『トランプ大統領に沁みついたバノン色は消えず 3将軍による「ラスプーチン退治」は成功したように見えるが…』(8/29日経ビジネスオンライン 高濱賛)、『トランプの「鈍感力」は米国社会を分断し世界を混乱させる』(8/29ダイヤモンドオンライン 真壁昭夫)について

8/25ZAKZAK高橋洋一氏記事<やはり娘に逆らえなかったトランプ氏、政権“辞任ドミノ”の日本への影響は?>

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170825/soc1708250002-n1.html

8/27宮崎正弘氏メルマガ<トランプ政権、高官人事が進まないのは何故か?行政に支障がでても、構わないという態度の根本的理由>

http://melma.com/backnumber_45206_6574644/#calendar

8/24NHKニュースクリントン氏 来月出版の回顧録 トランプ大統領を「不快」

アメリカのクリントン元国務長官は、来月出版される大統領選挙の回顧録で、討論会でのトランプ大統領について「不快で身の毛がよだった」と振り返りました。

去年のアメリカ大統領選挙をめぐっては、共和党の候補者だったトランプ大統領に敗れた、民主党のクリントン元国務長官が書いた回顧録が、来月12日に出版されます。

アメリカのメディアが23日に伝えた回顧録の抜粋によりますと、クリントン氏は去年10月、トランプ氏がかつて「有名人になれば、女性は何でもしてくれる」などと、女性を見下すような発言をしていたことが報じられ、批判が高まっていた中で開催された討論会について、「小さなステージで私がどこに行ってもトランプ氏がぴったりとつきまとい、凝視してきて不快だった。首に息がかかり身の毛がよだった」と振り返りました。

そしてトランプ氏に対し、その場で「気味が悪い。私から離れなさい」と言うべきだったかどうか自問しているとして、後悔の念ものぞかせました。また、クリントン氏は、選挙で敗北したことについて「屈辱的だった。多くの人が私に期待してくれたががっかりさせてしまった。そのことを背負って残りの人生を生きなければならない」と記しています。

このほか、回顧録ではロシアが選挙に干渉したとされる疑惑などについても、言及していると見られています。>

トランプも敵が多くて大変です。偏向メデイアを相手する訳ですから、強力な力で撥ね返さないとやられてしまいます。米国は行き過ぎたPC(ポリテイカル・コレクトネス)のせいで社会がおかしくなってきています。それに歯止めをかけ、強いアメリカを取り戻そうというのがトランプです。

北との関係がきな臭くなっている今、ヒラリーでなくて本当に良かったと思っています。ヒラリー民主党であれば、裏で中国と手を握り、北を核保有国と認めた上で、平和条約を結んだかもしれません。日本にとっては近隣国にもう一つ核保有国ができるという悪夢が実現することになります。勿論、トランプも交渉の行方次第でどういう展開になっていくかは読めませんが。ただトランプの支持層は軍人と警察です。軍事行動を起こす時には、3将軍が上に居てスムースに動かせるのでは。ハリス太平洋軍司令官も中国に嫌われているくらいですから、非常に頼りになる軍人という事です。

バノンの辞任は仕方のないことでしょう。政権内部に余りに敵を作りすぎました。ただ、彼が考えている「北朝鮮は前座、本命は中国」の見方は正しいです。これが、政権内部で共有されてほしい。クシュナーが9月に訪中するときに、合法的な金の絡むプレゼントを貰わないようにしないと。ロシア問題で、上院にて非公開証言させられたりしているので、慎重に行動するとは思いますが。ただ、相手は中国ですから。いろいろと仕掛けて来るでしょう。

日経ビジネスオンライン記事

トランプ大統領を支えていた2人は袂を分かった。ホワイトハウスを去ったスティーブン・バノン氏(左)とトランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏(右) (写真:AP/アフロ)

—「ホワイトハウスのラスプーチン」と呼ばれていた保守強硬派のスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問がついにホワイトハウスを去りました。あれから2週間、ウエストウィング(大統領行政府)の空気は変わりましたか。

