『 親権 』の喪失・停止について ~子ども本人も請求できます

親権

 

 

親権 とは?

しんけん【親権】
父母が未成年の子に対して持つ権利・義務。監護教育権・居住指定権・懲戒権・職業許可権など。

(明鏡国語辞典より)

 

子育ては親の権利ならびに義務です。

 

これを「親権」といい、民法818条1~3で規定されています。

 

民法818条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

 

親子関係に問題がなければ何の問題もないのですが、しばしばこの親権を濫用する親が現れます。
子への虐待をいうのがその最たる例で、子どもに暴力を振るったり、子どもを放置したりする親が増えているようです。
じつは、2012年(平成24年)に親の虐待から子を守るために、民法が改正されていまして、従来の「親権喪失」に加え、期限付きで親権を制限する「親権停止」の制度が創設されました。
平成24年の改正以前では、親権の濫用が起こった際に、虐待された子どもを守る手段として「親権喪失」という制度を利用するしかありませんでした。
しかし、これでは親権を無期限に奪ってしまうことになり、親子関係を再び取り戻すことができなくなる恐れがあるために、親の親権を制限したい場合でも、「親権喪失」の申立てはほとんど行われてきませんでした。
そこで、上記の民法改正となりました。
改正点の主な概要を書きますと、以下のようになります。

 

 

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親権喪失・停止に係る民法改正の概要

 

  • 親権の行使は「子の利益のために」であることを明記

第820条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

第822条 親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

 

  • 親権停止制度の創設と請求権を子ども本人や未成年後見人などにも拡大

親権停止制度とは、従来の『親権喪失』に加えて最長2年間、親権を停止できる制度です。

 

これは虐待をする親から子どもを一時的に引き離すことで、子どもを安全を確保した上で、虐待した親や家庭環境を改善し、再び親子関係を構築ができるようにというねらいです。

 

また、子ども本人も親権喪失などを家庭裁判所に請求できるようになりました。

 

(親権喪失の審判)
第834条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときはその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

(親権停止の審判)
第834条の2 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。

2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、2年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

(管理権喪失の審判)
第835条 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。

 

  • 『悪意の遺棄』とは、いわゆる養育放棄(子どもに食べ物を与えない、子どもに医療を受けさせないなどのネグレクト)を指します。

 

  • 「未成年後見人」とは、親権を行なう者がいないときや親権を行なう者に管理権がないときに家庭裁判所がその未成年者に対して選ぶ人のことです。個人だけでなく社会福祉法人などの法人、そして1人だけではなく複数の人を選任することができます。
    例えば、日常の子どもの世話は親族が行ない、遺産などの財産管理は専門家が行なうというように、役割を分担して未成年後見人の責務を果たすことが可能になります。

 

  • 「未成年後見監督人」とは、未成年後見人の事務を監督する人のことです。

 

  • 『管理権』とは、親権に含まれる子どもの財産を管理する権利(管理権)のことです。

 

 

子どもは『親の所有物』ではありません。

 

もし、虐待されている子どもを知っているのならば、すぐに児童相談所に連絡しましょう。

 

また、子ども本人も親権の喪失や停止を請求できるということを知っておきましょう。

 

 

児童虐待の定義

まず、児童虐待とは何かということですが、児童虐待は、『身体的虐待』、『心理的虐待』、『性的虐待』、『ネグレクト(いわゆる育児放棄)』の4つに大別できます。
詳細は、厚生労働省の『児童虐待の定義と現状』のページをご覧ください。

 

 

虐待されている子どもを見つけたとき

あなたの周辺で、児童虐待を受けていると思われる子どもを見つけたときは、近隣の市町村、児童相談所に通告しなければならないと法律で定められています。

 

(児童虐待に係る通告)
第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
『児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)』

 
児童相談所への連絡は、全国共通ダイヤル「189」を利用すれば近くの児童相談所につながります。なお、通告・相談は、匿名で行なうこともできますし、通告・相談をした人、その内容に関する秘密は守られます。

 
詳細は、厚生労働省の『児童相談所全国共通ダイヤルについて』のページをご覧ください。

 

 

親権停止の事例

 
平成24年~26年に全国の児童相談所長が行った親権停止の審判の申立てについての資料があります。

 

<全国の児童相談所長が行った親権停止の審判の申立て>

平成24年度

平成25年度

平成26年度

(いずれも厚生労働省の報道発表資料)

 

 

家庭内暴力ー被害者の保護と加害者へのケア

 
暴力の矛先が子供に向かうものが『児童虐待』、配偶者や内縁者、婚姻関係にない元配偶者や恋人などに向かうものが『ドメスティック・バイオレンス(DV)』、高齢者に向かうのが『高齢者虐待』です。

 
被害を受けておられる方に対する保護は大変に重要ですが、加害側にもその原因の一つに精神疾患等が認められる場合もあります。

 
最悪の結果を招かないためにも、被害者の安全を確保したうえで、加害者への精神的ケアがバランスよく機能することが求められます。