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「パターソン」ありふれた日常から紡ぎだされる一編の詩 2016年制作 劇場公開2017年8月

2018-03-16 15:49:49 | 映画

            
 月曜日から日曜日までニュージャージー州パサイク郡パターソン市の路線バスの運転手パターソンの日常を詩をちりばめた映像で描く。

 パターソン(アダム・ドライヴァー)と妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)とブルドックのマーヴィンが住む一家がある。パターソンは詩作が趣味、ローラはケーキ作りとデザインが趣味、マーヴィンは従順な犬のふりをして曲者。

 寝室にはパターソンの海兵隊正装姿の写真と両親の写真が飾ってある。パターソンは毎朝6時過ぎに目を覚まして、ローラの頬や額や腕にキスをして、椅子に畳んで置いた衣服を持って部屋を出る。キッチンの椅子に座って牛乳に浸したシリアル食品を食べる。別の椅子にはマーヴィンがすやすやと眠っている。

 弁当を持ってバスの車庫へ歩いていく。歩きながら頭の中で詩作する。バスの運転席で頭の中の詩をノート・ブックに書く。
“愛の詩”
「我が家にはたくさんのマッチがある 
 常に手元に置いている
 目下、お気に入りの銘柄はオハイオ印のブルーチップ
 でも、以前はダイヤモンド印だった」

 書いているとバス車庫長ドニー(リズワン・マンジ)がやってきて「調子はどうだい」と声をかけてくる。それが合図のようにパターソンはエンジンをかける。バスは1940年代有名お笑いコンビ、アボットとコステロのうち“ルー・コステロ記念館”をかすめ、荒れた歩道、雑草に覆われた空き地、サッカーやバスケット・ボールをする少年たちを横目に走っていく。

 白人と黒人が約30%ずつを占めるこの町で乗客もそれを反映している。いつもと同じ風景。昼食は落差23メートルのグレートフォールズを見渡せるベンチで摂る。同時に詩作のひと時を楽しむ。帰宅した時、郵便ポストを確かめる。そこで気がつくのはポストが傾いていることだ。まっすぐに戻して家に入る。ローラの魅力的な声が歓迎する。食後はマーヴィンの散歩。いつも立ち寄るのはドク(バリー・シャバカ・ヘンリー)のバー。これがパターソンの日課。疲れが出るのか徐々に起きる時間が僅かながら遅くなる。それ以外は変わることのない一週間の筈が……

 ちょっとした変化があるものの平々凡々な日常は、多くの人とさして変わらない。単調な映画と思われるが、なんと飽きがこない。演出の冴えと詩の効果かもしれない。

 パターソンが帰路、一人の少女に出会う。彼女は詩を書いていてそれを読んでくれた。
“水が落ちる”
「水が落ちる 
 明るい宙(エア)から 
 長い髪のように 
 少女の肩にかかりながら 
 水が落ちる 
 アスファルトの水たまりは、汚れた鏡 
 雲やビルディングを映す 
 水は私の家にも 
 私の母にも 
 私の髪にも落ちる 人はそれを雨と呼ぶ」

 映画の中でいくつかの詩があるが、この詩が一番好きだ。

 パターソンは、“光”
 「君より早く目が覚めると 
  君は僕の方を向いていて顔は枕の上 
  髪は広がっている 
  僕は勇敢に君の顔を見つめ愛の力に驚く 
  君が目を開けないかとか 
  脅えないかと恐れながら 
  でも、日光が去ったら君も分かるだろう 
  どんなに僕の頭や胸が破裂しそうか 
  彼らの青は囚われたままだ 
  まるで日の光を見られるのかと恐れる胎児のように 
  開口部がぼんやりと光る 
  雨に濡れた青灰色に 
  僕は靴紐を結び階下に下りてコーヒーを淹れる」

 これらの詩作は、ニューヨーク派の詩人ロン・パジェットによるもので制作に参加している。パターソンとローラの雰囲気は、O・ヘンリーの短編「賢者の贈り物」を連想してしまった。そして曲者のブルドックのマーヴィン。こいつがパターソンが帰る前にドアを開けて出てきて、前足でポストを傾ける。一種のお遊びなんだろうが、もっと深刻な悪さをする。それは映画を観てのお楽しみとしよう。
  
監督
ジム・ジャームッシュ1953年1月オハイオ州アクロン生まれ。


ロン・パジェット1942年オクラホマ生まれ。1960年からニューヨークに住む。

キャスト
アダム・ドライヴァー1983年11月カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。
ゴルシフテ・ファラハニ1983年7月テヘラン生まれ。
リズワン・マンジ1974年10月カナダ生まれ。
バリー・シャバカ・ヘンリー1954年9月ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれ。

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