高濱:トランプ政権が発足して以降ずっと続いていたホワイトハウスの内紛は、バノン氏が去ったことで一応収まりました。しかしこれでトランプ大統領とバノン氏との絆が完全切れたかというと、そうとは言えません。

トランプ大統領にとってバノン氏は「アルタエゴ」(分身)であり、トランピズムの振付師でした。大統領補佐官(国家安全保障担当)を代えても、大統領首席補佐官を代えても、相手代われど、バノン氏との確執がつねに続いてきました。トランプ大統領としては、バノン氏を傍に置いておきたいのはやまやまでしたが、内紛を解消するため「泣いて馬謖を切る」といった感じです。

—バノン氏自身は「1年間の契約が切れたので辞めた」と発言しています。強がりにも聞こえますが、実のところはどうなのですか。

高濱:辞めたバノン氏は「われわれ(つまりトランプと自分)の闘いは終わった。勝ち取ったトランプ政権は終わった」と言っています。なんとなく意味深な発言ですね。

そのココロを、大統領選挙中からトランプ氏をフォローしてきた米テレビ局の記者が筆者にこう解説しています。「バノンが言いたかったのは、こういうことですよ。『俺とトランプとは、反エスタブリッシュメントを錦の御旗に苦しい選挙戦を勝ち抜き、政権を打ち建てた。ところが外様が次々に入ってきて、当時目指した理想の政権は様変わりしてしまった』」

トランプ大統領自身、バノン氏にこう感謝の辞を述べています。「バノン君は、不正直なヒラリー・クリントン(民主党大統領候補)と私が闘っている真っただ中でわが陣営に参加してくれた。有難かった」

ヒラリー優勢の状況において、戦略を立て、実施に移し、形勢を逆転させたのは軍師であるバノン氏でした。バノン氏はいわば、豊臣秀吉の軍師・黒田官兵衛です。

トランプ氏が大統領に就任した後、バノン氏は首席戦略官・上級顧問としてトランプ大統領がやりたかった環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、地球温暖化防止の「パリ協定」脱退などを実現させました。しかし、その強烈な個性と妥協を許さぬ「野蛮人バノン」(Barbarian Bannonとホワイトハウス内では呼ばれた)は他の側近と衝突し続けました。

バノン氏を「解任」するようトランプ大統領に助言したのはジョン・ケリー大統領首席補佐官です。ケリー首席補佐官がホワイトハウス入りしたことでバノン氏も少しはおとなしくなるかと思いきや、内紛は収まらず。

側近の間のいがみ合い、対立を解消するには、どうしてもバノン氏に辞めてもらうしかないというケリー補佐官に加勢したのは、ジャレッド・クシュナー氏とH・R・マクマスター氏でした。クシュナー氏はトランプ大統領の娘婿。マクマスター氏は大統領補佐官(国家安全保障担当)です。いずれも、以前からバノン氏と対立していました。

特に、穏健派とされるクシュナー氏とバノン氏は、イスラム圏6カ国からの渡航者の米入国一時禁止やメキシコ国境への壁建設で激しく対立してきました。一方、マクマスター氏とバノン氏はアフガニスタン増派をめぐって真っ向から対立しました。政策上の対立以上にどちらがトランプ大統領に影響力を与えるか、その確執の方が大きかったかもしれません。

バノン氏は辞めた直後、クシュナー氏らを「ホワイトハウスに住み着く民主党系グローバリスト」とまで言って悪意をむき出しにしました。

アフガンへの関与継続では将軍たちの主張が通る

—バノン氏が去ったあと、実際の政策に変化が出てきましたか。

高濱:顕著な変化は外交面で出始めています。

一つはジョージ・W・ブッシュ政権時代から続く「米史上最長の戦争」――アフガニスタン――への関与継続を認めたことです。具体的には4000人規模の部隊を増員します。これで、駐留する部隊の規模は8400人に引き上げられました。

