「おつ~!」
「カツーン!」
 ビールグラスの音が響きます。
 本日もカレンさんちの小さなバル開店です。
「のぞみくん。なんかもー、窓から見る雲。あれ、うろこ雲?高い空に悠々と。もう秋の空だねー」
「はい。もうすっかり秋ですね。カレンさん。で、今日のツマミはこれです」


「豚ヒレ?秋関係ないねー」
「あと、この前、使ったこれです」


「あ、クスクス!邪道の寿司に使ったヤツ!」
「邪道って…そんな言い方…」
「邪道じゃなかったら外道?もういいじゃん。で、どうすんの?クスクス」
「まず、豚ヒレを一口大に切ります」


「まー、ひとくちにしてはチト大きい気もしなくはないけど」
「塩、コショウ、小麦粉をまぶします」


「溶き卵にくぐらせて…」


「お湯でもどしたクスクスをまぶします」
「お、ここで出てきたかー!嘲笑野郎!」


「170度の油でキツネ色になるまで揚げます」
「アゲアゲね!」


「千切りキャベツをそえて『クスクス衣で一口ヒレカツ』の完成です」


「おー!つぶつぶー!うまそー!」
「お味はいかがですか?カレンさん」
「うん!これ!このヒレ肉!やわらかいわねー!クスクス衣がザクザクのバリバリ!クリスピーだから中の肉がパン粉の時より柔らかく感じるのかしら?ま、とにかくおもしろい!うんまいわ!これ!」
「それはよかった」
「そいやさ。のぞみくん。この前さ。わたし帰り遅かったじゃない?仕事で」
「はい。そうでしたね。ご苦労様です」
「駅からタクシー乗ったんだけどさ。タクシーの運ちゃんに言われたのよ」
「なにをです?」
「『あ、あそこのラーメン屋、改装しましたね。あそこ、おいしんですけど。お客さん、食べたことありますか?』って。わたしさ、ラーメンなんか食べないじゃん。のぞみくんに連れてかれるときぐらいしか食べないじゃん
「はい。そうですね」
「だから『わたしは食べたことないけど、うちのは食べたことあると思いますよ。ラーメン好きですから』って。そしたら『へえ、そうなんですか?ダンナさんが。じゃあ、好きなラーメン屋なんかどこですか?』って言われて、よくわからないから『大勝軒?』てテキトーに答えたら『大勝軒!東池袋の?』って運ちゃん。池袋にあるの?『大勝軒』」
「そこが本店です」
「そうなんだー。のぞみくんと一緒に食べた横浜の店が本店だと思ってたー。つーか、思ったんだけど、男の人ってラーメン好きよねー!異常なほど!長い行列ならんでまでさ!」
「最近は女性もいますよ。この前、『ラーメン二郎』三田本店に行ったら、モデルのような女性が二人ならんでました」
「お!また本店!のぞみくん。ラーメン屋の本店とか老舗巡りしたりするもんね。どこ行ったんだっけ?今まで」
「そうですね。さっきの『大勝軒』東池袋本店。『ラーメン二郎』三田本店。『中華そば青葉』の中野本店。『なんつッ亭』秦野本店。佐野ラーメンの『森田屋総本店』。和歌山ラーメンの『井出商店』。徳島ラーメンの『いのたに』本店。とか行ってますね」
「全部ひとりでね。地方も。なんだっけ?セイシュンエイティーンチケット?」
「『青春18きっぷ』です」
 ご存じのかたもいらっしゃると思いますが『青春18きっぷ』とは春夏冬休みシーズンに普通車の乗り降り自由になるJRのキップです。
「それでラーメンだけを食べに行ってるんだもんねー。遠いところまで。よーわからんわー。去年なんか京都のラーメン屋、老舗。なんてたっけ?」
「『本家第一旭たかばし』本店と『新福菜館』本店です」
「それ、高熱出して行けなくなったんだもんね。扁桃腺炎で」
「はい。それがもう残念で…残念で…」
「ラーメン食べるだけに京都行くようなモンにバチが当たったんじゃないの?それ」
「そんなセッショウな…」
「ともかくさー!わたしに言わせるとさー!ラーメンなんぞは、わざわざ食べに行くもんじゃないと思うわけよ。『しょうがないからラーメンでも食べようか』ってレベル。それがなに?最近のラーメンはさ!お高くとまっちゃて値段も高くてさ。千円ぐらいしたりするじゃない?」
「はい。全部盛りとか千円しますね」
「千円するんだったら、ランチ食べた方がマシ!」
「はあ。ぼくはラーメンの方がいいですね」
「でもさ!好きなのはいいけどさ!高カロリー!高脂肪!高炭水化物!高塩分食べ過ぎはキンモツよ!」
「はい。ぼくも以前よりか頻繁には行ってないですね」
「そう!自覚してるんならよろしい!じゃ、本店でも老舗でも、どこでも巡っちゃいなさいよ。悪い趣味じゃないし。けど、そこそこ控えめでね」
「ですね」


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