徒然草紙

読書が大好きな行政書士の思索の日々

国盗り物語

2017-11-13 09:47:26 | 読書
 司馬遼太郎の『国盗り物語』を約30年ぶりに読み返しました。戦国歴史小説の古典といってよい作品ですが、いまだに古びた感じを受けません。特に明智光秀の謀反に至る心理描写など、近代知識人の葛藤をみるようで、一級の文学作品を読んでいるような気持ちになります。
 
 『国盗り物語』は、斉藤道三に始まる国盗りが、彼の弟子である織田信長、明智光秀にどのように受け継がれていったのかを描いた小説です。武略については、信長、光秀ともに遜色のないほどに道三のそれを受け継いでいますが、戦国の代における二人の立ち位置は正反対です。既存の体制を認めずに自らの思う通りに時代を作り上げていく才能を発揮させる信長に対して、光秀はあくまでも旧体制の枠組みのなかで物事を考え、そこから離れることができません。しかし、時代は信長によって新たな段階に到達しつつあり、そのことに対して光秀は理詰めで自分を納得させていかなければなりません。心から納得して行動している訳ではないのですから、心の中に深刻な葛藤を抱え込むこととなります。その結果として、光秀は暴発に等しい謀反に追い込まれていきます。その過程が、近代の知識人の葛藤を描いた文学作品のようだ、と、私は思うのです。
 
 個人的には、斉藤道三や織田信長よりも、明智光秀にシンパシーを覚えますね。エリートの弱さというものを根底に持っていた人物なのでしょうが、その点が人間らしくていいです。信長ほどの危機突破の能力はないですが、一緒にいて安心できると思います。常に神経を張り詰めていなければならない信長のそばでは、こちらの神経がまいってしまいそうですから。

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