トランプ大統領は選挙中から、オバマ政権がアフガニスタンに関与し続けるのを激しく批判してきました。そして即時完全撤収を公約に掲げた。その基本にあるのは「米国第一主義」です。「外国のために米兵を送り、血を流すのはもうまっぴらだ」。バノン氏の助言でした。

トランプ大統領がこれを覆して増派を決めたのは、3人の将軍から強い進言があったからでした。アフガニスタンを管轄する中央軍司令官を務めたジェームズ・マティス国防長官、H・R・マクマスター補佐官、それにジョン・ケリー首席補佐官はこう大統領に訴えました。「今、撤退すれば、テロリストに再び安住の地を与える。撤退する前提としてテロリストを徹底的に根絶する必要がある

ケリー補佐官の長男は海兵隊に志願入隊し、アフガニスタンで戦死しています。愛する息子を失った補佐官の発言には重みがありました。 (”With Steve Bannon out of the White House the military is now firmly in charge of Afghan policy,” Kim Sengupta, The Independent, 8/22/2017)

金正恩に「オリーブの枝」を振って見せたトランプ

今一つは北朝鮮に対する対応です。北朝鮮の核・ミサイル問題でトランプ政権は経済制裁を通じた締め付けを強化する一方で、北朝鮮の対応をある程度評価する姿勢を見せました。

トランプ大統領は8月22日、金正恩朝鮮労働党委員長が弾道ミサイルの新たな発射計画について「米国の行動をもう少し見守る」と言い出したことを受けて、「金正恩はわれわれに敬意を払い始めた」とコメントしたのです。今まで「目には目を、歯には歯を」的発言を繰り返してきたトランプ大統領の変身だけにみな「なにか水面下で動いているのか」と勘繰りました。

北朝鮮に対話を促すような発言をするようトランプ大統領を説得したのも前述の3将軍とレックス・ティラーソン国務長官だったとされています。ティラーソン国務長官はおそらく、「強硬発言ばかりではなく、たまにはオリーブの枝でも振ってみたらいかがでしょうか、大統領閣下」とトランプ大統領に助言したのでしょう。

北朝鮮は「先軍節」の翌日の8月25日、短距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射しました。グアム沖に発射すると言っていた計画は現時点では控えています。「通常の軍事演習」(韓国政府高官)と米韓は見ているようです。北朝鮮に対しても強硬なバノン氏がホワイトハウスを去って4日後のことでした。バノン氏は「それ見たことか」をうそぶいているかどうか。

バノン氏はもともと中国嫌いです。中国の海洋進出を阻止するには軍事衝突も辞さぬと公言してきました。ですから、北朝鮮に自制をうながすべく中国に「おもねる」ことに猛反発していました。

ホワイトハウス中枢にまだ「バノンのブレーン」

—トランプ大統領に対するバノン氏の影響力は完全に消滅したのでしょうか。

高濱:米英メディアは総じて、「バノン氏の影響力は何らかの形で続くだろう」といったニュアンスで報じています。

その理由について、英高級誌「エコノミスト」が極めて明快に指摘しています。米政治の節目で、米メディアよりも岡目八目的、冷静沈着に報道するのは英メディアです。中でもエコノミストは米インテリ層に一定の影響力を持っています。

バノン氏が、辞めた直後に単独インタビューに応じたのは、保守系知識層向けの「イブニング・スタンダード」とエコノミストだけでした。特にバノン氏はエコノミストの記者を私邸に招いて長時間のインタビューに応じています。 (”The future of Bannonism,” The Economist, 8/25/2017)

エコノミストは「バノンは去っても『バノニズム』(Bannonism=バノン思想)はトランプ・ホワイトハウスに付着したままになるだろう」と指摘し、その理由を3つ挙げています。

一つは、バノン氏が首席戦略官としてホワイトハウス入りした時に連れてきた同僚がその後もホワイトハウスの中枢に残っているからです。

もっともその一人、英国生まれのハンガリー系アメリカ人のセバスチャン・ゴルカ大統領副補佐官は8月25日に辞任しました 。でも、もう一人のステファン・ミラー大統領補佐官兼上級顧問(政策担当)は依然として残っています。

