シルヴァン・カンブルラン イザベル・ファウスト(ヴァイオリン) 読響 | ベイのコンサート日記

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シルヴァン・カンブルラン イザベル・ファウスト(ヴァイオリン) 読響(119日、サントリーホール)

ブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾いたイザベル・ファウストは、いつもながら安定したヴァイオリン。清新で流麗。絹の感触。太くはないが、ピンと張った芯のしっかりとした音で、のびやかに美しく歌う。重音の濁りもない。カンブルラン読響も見通しの良い明るい響きと細やかなバックで、ファウストとの一体感をつくりあげた。
 第1楽章のカデンツァは、ティンパニをはじめオーケストラのアシストが入るブゾーニ作曲の珍しいもの。ファウストはハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラとの録音でも採用している。第2楽章は読響首席オーボエ蠣崎耕三が潤いのある美しいソロを聴かせた。

 

 ファウストのアンコールは、クルターク「サイン、ゲームとメッセージ」からドロローソ。ルーマニア生まれのハンガリー人、クルターク・ジェルジュ(1926-)は切り詰めたシンプルな作風が特徴。ファウストのヴァイオリンはフラジオレットの弱音をグラスハーモニカのように響かせ、場内は水を打ったように静まり返った。

 

 後半は、J.S.バッハ(マーラー編)管弦楽組曲から第2,3,4曲。第2曲ロンドとバディネリのバディネリでは、首席フルート、フリスト・ドブリノヴが落ち着いた品のある音を奏でた。第3曲アリアが美しい。編成は8-8-6-4-3の弦に、Fl,Ob2,Tp3,ティンパニ、チエンバロ。

 

 ベートーヴェン交響曲第5番は、カンブルランらしい明るく開放感がある響き。弾力性のある活気に満ちた演奏だった。「闘争から輝かしい勝利へ」のテーマにふさわしい。第4楽章第1主題のあとの推移、練習番号A28-29小節の金管のスラーにふくらみを与える解釈はユニーク。

 今日の読響にはティンパニに新日本フィルの近藤高顯がゲストで入っていたが、読響の音が微妙に柔らかみを増したように感じられたのは興味深い。
写真:シルヴァン・カンブルラン(c)読響