『シン・ゴジラ』なぜ大ヒット 政治家もうならせるリアリティー
2016.09.14なぜ映画『シン・ゴジラ』が大ヒットしているのか。そこには、単なる怪獣映画ではなく、「想定外の危機」に対する政府の対応をリアルに描写し、国としての危機管理のあり方を問いかけていることが理由の一つに挙げられている。政治家や有識者までもが機敏に反応する『シン・ゴジラ』が問いかけているものとは-。
《映画『シン・ゴジラ』》
7月29日に公開された、日本で12年ぶりに公開される「ゴジラ」の新作。ヒットアニメ『エヴァンゲリオン』の庵野秀明氏が脚本・総監督を務める。
映画『シン・ゴジラ』が大ヒット
公開1カ月360万人、興収53億円…邦画実写トップ
庵野秀明が総監督・脚本を務めた映画『シン・ゴジラ』が、7月29日から8月28日までの公開1か月で累計動員360万人、累計興行収入53億円を突破した。これにより本作は、2016年公開の邦画実写映画1位を獲得。庵野総監督が2011年に発表した『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の最終興収(53億円)をも抜き去った。
動員500万人も視野…ゴジラ史上の残る記録に
9月11日時点での推測で、興行収入75億円超えが視野に入ってきているという。75億円を突破すれば、動員500万人という線が見えてくる。これまで、500万人を上回ったゴジラ映画は、1950年代から1960年代全盛期の6本しかない。『シン・ゴジラ』は、この意味からも歴史的なゴジラ映画に名を連ねる公算が高くなってきた。
夏の映画興行、『シン・ゴジラ』が本命『ファインディング・ドリー』を抑えて興収トップへ〔2016年9月12日 ORICONSTYLE〕
リアルな「災害シミュレーション」
自衛隊、官僚、政治家…入念な取材に基づいて描写
国内製作は12年ぶりとなる同作品では、東京にゴジラが上陸する事態に、政治家や官僚、自衛官らが懸命に対応する姿が描かれる。緊急災害対策本部の設置、初の防衛出動、無制限の武器使用許可…。入念な取材に基づくリアリティーに満ちた展開が最大の特徴だ。
防衛省も協力、自衛隊用語の言い回しもそっくり
“ニッポン対ゴジラ”と銘打たれ、現在の日本に巨大な生物が出現したらどうなるかを描いた、リアルシミュレーション映画としての側面を持っている。庵野秀明総監督は、撮影に先立ち防衛省に協力を要請。兵器の運用から自衛隊員たちが実際に使う用語の言いまわしまで、徹底したリサーチを行ったという。
東日本大震災の記憶や核問題などを意識
着ぐるみではなく、フルCGでゴジラが描かれた点も新しい。「災害と日本人」をテーマに、東日本大震災の記憶や核問題などを意識したリアリティーあふれる重厚な作品となった。
経産省幹部「想定を上回る事態が起こったとき…問われた気がした」
産経新聞の高木克聡記者は、「福島の復興を最優先課題の1つと掲げている経産省にとって『シン・ゴジラ』が投げかけるメッセージは重く響いたようだ」と指摘。ある幹部は「細かい点は抜きにしてよくできた映画。想定を上回る事態が起こったとき、どう復興するのか、常に意識をめぐらせているのかと問われた気がした」と絶賛、復興政策をシミュレートしたという。
大学教授「今の日本の状況とあまりにも重なるところが多い」
政治思想史が専門でゴジラに関するエッセイを書いたこともある片山杜秀・慶応義塾大学教授は、「今の日本の状況とあまりにも重なるところが多い」とし、「危機的なときに民主的手続きをやっていたら間に合わないというメッセージがある」 と語っている。
専門家「危機管理の混乱の中でこそ光る“絶望的”な日本人の美学」
ガバナンスアーキテクト機構研究員の部谷直亮氏は、「『シン・ゴジラ』には、危機管理の混乱の中でこそ光る『“絶望的”な日本人の美学』(一心不乱にろくな食事も睡眠もとらずに働くことこそが美しいという日本人ならではの労働観)が描かれている」と、指摘している。
シン・ゴジラが示す日本の防衛体制の絶望と希望 日本に必要なのは合理的な危機管理の運用〔2016年9月7日 JBPRESS〕
ロケ地・防災公園には見学者も
映画の舞台となった、有明の東京臨海広域防災公園のオペレーションルームに、連日多くの見学者が訪れているという。オペレーションルームとは緊急災害現地対策本部が設置されるところで、防災体験学習施設「そなエリア東京」2階の窓から見学することができる。
シン・ゴジラのロケ地、有明の「あの部屋」に見学者続々...コミケ効果もあって異例人出〔2016年8月18日 Jタウンネット〕