ミラー氏大統領補佐官兼上級顧問は、トランプ大統領の首席スピーチライターでもあります。トランプ大統領の就任演説の草稿を書いたのは同氏でした。バノン氏が最も買っている保守派の若手イデオローグ(あるイデオロギーの創始者・唱導者)です。ホワイトハウス入りする前にはジェフ・セッションズ上院議員(現司法長官)の広報担当補佐官でした。イスラム圏諸国からの渡航者の一時入国禁止案をトランプ大統領に強く進言したのはミラー氏と言われています。

バノン、ゴルカ両氏が辞めても、政策担当上級顧問・補佐官と首席スピーチライターという重要な仕事を、バノン氏の「ブレーン」であるミラー氏に引き続き任せているわけです。バノン氏の考えはミラー氏を通じて逐一、トランプ大統領の耳に入ることになりそうです。

「シャーロッツビル騒乱後の「喧嘩両成敗」発言

第2の理由は、バノン氏が掲げてきた「反エリート主義、反イスラム主義、白人至上主義」の思想・信念はトランプ大統領の体内に浸透しきっているというもの。「分身」は、物理的にはいなくなっても精神的にはトランプ大統領の中で生き続けているというのですね。

米バージニア州シャーロッツビルで8月12日に騒乱が起こった直後、トランプ大統領は「喧嘩両成敗」的な発言をしました。そこに「バノンの体臭を感じる」というわけです。

トランプ大統領は8月25日、米アリゾナ州マリコパ郡の元保安官を恩赦にしました。人種差別主義者として批判されている人物です。主要メディアは白人至上主義を擁護するトランプ大統領のスタンスが一段と浮かび上がったと批判しています。

第3は、バノン氏が超保守派アルト・ライトの機関誌的存在「ブライトバート・ニュース」に戻ったことです。

バノン氏は前述のインタビューでこう語っています。「私はホワイハウスでは影響力(influence)を持っていた。ブライトバートでは権力(power)を持つ」

「私はイデオローグだ。だからホワイトハウスを追い出された。だが私は(トランプ大統領のための)支持母体を結集できる。私はトランプ大統領の後ろ盾だ。トランプ大統領が激しく攻撃されればされるほど、私と私の同僚たちはトランプ大統領をより強固に守る」

バノンが目論む「米メディア大革命」構想

—バノン氏は古巣「ブライトバート・ニュース」(*注)で何をしようとしているのですか。

*注:「オルト・ライト」のアンドリュー・ブライトバート氏(2012年逝去)が2007年に設立したオンラインメディア。ブライトバート氏の死後、バノン氏が会長兼務主筆を務めていた。16年の米大統領選では、トランプ陣営の別動隊の役割を演じた。

高濱:短期的には、バノン氏を追い出して主導権を握った「将軍トリオ」とこれを支持した穏健派ビジネスエリートに対する「報復」でしょう。穏健派ビジネスエリートにはクシュナー氏やティラーソン国務長官などが含まれています。

報復と言っても無論、物理的な行為ではありません。トランプ政権のよって立つ保守主義路線を彼らが修正するようなことがあれば、メディアを通じて徹底的に叩くことを意味します。返す刀で、医療保険制度改革(オバマケア)見直しや税制改革をめぐって党内をまとめきれずにいる共和党議会指導部も批判するでしょう。来年の中間選挙を見据えて、トランプ政権に批判的な議員の再選を阻むために個人攻撃も辞さないでしょう。

バノン氏は中期的目標として、ブライトバートをさらに拡大強化して世界規模のメディアにしようと考えているようです。バノン氏には、ボブ・マーサー氏というヘッジファンドで財を成した億万長者の支援者がおり、これまでもブライトバートに1000万ドル単位の資金を提供しています。バノン氏は辞める2日前にマーサー氏と数時間会談しています。バノン氏がこれから手を染めるプロジェクトへの資金面での支援について要請したことは間違いないでしょう。

