「平社員シム・チャンミンの事件簿 後編」(開設半年記念)ユノ×チャンミンの短編
驚いている警備員に部長が事情を説明して、全員で再び犯人探しに乗り出した!
「チャンミン、どうだ?」
部長が言った。
「はい」
僕は曲げた片手を、口元にあてたもう一方の手の肘につけて考えているポーズを取った。
「事件を最初から、追っていきましょう」
僕達は、丁度真ん中のソンミンさんのデスクにろうそくを立てて、それぞれ自分の席に立った。
「僕とミノがユメオを見た時、ユメオは彼女のスカートをめくっていました」
ユメオの席のフィギュアを僕は指さした。
「勿論、彼は元気にめくっていましたが、僕はソンミンさんに言われて、またパソコンに向かいました。この時ユメオは、白いパンツをピンクのパンツに履きかえさせてたんだと思います」
全員が神妙な顔で頷く。
「そして、停電が起こりました。部長がバックアップを取っているかと言って、全員がそれに答えたと思います。犯行はその暗闇の中、それからテミンがろうそくを持って来て悲鳴を上げる前までに行われたと思います」
誰も何も言わない中、僕は続ける。
「部長が、嵐が来るな、と言ってましたが、あれは部長のデスクから聞こえて来たので部長はきっと違います。僕とミノは隣同士なので、お互い席を立てば気付くのでこれも違うでしょう。ソンミンさんも仕事を終えてデスクから部長に話しかけてたと思います」
僕が言い終えると、ミノと部長がテミンをちらっと見た。
「僕は違います!」
テミンが言う。
全員がテミンのはずがないと思っているけれど、証拠がなくて、みんな黙った。
すると。
「バックアップ……」
テミンが気づいたように呟いた。
「あの!バックアップの時間も一応調べてみませんか!」
テミンの言葉にミノが頷く。
「非常用バッテリーが少しなら使えると思います!」
「よし、一人ずつ行くぞ」
部長が言った。
僕達は全員のパソコンの手動バックアップの時間を調べた。
「なんてことだ……」
みんながユメオのパソコンの前で呆然とする。
ユメオだけ、バックアップが取れていない。
「でも全員が返事しましたよ」
僕が言った。
「お前は一人一人の声がちゃんと分かるか?」
部長が僕を見た。
そして、
「つまり誰か一人、ユメオの代わりに返事をした人間がいる」
と、続けて言った。
「だと、僕とミノとソンミンさんは違います。自分の隣と向かいの声くらいは分かる」
僕は部長に言った。
自然に、僕と部長とミノがまたテミンに向いた。
でも、
「違います」
と言う声の方に僕達は向き直した。
「俺は、テミンの声が分かります。テミンは確かにデスクから返事をしてました!」
ソンミンさんが、テミンを真っすぐ見つめながら言った。
テミンは少し目を潤ませている。
僕はソンミンさんに慰謝料請求と言う言葉が頭をよぎった。
「そうか」
部長はソンミンさんを信じた。けど、メンバー全員が信じた。
「ということは、俺達の中にはいない」
ミノが言った。
僕達は、ソファーの前に立っていた警備員の方を見た。
「え?いやいやいや!それはないでしょ」
首を横に振る彼に、僕達は近寄った。
「違います、違います!あ、どうしよう、参ったな!」
彼が後ずさった、その時!
警備員のトランシーバーに連絡が入った!
「はい、分かりました!」
警備員が僕達の方を向いた。
「皆さん、食堂で犯人確保です!」
犯人は凶悪な連続殺人犯で、数日前からこの山に潜伏していたらしい。
「社員じゃないのにここ最近カツカレー食べに来るから可笑しいと思ってたのよー」
おほほ、とキュヒョンさんが新作メニューを僕達に出しながら笑った。
キュヒョンさんが話しかけたら逃げ出したから、一本背負いをして捕まえたらしい。
問い詰めたら、侵入した僕達のフロアーでどうしても生理的に受け付けないものを見たから、やってやった、と言ったのだと言う。
「でもお金は払ってたけどねー、おほほ」
犯人はキュヒョンさんにぐるぐる巻きにされて、社長室に置かれている。
新作メニューは美味しいカツ丼だったけど、僕はやっぱりキュヒョンさんは男じゃないかと疑っている。
昼前に落石は取り除かれ、警察に犯人は連行されて行き、ユメオはみんなが涙する中、両親と共に検死医の元へ送られた。
そうして、みんなで外に出た。
「晴れたな」
ミノが眩しそうに手をかざして呟いた。
エントランスで並んでみんな空を見上げた。
「でも、僕のおかげで解決できましたね。このイケメン平社員」
シム、と言いかけようとして、ソンミンさんに肩に手を置かれた。
「お前、あんまり何もしてないぞ」
「お疲れ様です!」
警備員が自動ドアの前で敬礼した。
「本当にすいませんでした」
一夜明けてもスーツがばしっと決まっている部長が頭を下げて謝った。
「いえ!また人生ゲームしましょう!」
「あのー!みんなで写メ撮りませんかー!」
向こうでテミンがにこにこ笑って手を振っている。
「……それだと記念になってしまうのでは」
僕が顎に手を置いて首を傾げた横で、ソンミンさんが無言でテミンに向かって走って行った。
「じゃあ、ドンへさんも」
ネームプレートを見て部長が警備員に言った。
「じゃあ撮るわよーおほほ!」
キュヒョンさんがみんなの携帯電話のシャッターを押してくれた。
そうして凄惨な夜が幕を下ろした。
今でもあの恐ろしい事件を思い出すと僕はぶるっと震える。
「早く新入社員来ないかなー」
ミノが隣で呟く。
「可愛い女の子がいい」
僕が言う。
「おい、口じゃなくて手を動かせ」
ソンミンさんに言われて僕達はまたパソコンに向かった。
「今日は晴れるな」
ばしっとスーツが決まった部長が窓の外を見て強く頷く。
「お茶ですー」
テミンがにこにことみんなのデスクに置いて行った。
でも、
今夜二人きりで、部長に飲みに誘われていることも、
良く考えればあれに匹敵する恐ろしさではないのだろうかと、
僕、――イケメン平社員シム・チャンミンは、思っている。
『平社員シム・チャンミンの事件簿~開設半年記念』完