【大河ドラマ「おんな城主直虎」総評(後編)Part1 前回のまとめと新年の抱負】
あけましておめでとうございます!!!
今年もよろしくお願いします。
2018年最初のエントリーは去年最後のエントリーに引き続き、「おんな城主直虎」総評後編にします!
ドラマ本編の楽しい話の前に、最初はちょっとだけこむつかしい話を。
前回長々と書き連ねた内容から考えをまとめると、
・情報化ポスト真実時代のインタラクティブな歴史メタドラマという新ジャンルが生まれた
・名作や定説をなぞって「真実」を演出する一方通行型ではなく、史実に興味を感じさせる創作ドラマだった
・伝統的な「英雄一代記」型ではなく、「負け犬」たちの一生懸命の人生が、井伊直政の誕生に結実した本当の意味での「大河ドラマ」の名作だった
・次に起こることを想像できる有名主人公の伝統的大河ファンとは別のファンを開拓した
・「大河とはこういうもの」「本能寺は燃えるもの」という時代劇型視聴者にはつらかった
・超無名主人公や歴史の知られざる側面を「発掘」するパターンの鉱脈ができた
ぐらいになると思います。
伝統的大河ドラマは、マスメディア時代の映像ドラマでした。
専門家が独占する「真実」を大衆=「マス」に一方的に放映する。
観客はお茶の間や劇場で視聴し、口コミや投稿くらいしか感想を伝える場所がない。
フィードバックの方法は視聴率や興行収入と、マスメディアを通じた専門家の批評でした。
これに対し、情報化が進んだ現代はインタラクティブなナローメディアの時代です。
情報化時代は「ポスト真実」の時代です。
科学論や哲学の世界では「真実」という言葉は100年以上前に否定されてましたが(例えばニーチェやマックス・ウェーバー)、最近メディアでも「ポスト真実」という言葉で(再)認識されました。
「ポスト真実」の時代にはマスメディアが「真実」「定説」の装いで示す情報を大衆=「マス」がおとなしく受け取ってくれない。
メディアが提示する情報に受け手がネットでほぼライブで反応し、検証するので、マスメディア側もうかうかしていられない。
悪評での炎上も、好評も短期間に広まるので、悪評が広まった作品は「大コケ」「大爆死」するし、無名だった予想外の作品が大ヒットすることもある。
そして、メディア側はナローメディア時代の多様化した視聴者にうまくマーケティングできないで苦しむ。
ナローメディアというのは、一般大衆向けに広く「ブロードキャスト」するマスメディアではなく、時代劇とか、アニメとか、特定のファンに狭く「ナローキャスト」するメディアです。
見たいものだけを見たい時に見られる時代なので、視聴者の好みや関心も多様化していて、「国民的」作品や大ヒットは作りにくくなる。
中小メディアも特定のファンに的を絞ったナローキャストを行ってメディアも視聴者も多様化を進めるので、
トップのメディアがじり貧になり、
「ロングテイル」=多様な好みで分散した需要が発生する。
そこでトップのメディアの制作者が丁寧にマーケケット調査せず、自分の狭い経験やカンで
「好きなんでしょ、こういうの」(自分もロングテイルの一部という自覚がない)
という上から目線で
「幕末男子の育て方」とか「イケメンそろえました」
とかやると炎上するし、視聴率も下がる。
とってつけたような「戦はいやでございます」とか「大奥編」は冷ややかな反応しか得られない。
そこでアイドル投入とか脚本家三人体制とか一時しのぎの対応をするけれど、空振りが続く。
「花燃ゆ」はまさにそんな上から目線の大手メディアが空振りを繰り返した典型例でした。
「おんな城主直虎」はこれが逆に働きました。
ポスト真実時代のナローメディアとかみあって、インタラクティブな歴史メタドラマとして成功を収めたのです。
多様化したファンが様々な角度からドラマの感想をツイッターなどでライブ配信し、よく作りこまれた内容を多面的に鑑賞できる。
歴史ファンの検証もあれば、龍雲映像やにゃんけい映像もあり、書状の文面や形式の画像をアップして分析する人もいて、「直虎」のコンテンツを様々に楽しみつつ、新たな知識も学べてしまう。
そういう様々なコンテンツを有志がまとめサイトで公開して番組の魅力を伝え、制作側も政次人気に対応してCDを特別刊行する。
「直虎」によって、大河ドラマは一方通行のマスメディアから、視聴者参加型の双方向の知的エンターテインメントに進化しました。
大河ドラマは元から舞台となる地域に経済効果をもたらし、関連本出版を後押ししてきましたが、今回の場合、零細コンテンツだった戦国時代の井伊氏の歴史探求を加速させました。
大河ドラマ「直虎」のおかげで多くの研究が出版されました。
それだけではありません。
直虎の一生をドラマ化する事で、研究者たちが戦国時代の井伊氏について様々な切り口から考えるきっかけをくれたとも思います。
これは直虎の事績の空白を埋めるためのケガの功名かもしれませんが、戦国時代の国衆と領民の生活といった社会経済史的側面も大きく取り上げられました。
竜宮小僧やえっしゅうの「信長の子」伝承を取り込んだのも、斬新でした。
歴史的大事件や合戦ばかりだった大河ドラマにはない新しい歴史の切り口も見せてくれたと思います。
既存の研究や名作に乗っかってきた今までの大河ドラマとは違い、「直虎」は静岡県の研究者を中心とした研究を促進するきっかけとなるでしょう。
これはすごいことですよ!!!
「直虎」の視聴率は、伝統的コンテンツに思い入れがある固定ファン層がいないことによるハンデが大きかったですが、
逆に途方もない鉱脈となる新ジャンルを探り当てたとも言えます。
日本中にある「直虎」のような零細コンテンツをこうやって「発掘」し、丁寧にドラマ化すればこのくらいの視聴率が得られるし、既存の研究をなぞるだけでなく、それを活性化できるんです!
これで大河ドラマはあと数十年は戦える・・・(どっかの大佐風)
以上、大河ドラマ「直虎」の理念的総括でした。
・・・って総評でこういうことをやりたかったんじゃない!!!
井伊直虎「野良」研究者として、視聴者として、
「おんな城主直虎」の筋書きを追って、その面白さのあれやこれや
を書きたかったんですが、「直虎」には大河ドラマ史上の特別な意義があるように思えてならなかったので、こんなに考えて書いちゃいました。(^^;)
今日はこれまで!
次回からは第一回からのドラマの内容をおさらいし、評価を加えつつ、
井伊直虎「野良」研究者として考えた事や「直虎」の魅力について書いていきます。
【おまけ:サガラさん2018年新年の抱負】
今年は、
☆彡 何よりも今川氏真評伝を完成させる!
☆彡 「直虎」続編「NHK歴史ドラマ井伊直政」のアイデア集を書く!
☆彡 大河をおさらいしつつ「野良」研究「井伊直虎の不都合な真実」をまとめる
☆彡 大河ドラマ「西郷どん」を見つつ、サガラさんつながりで相楽総三を「野良」研究
☆彡 古いコーエーゲームができないので、エクセルでお手軽ゲーム「今川の野望」を作る!
☆彡 「西郷どん」つながりでエクセルでお手軽ゲーム「幕末維新」を作る!
☆彡 DB、ジョジョ、刀剣男子を混ぜたような厨二古典「田村三代記」を脚本化する!
今年も頑張りますので応援よろしくお願いします!