その一方で、主要メディアに対抗する保守メディアの結集ももくろんでいるといわれています。ブライトバートが保守系テレビ局FOXニュースを吸収合併し、巨大な保守系テレビ媒体を形成する構想があるようです。FOXニュースのロジャー・エイルズ前会長(今年5月に逝去)と合併話をしていたといわれています。 (”Bannon plots Fox competitor, global expansion,” Jonathan Swan, www.axios.com., 8/19/2017)

リベラル派から「もっとも危険な政治仕掛け人」と恐れられたバノン氏がこれから何をし始めるのか、目が離せません。

ダイヤモンドオンライン記事

米国内政治の不透明感は一段と高まった

トランプ大統領は、バージニア州シャーロッツビルにおける白人至上主義団体と反対派の衝突について、「反対派にも責任がある」との見解を示した。その発言を受けて、政権内部をはじめ、さまざまな分野からの反発が出ている。

元々、米国は“人種のるつぼ”と言われ、多民族が共存する国家だ。その社会環境を考えると、人種差別は一種のタブーと言ってもよいだろう。今回、トランプ大統領は、そうした米国社会が持つ微妙な部分に抵触したともいえる。

それでなくてもトランプ大統領は、ロシアとの癒着疑惑や共和党との関係悪化などの問題を抱えている。米国内政治の先行きに関する不透明感は一段と高まったといえる。賭け屋のオッズ(掛け率)によると、2018年末までトランプ氏が大統領職に居続ける確率は60%程度まで低下しているという。

大手ヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏などの市場関係者からも、米国社会の亀裂が深まり政治は一段と混乱しやすくなったとの見方が示されている。ここへ来て、トランプ大統領を巡る風向きが微妙に変化しているのかもしれない。

トランプ政権への求心力低下につながる恐れ

米国の社会は多様な価値観を受け入れ、人々のアメリカンドリームを追い求めるアニマルスピリットを掻き立てることで成長を遂げてきた。

その意味では、多様性は米国社会のエネルギーの源泉の一つと言えるだろう。ITをはじめ、企業の経営者の顔ぶれを見てもその属性はさまざまだ。それゆえ、もともと米国では政治家などが差別を容認する姿勢を示すことは、社会的な禁忌(タブー)とされてきた。

今回のトランプ氏の発言の背景には、白人労働者など支持層への意識があったのだろう。しかし、差別を容認するようなスタンスは、米国社会の分裂につながる恐れがある。

ブッシュ(息子)政権以降、米国では一つの考え方に固執する一種の原理的な傾向が見られるように思う。前オバマ政権においては、かなり保守的な考え方を持つティーパーティー派の共和党議員の存在が鮮明化していた。

ティーパーティー派は当時の予算成立に反対し、米国の政府機関の一時閉鎖につながった。こうした動きを受けて、今回のトランプ大統領の差別容認姿勢は、米国社会の分断に拍車をかけることも懸念される。

今回、トランプ大統領の発言を受けて、複数の大手企業の経営者が大統領の助言組織の委員を辞任した。米国の経済界が、トランプ大統領への不信感を募らせていることは明らかだ。

政策の先行きに関する不透明感も高まる中、企業の採用や設備投資への意欲低下の懸念もある。金融市場がそうした変化を感じ取ると、株式市場を中心にリスク回避的な雰囲気が広がり、ドルが軟調に推移する展開は排除できない。

今回の件を受けて、トランプ陣営に残ったのは、事実上、家族と軍関係者、大手投資銀行ゴールドマン・サックスOBが主流になった。その中でも大統領が頼れる存在は娘のイバンカとその夫クシュナーの両氏であり、ますますインサイダー=内部者への依存が強まったとの揶揄もある。

トランプ政権の政権運営能力と今後の政権動向

トランプ大統領の政権運営能力を評価すると、歴代政権の中でも政策立案の遅れと利害対立が浮き彫りになってきた。今後もトランプ政権の政策運営は厳しい状況に直面することが予想される。ポイントは4つに分けられるだろう。

まず、政治任命=ポリティカルアポインティーが遅れている。トランプ政権下、上院の承認が必要な各省庁の幹部数は500を超える。8月上旬の時点で、承認されたポストは120程度だ。

