語り継ぐもの5
つまり私の考えは、咲良さんの茶碗を追う一味と、駒鳥を忘れるなとメッセージを送ってきた人物は同一ではない。全く別の人物ではないだろうか、ということである。たまたま時期が重なったのではないだろうか。
しかしそうであれば誰が一体、なんのためなのか。そこで堂々巡りになってしまう。
――お前たちの罪を忘れるな。お前たちがしてしまったことを忘れるな――とリフレインするように、何度も何度も囁きかける「忘れるな、忘れるな、忘れてくれるな」という想い。
そしてそれは娘たちの霊ではなく、生きている人間が考えることのような気がしてならない。
語り継げ。自分たちの罪を語り継げ。決してお前たちの心を平安にはさせない。どこかに――心のどこかに自分の心の暗闇を、ずるさを認めておけ。後ろめたさを感じ続けていろ。お前たちの罪は法で量れるものではないのだ。
だからこそ重いのだ。そのことを決して忘れるな。
「私は」決して許さない。お前たちがのうのうと幸せになることを「私は」決して認めない。「忘れること」を「私は」許さない。
そのようなメッセージが「Who Killed Cock Robin?」から感じざるを得ない。私はそう二人に話した。それがここ最近、ずっと心に引っかかっていたことである。
「……どこかで、もがいている人がいるかも、ということですか?」
しばらくの沈黙の後でふたばが口を開いた。
「――前の私みたいに、人に話すこともできなくて、でも心にべったりとこびりついている苦しみを背負っている人がいるってことですか?」
博打と酒に溺れ、幼い娘を施設の玄関に捨てていき、そのくせその娘が働けるようになったら今度は金をせびり続け、どこかに身を隠しては巧妙に行方を突き止めては現れたというふたばの義父の話を打ち明けられたとき、私とひなこは彼女を抱きしめて号泣した。
そのときにふたばは語ったのだ。一緒に泣きながら、私とひなこに縋りながら。
「なんだか心がふっと軽くなった。誰かが一緒に泣いてくれるってこんなにも楽になれるんですね」
そのとき三人で見上げた夕焼けの空を私たちは一生忘れることはないだろう。それは家族以上に一つになれた瞬間だったからだ。
誰かが一緒に泣いてくれる、笑ってくれる――その温もりで心が一杯になった日なのであった。
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