両親が死んだ事故がきっかけて、一年に一度記憶がリセットされ、事故の日以降に起きた出来事を忘れてしまう女性。そんな彼女の前に現れた謎の男は、『一ヶ月デートして、自分の正体がわかるかどうか』という賭けを持ち出す。負けず嫌いな性格から、その賭けに応じた主人公だが…。

メフィスト賞受賞ということでチェックしたのですが、今までの受賞作品とはかなり毛色が違います。
ぶっ飛んだケレン味のない、記憶を主軸にしたラブストーリーという、どちらかというとメディアワークス文庫から出そうな作品(笑)
が、ミステリ要素もうまく組み込まれていて、伏線も丁寧なので、受賞には納得しました。

謎の男と主人公の関係が明かされる中盤までは、驚きはありますが、予想の範囲内だな、という印象。
これだけではパンチが弱いのですが、その先の展開は全く想像の範疇になく、『やられた!』と思いました。

難しい設定をうまく処理(説明)している点にも関心。一歩間違えば御都合主義に見えてしまういくつかの点(実際にそんな状況でうまくやり遂げられるのか、など)を、丁寧に貼った伏線がカバーしています。

ラストの締め方も『これしかない』と思えるもので、全体の満足度は高かったのですが、ただ一つ残念だったのが地の文のたどたどしさ。
主人公が趣味であるお城見物をするシーンの地の文で、『歴史のロマンを感じる』というあまりに陳腐な表現が使われていたりして、情景描写が苦手なのかな?、と感じました。
今どきのライト小説っぽい書きぶりではあるのですが、メフィスト賞作家は文章が上手いかつ面白い方が多いので、そこと比較してしまうと辛い。

もちろんストーリーは楽しめたのですが、過去のメフィスト賞とは明らかに対象読者が違う、『面白ければなんでもあり』というメフィスト賞のスタンスを示す、そんな作品でした。