歴代の政権の政治任命は、政権発足後の100日を過ぎたあたりから加速してきたが、現政権の任命は遅れに遅れているのが現状だ。この背景にはトランプ政権への不信感があるために、適切な候補者が見つからないことなどが影響している。

2点目は政権内部の対立の深刻化だ。問題は、それが今後も続くと考えられることだ。最終的にトランプ氏が信用できるのは家族だけと指摘する専門家は多い。軍関係者等との関係悪化や白人至上主義への傾倒が懸念されたバノン氏の更迭が、政権安定につながるとは考えづらい。トランプ大統領が”聞く耳”を持つとも考えづらい。側近同士だけでなく、大統領と側近の関係悪化も懸念され、ホワイトハウスの混乱が続く恐れがある。

3点目は、議会と大統領の関係悪化だ。現在、上下院では共和党が過半数を超える議席を確保している。にもかかわらず、トランプ大統領が改革の最優先課題として進めたオバマケアの代替法案は上院で否決された。

その上、トランプ大統領が南北戦争時代の南軍指導者の像を撤去することに反対したことを受けて、共和党内部からの非難は追加的に高まっている。トランプ氏は孤立し、議会との関係は一段とこじれることが懸念される。

4点目は、トランプ政権が掲げる経済対策の成立がより困難になったことだ。政権内部の混乱や議会との関係悪化から、税制改革が早期に成立し減税が行われる可能性は遠のいた。現在、米国経済の回復のモメンタム=勢いは徐々に弱まりつつあるとの見方も増えている。ポリティカルアポインティーが遅れ、政府の実務対応力が十分ではない中、景気減速のリスクは高まりやすくなる。それは、米国のみならず、わが国を始め世界経済にも-の影響を及ぼす可能性がある。

今後の米政権を巡るシナリオ注目すべきはトランプ大統領の鈍感力

北朝鮮問題に関する緊張感の高まりなどを受けて、多くの同盟国のトランプ大統領への信頼・信用はかなり低下したはずだ。それだけでなく、各国の産業界の中にも「トランプ氏には早い段階で辞めてほしい」との本音があるだろう。

もともとユダヤ系が多いウォールストリートでもゴールドマン・サックスを筆頭にトランプ批判が熾烈化している。トランプ氏がビジネスと国家間の交渉を明確に区別できていないことを考えると、そうした批判の声が高まるのはむしろ当然かもしれない。

ただ、トランプ氏が大統領の職を失うシナリオはそう簡単ではない。支持率の低さが指摘されて久しいが、同氏は低支持率をさほど気にしてはいないようだ。言い換えれば、鈍感だ。自らの発言が正しいと信じで疑わずに米国第一を主張し続け、大衆迎合的な政治の色合いが強くなる可能性がある。

そうなった時、共和党員がトランプ離れを起こすか否かが注目される。2018年11月には中間選挙がある。トランプ政権への危機感が共和党全体で共有されれば、トランプ離れが進むだろう。その結果、同氏は一段と“裸の王様”になるはずだ。米国民がこの状況を本当の意味で嫌い避けようとするなら、支持率低下から政権運営が困難となり、辞任に追い込まれる可能性は全くないわけではない。

最悪のシナリオは、支持率が低下する中で現在の政権が続くことだ。トランプ氏の当選は、米国第一の政治への期待が強いことを確認する機会となった。それゆえ、共和党の議員にとって、トランプ氏への批判を強めることは有権者からの反感につながる恐れがある。今のところ、共和党全体が大統領に“NO”を示す展開は考えづらい。

最も注目すべきはトランプ氏が持つ一種の鈍感力だ。同氏は、これまで何があっても、自分の責任というスタンスを取ったことがない。ということは、今後も同氏は、これまでと同じ行動を取り続ける可能性が高い。

トランプ政権が続く場合、米国に対抗して各国が自国中心の政策を重視し、世界的にポピュリズム的な政治が進む恐れもある。それは、国際社会の秩序を大きく混乱させる懸念がある。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)

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