―もういないあの人と、回転木馬のように廻るのは見知らぬ私。





***



外は銀色世界
きっと皆家に籠って
大切な人と最初で最後の
時間を育む


朦朧と 暖炉の火を見る
頭の中で煙となって
記憶が呼び覚まされてゆく


Sound of bell,Sound of bell
鳴らすのは誰?
雪道にはステッキの跡と黒い影
ドアを開けてしまったら 私
どこかへ行ってしまう気がする


教会から讃美歌が流れ
遠いところで子守歌
きっと大切な人の腕に抱かれ
あの時を懐かしむ


Sound of bell,Sound of bell
懐かしい音色
ずっと怖がっていた暗闇は
人生で最初のあたたかさ
貴方に出逢ってしまったらいけない


恋をしていいですか
それが許されない
罪だとしても


The sound of bell is near
聖夜は人生で
夢が叶う最初の日
さあ胸の中へ飛び込んで
幸せになるのは今しかないから



***



もう残す物などないと
すべて捨てた部屋に
水晶で作られた匣 ひとつ


暖炉のある部屋に
開けた扉からの冷気が
煙草の煙のように
記憶を連れて来る


こんな季節なんて
ただ寒いだけ
でも揺れる蝋燭の灯が落とす影が
あたたかくて 恋しい


絨毯の上
水晶が転がる


もういないあの人と
回転木馬のように
廻るのは 見知らぬ私


夕陽色の燈と倒に降る雪
それは 幼子に劣らぬ郷愁
白昼夢の優しさで


海の中で息を止めるように
その世界に陶酔する
此処から離れた今ほど
尊いものはないから


絨毯の上
水晶が罅入る


音もなく舞い
積もる雪の恐ろしさに
身を震わせるも
その広大さに
最早抱かれたくなる


急速に空を駆ける 雲は
私を責め立てるように
心に風穴を開けてゆくわ


絨毯の上
水晶が散らばる



***



紫煙で煙たい部屋 窓を開ける人
どこかで見た気がするわ
つんとするにおいも 好まないけど
いつもどこかで求めている


灰色だけの無機質な街
くらくらするほど眩しい
黒く長い裾 靡かせて歩く人
その重たい影に
懐かしく思う誰かがいる


蝋燭が灯る部屋 手を伸ばしても
やっと触れられる程度ね
身を寄せ合っても 体ばかりが
心追いつかず熱されてゆく


白く塗り潰された街
閉じ込められたように
涙の如く 垂らす鮮血の
その点と線を
繋いでくれる人が必ずいる


愚かなる群衆の街
憎悪と贖罪が渦巻いて
それでも強く 美しく生きる女(ひと)
そのドレスの裾は
真実(ほんとう)の豊かさを知っている



***



私たちが
前の頁に戻りて
見る時代も 人々も
そは遠からぬ今


いつか今の時代も
来たるゆくすゑの
記憶の箱に綴じられて
来し方になりゆく


時が流れゆくものならば
などこの想ひを 何処に居れども
時じくに 覚ゆらむ


もしかせばこの世界が
ただ一つならぬかもしれぬ


かの扉を開かば
あなたが腕を広げて
私を待っているかもしれぬに


などこの今は一つ


いつの時代も
昨日は甘く 明日は畏し
眼前のこの風景が
魔物のごとく見えたりき
さだめてあなたも


ただ一つ
私が此処なるが
あなたの希望にならなむ
そう願ひて本を閉じる


されど今でもあなたは
何処にもあらざりて
眩しすぐるきはに甘し
極彩色の思ひ出



***



私は、あの暗闇の中で煌めく、灯りが大好きなの。

まるで、腕に抱かれているような、

あの温もりが……___。

でも、ずっと寒いままね。










***


ごきげんよう、皆様。黒薔薇です。
2018年最初の詩はいかがだったでしょうか。

今回は新旧混ぜた詩集ですので、2018年初となるのは「水晶匣」「時代」ですね。



本当にどちらも最高の詩だと思います。
特に「水晶匣」は、

それは 幼子に劣らぬ郷愁

絨毯の上
水晶が散らばる


の部分を一発で書いた(修正がない)ほどですからね。

この部分は「水晶匣」という詩としてだけでなく、『Snow globe』としての意味も込められているので、大好きなんです。

ちなみに、水晶匣の一文をキャッチコピーにしました。予告無しですみません!



と語っておりますが、処女作品である「聖夜」を最後に置かずにはいられませんでした。
処女作品であり、最も短い詩でありながら、心に深く突き刺さるんですよね。



もう一つの新作「時代」は、古文仕様にしてみました。
最初に現代語で土台を作り、その後調べたりして古文に直しました。

古文と言っても、部分的に現代語のまましているものもあります。
これはまあ、読みやすさであったり、雰囲気を壊さないためですね。

オール古文よりは読みやすいんじゃないかしら、って思ったり。


現代語版は公開はしていませんが、違う形での公開を考えております!





この詩集は黒薔薇卿の本棚・旧館詩集の項目に置いておきます。
ホームページのほうは、まだ過去作が掲載しきれていないので旧館からご覧くださいね。



それでは、冬の特別詩集『Snow globe』を読んでくださってありがとうございました!





Ⅳ「時代」の古文変換にあたり、下記のサイトを参考にさせていただきました。ありがとうございます。
現代語を古文にする3
古文辞書-Weblio古語辞典










*本日の詩*


夢現遊園地~Silver's wonder randから「古書街道0番街」