『悪魔の集う家』

                           とっきーさっきー:作

第15話 淫獄の幕開け

 メモに記された運命の日は、それから3日経って訪れた。
再びあの応接室に呼ばれたわたしと孝太は、お義母さんから儀式の中身を教えられた。

 まるでデジャビュのようにお義父さんと並んで座って、相変わらずワイングラスを
片手に掲げて。
お義母さんは、ねっとりとした口調で焦らすように話しかけてきた。
わたし達の怯える表情を愉むために。
哀しみに暮れる表情に
悦を感じ取るために。
だってこの人達は、悪魔の一員だから。

 「お前たち、分かっておいでだね。今度バカなことをしたら、鞭でなめす程度じゃ
済まないからね」
「は、はい……もう逃げたりしません。お義母さんの言われた通りに……せ、セック
スします」

 「ぼ、僕もです。お義母さん。ふ、筆おろしのこと……よろしくお願いします」
顔を真っ赤にして見せて、恥じらいも浮かべて、わたしと孝太は俯き加減で返事をし
た。
その顔と仕草にニンマリとする二人連れに、わたしは絨毯をキッと睨みつけて胸の中
でだけ毒づいていた。

 (これで満足なんでしょ! 自分達の子供に引き取った娘と息子を辱めていたぶっ
て、それがアナタ達には快感なんでしょ!)
言ってあげた。でも届いてなんかいない。

 だって今のわたしに出来るのはこれくらいだから。
遥香のバージンだけじゃない。孝太の初めてまで奪おうとする悪魔達には、口で言い
返したって無駄だって負け惜しみを込めて思うから。

 容赦なく時計の針は回転して、辺りは暗闇に包まれる。
きっと忘れられない運命の時間が迫っていた。

 いったい、何人くらい集まっているんだろう?
わたしはステージの袖から顔を覗かせて、ざわついている大広間を探った。
そして、見なければ良かったって後悔した。

 この屋敷に、料亭のような大広間まであるのも驚き。
だけど、ざっと見まわしただけでも50人はいる男の人の集団にはもっと驚かされて
いた。
平凡なサラリーマン風の中年男性から、ぱりっとスーツを着込んだ白髪混じりのダン
ディーなおじさんまで。

 お義母さんの話によると、お医者様にお役所の偉い人。選挙で選ばれた人に、ふざ
けないでよ! 学校の校長先生まで。
みんな、市川家のビジネスに協力してもらうために招待しているって。

 そんな責任のある肩書を持った人達なのに、みんな揃って座布団の上で胡坐座りし
て。
一段高いステージでまもなく始まるショーに、期待する視線を集中させて。

 「孝ちゃん、お尻はまだ痛むの?」
「うん……ちょっとね。だいぶ、マシになったけど……」
うんざりして顔を引っ込めたわたしは、さり気なく聞いたつもりだった。
でも頭の中は、これからのことでパンクしそうなくらい張り詰めている。
たぶんそれは、孝太も同じだと思う。

 まさか遥香の初エッチが、男の人と二人っきりの個室から見せモノみたいなショー
タイムに変身するなんて。
それも、わたしが意気地なしだったために、孝太まで巻き込んで一緒にセックスショ
ーをさせられるなんて。

 『ごめんね』の単語は封印したつもり。
でもね、頭の中では連呼し続けているの。
孝太のお相手をしてくれる皐月さんにも『ごめんね、孝太を頼みます』って、お詫び
とお願いを続けているの。
今だってずっと……

 「え~っ、皆様、大変長らくお待たせしました。ただいまより市川家主催、夜の宴
を開催いたします」
わたしと孝太を掴まえた今川っていう男の人が、ステージの上で挨拶を始めた。
まるでマジシャンのような白いタキシードに身を包んで、右手をステージの脇に向け
る。

 「ほら、弥生、皐月出番よ。少しでもミスしたらお仕置きが待っているからね!」
SMの女王様のように、ボンデージ衣装を身に着けたお義母さんが、弥生さんと皐月
さんを軽く睨んで薄く笑った。
わたしと孝太に恥ずかしい綱引きをさせた同じ表情で。
露出気味な衣装から鼻に突く香水臭を漂わせて。
白い肌を晒した彼女達をステージの中央へと追い立てていく。

 その途端、「おぉぅーっ!」って喚声が湧き上がった。
孝太がそのどよめきに顔を向けようとして、わたしが手を引いて牽制する。

 「まず登場いただいたのは、市川家メイドでありながら、性処理接待も受け持つ美
しき姉妹。弥生嬢と皐月嬢にございます。え~っ、本日ご参加された殿方の何人かは、
既に夜の性奉仕などでお見知りおきかと存じますが……」

 今川の媚びた物言いの説明に、ほくそ笑む男達。
でも、並んで立たされている弥生さんと皐月さんは、身動きひとつさえ許されていな
い。
ビキニと呼んでいいのか分からない卑猥な水着姿のまま、両手を頭の後ろで組んで惨
めなポーズを取らされている。

 弥生さんはピンク色。
皐月さんは水色。
彼女達が身に着けているのは、乳首だけを辛うじて隠している紐のようなブラジャー。
それに大切な割れ目にもお尻の割れ目にも深くきつく喰い込んだ、やっぱり紐にしか
見えない恥ずかしすぎるショーツ。

 きっと海辺で男を漁っているエッチなお姉さんでも、こんな格好を見たら赤面する
と思う。
でも弥生さんも皐月さんも、好き好んでこんな姿を晒しているわけじゃない。
たぶんわたし達と一緒。理不尽な脅迫を受けて参加させられているんだ。こんな淫ら
なショータイムに。

 「それでは今夜のメインディッシュの前に前菜と致しまして、息の合った姉妹によ
るレズ&セックスショーをお見せ致します。弥生、皐月、お客様にご挨拶を」

 今川の紹介に、弥生さんと皐月さんが目と目を合わせた。
捕虜にされた兵隊さんみたいに両手は頭の後ろにひっ付けたまま、1歩2歩と前に進
んで今川の横に並んだ。
ほっぺたを赤く染めて両目を哀しく泳がせたまま、口の周りの表情筋だけ緩める。
立っているだけでも淫らなのに、腰を左右にくねらせながら唇を開いた。

 「皆様、初めまして。市川家で性処理接待をしています弥生、20才です」
「同じく性処理接待をしている皐月、17才です」
「今から私達が愛し合っているところをお見せしますので、皆様もどうかオチ○チン
を扱きながら観賞してくださいね」

 「皐月も弥生お姉ちゃんも、オマ○コをいっぱい濡らしてエッチしますから期待し
てくださいね」
弥生さんのしっとりした口調が途切れると、バトンタッチするように愛くるしい皐月
さんの声が続いた。

 女の子が口にしてはいけない単語も、戸惑いなんか見せたりしない。
弥生さんも皐月さんも、ちょっぴり艶めかしい表情まで作ってサービスしている。

 だからって彼女達が淫乱なわけない。
だって遥香は知っているもの。
わたしの隣でSMの女王様気取りのお義母さんが、腕組みして監視しているから。