風呂から上がって居室に行ったら
和也は母ちゃんの夕餉の準備を手伝ってた。
お膳の上に白飯とか焼き魚、煮物を
配膳する和也・・・

母「ほら、智もぼけっと突っ立ってないで
  手伝いなさい。」

智「あっ・・・うん・・・」

我が家は4人家族だけど
住み込みの道場の弟子が3人居るから
母ちゃん1人では何時も大変だから
弟子が賄いを手伝ってるんだけど
今日は和也もその中に混じって
当たり前みたいに手伝わされてた。

夕餉の準備が終わり、
俺と和也は隣同士にお膳の前に座った。

和「智んちは賑やかだね。」

智「ああ。道場やってるからね。」

父「それじゃ、頂こうか・・・」

親父のひと言で夕餉が始まった。

和「頂きまーす。」

父「和也とやらは、前髪を落としておらぬが
  元服はとうに過ぎているのだろう?」

母「父さん、和ちゃんは役者さんなんだよ。
  そういう儀式は役者には関係ないわよね。」

父「折角我が家に来たのだから
  剣を学んではどうだ?」

和「えっ?私がですか?」

父「智、おまえが稽古をつけてあげなさい。」

智「ええ?和に剣は無理だよ。」

父「剣術を身につけて損はなかろう?
  折角なのだから、教えてやりなさい。」

智「だ、大丈夫かな・・・」

和「宜しくお願いします。」

智「ほ、本当に?」

和「だって、ほら、女の子も道場に来てるんでしょ?
  それなら俺にだって出来るでしょ。」

まただ。その含みのある物の言い方・・・。
茜のこと言ってやがる。
和也が飯を頬張りながら
愉快そうにニヤニヤと笑ってる。

母「芝居続けながらだし、稽古なんて 
  無理しなくていいのよ。」

和「はい。でも大丈夫ですよ。」

母「まあ、何か打ち込んでた方が
  気は紛れるだろうけど・・・
  うちに居るからと気を遣う事ないからね。」

和「ご馳走様でした。おばさんの料理はどれも
  美味いですね。」

母「あら、そう?良かったわ。
  お替りは?」

和「もう、お腹いっぱいです。」

母「そう?それじゃ、智、和ちゃんの部屋に
  床を準備してあげなさいな。」

智「うん・・・。和、布団を取りに行くから
  着いて来て。」


俺は和也を連れて客用の布団を取りに
客室へ向かった。
俺は敷布団、和也は掛け布団と枕を
そこから取り出して和也の部屋に運んだ。

智「ねえ?本当に剣の稽古するの?」

和「うん・・・おじさんも言ってたけど
  剣術は芝居にも役に立つからね。」

智「大丈夫かなぁ・・・」

和「大丈夫って?あっ、もしかして
  俺が邪魔するとでも思ってる?」

智「はぁ?邪魔って何のだよ?」

和「茜ちゃんの(笑)」

智「もう、いい加減にしてよ。
  彼女はお弟子さんの1人なだけだよ。」

和「フフフッ・・・まあ、あなたはそうかも
  しんないけどね・・・明日、来るんだよね?
  茜ちゃん・・・」

智「さあね・・・」

和「俺も明日から稽古に出るから
  宜しくね・・・」

智「もぉ~ほんと、勘弁してよぉ」

和「何でだよ?俺はただ稽古に出るって
  言ってるだけだよ?
  そんな困った顔見せると、余計に
  怪しく思われますよ。」

智「べ、べつに困ってねえし・・・」

和「それなら何も問題ないよね?
  じゃ、明日から宜しくね。
  あ、布団有難う。も、1人で大丈夫ですから。」

そう言って和也は俺を部屋から追い出した。
本当は、まだもう少し話したかったのに・・・
気丈に振舞ってはいるけど
昼間は俺の胸で号泣してたわけだから
本当はまだまだ辛い筈なんだ。

仏壇に向かって呆然としてた和也、
まるで魂を抜かれたみたいな
寂しげな後姿が、まだ俺の脳裏に
ハッキリと焼きついて離れなくて
俺はその夜、なかなか寝付くことが出来なかった。






つづく




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