSがタバコ会社の圧力に負けて放送が中止になれば、新聞社へ情報を流し、あらゆる手段を使ってでも、この内部告発を世間に伝えようとするのです。

ワイガンドの勇気に報いるために、バーグマンもまた、組織の中での自分の立場を顧みる事などしないのです。

この二人の男の稀有な勇気と信頼が、長く険しい道のりの果て、真実の公開へとたどり着かせるのです。

我々が日頃、享受している「言論の自由」や「報道の自由」は、これら多くの犠牲や努力の上に成り立っているのだと、あらためて痛感させられます。

バーグマンとワイガンドが命を懸けて示してくれた大きな理想。
これは、紛れもなく、れっきとした事実なのです。

なお、この映画は1999年度のLA批評家協会の最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(ラッセル・クロウ)、最優秀助演男優賞(クリストファー・プラマー)、最優秀撮影賞を受賞し、また、同年の全米批評家協会の最優秀主演男優賞(ラッセル・クロウ)、最優秀助演男優賞(クリストファー・プラマー)を受賞しています。
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